完璧なあなた

藍音

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2XXX年、我が国の政府は80歳以下の死者の「よみがえり」を合法化した。
これ以上の人口減少を防ぐためだ。
また、愛する人を失った者に対してのケアとしても「よみがえり」は重要な政策として推進された。
自暴自棄による犯罪抑止や、精神的な落ち込みによる医療費の削減にも効果があるとの研究結果が金科玉条のように掲げられ、あちこちで「よみがえり」が実践されるようになったのだ。

TVでもネットでも「よみがえった」俳優やタレントが白い歯を見せながら、「よみがえり」の素晴らしさを絶賛している。「よみがえり」の夫を持つ妻の手記がベストセラーになり、国民の涙を誘った。
最初は不気味な新技術として始まった「よみがえり」は、世の中から死別の概念を無くした画期的な発明として褒め称えられるようになっていった。
いつしか反対意見は少数派となり、圧殺されるようになっていった。
この国の同調圧力は健在だ。

アプリを使って申請すれば、「あなたの愛する人は、はい簡単に蘇りますよ」
悪趣味な冗談としか思えない。
ただ、もしかして本当にそんなことがありうるのだろうか。

そんなある日、数年前から重い病にかかっていた僕の愛する彼女は死んだ。
あっさりと。
覚悟しててね、と笑っていた彼女に、そんな覚悟できるわけないと返した僕。
でも、僕の大切な彼女は、晴れた夏の日に眠るように去っていった。

生前の彼女は僕に言い聞かせるように言っていた。
必ず、蘇らせてね、と。
その方法はベッドの脇の引き出しに入っている水色の紙に全部書いておいたから、忘れないで、と。
悪趣味な冗談としか思えない。
でも、ぼくに「よみがえり」を伝える彼女の目は真剣そのものだった。
じっと僕の目を見て、まっすぐに目を逸らさずに「お願い」という彼女に「わかった」以外の言葉を言えただろうか。

彼女が僕の腕の中で息を引き取ったとき、僕の中のなにかが音を立てて崩れた。
愛する彼女。彼女を愛する僕。
大切な、大切な人。

でも、「よみがえり」を望む彼女に聞きたいことがあった。

「ねえ、よみがえってくる君は誰?」

僕が愛していたのは、君の外見だけじゃない。
何よりも、きみの「こころ」を愛してた。
「よみがえり」で機械の体を与えられた君の心はよみがえるの?
君の魂は、いったい、どこにいくの?

君の愛は、どうやって、蘇らせるの?




東国のどこかで開発されたその技術は、地下組織に買われ、長く秘匿されていた。

生きていた人間の細胞を使って、機械とのハイブリッドを作り上げる。
筋肉や関節は機械の力を使って強化されるので、強靭な肉体が作られる。
それなのに見た目は元どおり。年をとることもない。
食事をとる。入浴もする。睡眠すらとる。

もちろん小さな細胞から体を作り出すのは難しい。
できるとしても長い時間がかかり、さらに出来上がった存在が元の人格とはまるで違う性格になる事件が多発しトラブルになった。

このため、元の人間に近い存在を作り出すための技術が開発された。

それは、脳が入っている人間の首から上、つまり「生首」を使うこと。

「よみがえり」を希望するものは遺体の腐敗が進む前に首を切り、ラボに送り届けなければならない。
もちろん、事前にアプリでの申請は必須だ。

生きていた彼女を再現するためには、彼女の首を切り落とす必要がある。
そしてその作業は、極めて非科学的なことに、よみがえった相手から「愛されたい者」がやる必要があった。
よみがえった存在は、新しい命を与えた存在を無条件に好む傾向が顕著だったからだ。
それは、まるでひなの刷り込みのように。

「だーいじょーぶ!もう死んでるから血も噴き出しませんよ!ご安心ください!!」
アプリの中で、カエルの形をしたキャラクターが陽気に説明している。
「ヨミガエルくん」という名のそいつは、明るく優しく、人を蘇らせる方法をPRする政府公認キャラクターってやつだ。

「愛する人を蘇らせたい?もちろんOK!!まずはアプリをインストール。それから鋭利な刃物を買いに行こう。出刃包丁を持っていたら、それでも良いんだよ。あとは、ブルーシートを買いましょう。ホームセンターで売ってるよ。防水タイプがオススメ!人間よりもひとまわり大きいぐらいのサイズ感だと良いね。」

「それから?簡単だよ。愛する人をブルーシートの中央に寝かせましょう。周囲を汚さないように気をつけよう。そうそう、その時の服装は必ず汚れてもいい、洗える服を着ましょう。そして、あなたの愛する人の首筋にさっき買ったばかりの刃物を当てて一気に‥‥‥」
「やめろおおおお!!!」

僕は思わず大声で怒鳴り、携帯を投げつけた。
愛する人の体を傷つけられるわけがない!
僕の大事な彼女になんてことをさせようとするんだ。

こいつらみんな狂ってる。

僕は彼女の「よみがえり」を申請しないことにした。
そんなこと、できるはずがない。

愛する人を毎日共に眠っていたベッドに寝かせ、布団をかけてやる。
そして、白い錠剤を数粒含むと、コップの水で喉の奥に流し込んだ。
彼女が亡くなってから1分たりとも僕に眠りは訪れなかったから。

彼女の身にそっと寄り添いながら横たわる。

「愛してるよ」

冷たくなった唇に口付けた。その口づけは、甘やかな思い出の香りがした。
耳に残る彼女の笑い声。清潔な石鹸のにおい。

「永遠に一緒だ」

そう言って、硬く目を閉じた。願わくば、このまま永遠に。
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