5月の雨の、その先に

藍音

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第九話 天使が現れた

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「つつしんでご紹介いたします。まずは、一番左」

顔じゅうにそばかすがある茶色の髪の少年が立ち上がった。

「ラファエル様にお仕えします」

少年が頭を下げ、ラファエルがうなずいた。

「次!」

そのとなりの少年が立ち上がった。

「カリナ様にお仕えいたします」
「えっ!いやよ。あの子がいい」

カリナはリオを指さした。

「あの子に変えて」
「カリナ様。もう少々お待ちください。ご要望はアウレリオさまから順に伺います」
「なんですって!」

カリナが真っ赤に頬を染めて椅子から立ち上がると、アウレリオが右の人差し指を軽く振った。

「ごほん。それでは先に進めさせていただきます」

立ち上がったままのカリナを無視して先が続けられ、カリナは頬を膨らませたまま元の椅子に座った。

「次!」リオが立ち上がった。

マリアがはっと息を飲み、カリナがマリアをにらみつけた。

「マリア様にお仕えいたします」

マリアが頬をピンク色に染め、ちいさくうなずいた。

「次!」また別の少年が立ち上がり、イサーク、そしてアウレリオへと次々に新しい従者見習いが紹介され、ふたりともうなずいたため、担当の少年が決まった。

「皆様の同意がいただけましたので・・・」
「いやよ!いやよ!なんでお姉様ばっかり!私だってきれいなお人形がほしいわ!あの子がいい!だっていちばんきれいな子だもの!」

カリナがリオを指さして地団駄を踏んだ。

「いつだってそう!お姉様ばっかり!いつも一番いいドレスもお菓子もお姉様ばっかり!」
「おやめなさい、カリナ。みっともない。そういうところがだめなのよ」

マリアが笑いをこらえながら言い、カリナは余計に腹がたった。床にひっくり返って手足をバタバタさせ、「いや!いや!いや!かわいいお人形がいいの!がまんなんてできない!」とわんわん大声で泣き出した。

「ばかだなあ。人間だよ。人形遊びの道具と見分けがつかないのかよ」

イサークがつぶやき、他の兄弟達は呆れたようにそっぽを向いた。誰もカリナを止めようとしない。


反対側でその様子を見ている少年たちは、皆困ったように顔を見合わせ、カリナ付きを命じられた少年だけが青くなってブルブルと震えていた。こんな癇癪持ちの主人に仕えるなんて、嫌な予感しかしない。しかも、もうすでに嫌われている・・・

「あの・・・ぼく・・・」

動揺した少年が一歩下がろうとした。
窓際にいた使用人が少年を止めるため前に出ようとしたが、腕章の金具が窓覆いをまとめる紐にひっかかってしまった。それを外そうと紐を強く引いたところ、西日を避けるために窓にかけられていた薄布が音もなく滑り落ちた。

「あっ・・・!」

強い日差しが部屋に差し込み、少年たちがいる部屋全体を明るく照らした。

「まぶしい・・・」

少年たちが陽射しをさけるため手のひらを瞳の上にかざす。
リオもまぶしさに目を細めた。

その瞬間。

ガタン!

アウレリオが椅子を蹴って立ち上がった。

(まさか・・・)

「ア、アウレリオさま?」

声も出ないほど驚いている侍従長の声を背に、アウレリオは自分たちがいる部屋の段差から飛び降り、リオの眼の前に立った。そのまま無言でリオのあごに手をかけ、ぐいっと自分の方を向かせる。

「お前・・・」




「て、てんし?」

陽射しのまぶしさに目を細めた次に瞬間、天使が現れ視界が金色に染まった。

(ほんとうにいるんだ。俺、死んじゃったのかな。いつのまに・・・)

あまりに驚いて目をまたたいても、まだ天使がいる。
少し険しい顔つきの天使の髪は、陽の光を受け乱反射するように輝き、神々しさを増している。
何より美しいのは、金色に輝くその瞳だった。

こんなに美しいものがこの世にあるのかと、ぽかんと口をあけたまま見ていると、天使がリオの腕をぐいっとつかんだ。痛みさえここちよい。

「なんでぇ?天国に行けるの?俺」思わずまぬけな声が出た。


「控えなさい」侍従長の冷静な声がリオをハッとさせた。
その瞬間、天使の瞳が空を映したような青に変わった。

(え?目の色が変わった?そんなこと、あるの?)

動揺するリオの横で侍従長が冷静に続けた。

「この方はアウレリオ・リカルド様だ。この伯爵領の跡取りでいらっしゃる。面を下げなさい」
「えっ?」

何がなんだかわからない。
お城に来て、お仕えする方に対面していたはずなのに、女の子が泣いて騒いで、天使が現れて。

「あ、あ、あのすみません」

リオは慌てて頭を下げた。

「よい。顔を見せろ」アウレリオが告げ、リオが戸惑うと、侍従長が「言われたとおりに」と鋭く命令した。
「は、はい」慌てて顔を上げる。


アウレリオは、眼の前の少年の目をじっとのぞきこんだ。

(見間違いか?さっきは確かに金色の瞳に見えたんだが・・・かん違いか?平民と聞いたし、まさか)

だが、よくのぞき込んでも、先程とはちがい、金色には見えなかった。

(ハシバミ色の瞳・・・緑と茶が混じった・・・だが、金ではない)

アウレリオはリオの腕を離した。

「侍従長」
「はい」
「この者を私付きに」
「かしこまりました」
「用は済んだな」
「はっ」

アウレリオはもう一度リオをちらりと見ると、無言で部屋から出ていった。


「一体何が・・・」イサークがつぶやいた。「あんなに慌てた兄上初めて見た・・・」
「ひ、ひどい、オロお兄様」マリアが両手に顔を埋めワッと泣き出した。
「ふ、ふん。仕方ないんじゃないの?オロ兄様のほうがえらいんだから。誰かさんよりも!」今度はカリナが薄ら笑いを浮かべている。ほしい人形を姉に取られるよりは、長兄に取られたほうがマシというものだ。
それに、長兄は人形遊びには興味ないだろう。すぐに飽きて、その時を狙って譲ってもらえばいい。
「ふふふ」



*********************

「まずは、アウレリオ様にご挨拶を」

リオは、侍従長に促され、城の三階にある日当たりの良いアウレリオの部屋に通された。
見たこともないほど豪華な部屋で、部屋の中央には大きなベッドが置かれている。
真紅の天蓋に金色の刺繍が施されていた。
今日だけで今までの一生分よりも新しいものをたくさん見た。

部屋の隅でアウレリオに声をかけられるのを待っていると、窓際で本を読んでいたアウレリオが立ち上がった。


「お前に聞きたいことがある」

リオは誰に話しかけているのかとキョロキョロした。

「お前だ」

リオが自分の鼻先を指差すと、アウレリオがうなずいた。

「こっちに来い。」
「は、はい」

慌ててアウレリオのそばに近づくと、アウレリオはまたリオの顎をつかみ、また目をのぞき込んだ。

「・・・やはり、普通の目に見える」

そう言うとアウレリオはなにか考え込んでいるようだった。

「お前の親族は同じような目をしているのか?」
「目・・・ですか?父親だって言われている人が同じような目の色をしていましたが」
「金色か?」
「え?緑と茶の混じった普通の目ですけど・・・」
「確かに、不思議な目をしている。虹彩こうさいの中に緑と茶色があるのだな。で、もう一つ聞きたいのだが」

リオはごくりとつばを飲み込んだ。
背中をつーっと汗がしたたり落ちる。

「お前の一族は魔力を持っているのか?」




*********************


(お礼)

お読みいただきまして、ありがとうございました。
ハートを送ってくださった方もありがとうございます。
がんばろう!って思えます。
それでは、また明日お会いしましょう!
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