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第2章
第42話 楽しそうに打つ人
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出稽古は、
その後も何度か行われた。
最初の三人だけでなく、
別の部員が
連れて行かれることもあった。
名前が呼ばれるたび、
佐藤 優真は
何も言わずに
聞いていた。
自分の名前は、
一度も
呼ばれなかった。
分かっている。
理由も、
状況も。
それでも、
胸の奥が
少しずつ
冷えていくのを
止められなかった。
ある日。
出稽古の日と
重なった休日。
佐藤は、
家で
ゴロゴロしていた。
テレビも、
スマホも、
見る気がしない。
気づけば、
卓球のラケットが
部屋の隅に
立てかけられている。
(俺、
何やってんだろ)
そんなことを考えながら、
ソファに
寝転がった。
そのとき。
郵便受けから
持ってきた
チラシの束の中に、
一枚だけ
目に留まるものがあった。
公民館 卓球教室
初心者歓迎
場所は、
家から
歩いて行ける距離。
曜日も、
今日だった。
(……暇だし)
それだけの理由で、
佐藤は
立ち上がった。
ラケットを
一本だけ持って、
公民館へ向かう。
体育館ほど
広くない。
床も、
少し古い。
でも。
中から、
楽しそうな
打球音が聞こえた。
「こんにちは」
恐る恐る
入る。
中には、
数人の大人と
子ども。
その中で、
ひときわ
目を引く人がいた。
男性。
年は、
三十代か
四十代か。
フォームは、
きれい。
ボールは、
速い。
でも、
何より。
楽しそうだった。
打つたびに、
笑う。
ミスしても、
笑う。
相手が
良い球を打てば、
声を出して
褒める。
(……うまい)
それに、
楽しそうだ。
佐藤は、
思った。
勝ちたい。
レギュラーになりたい。
全国に行きたい。
今の自分は、
そんな言葉ばかりに
縛られていた。
でも、
目の前の人は
違う。
ただ、
卓球をしている。
それだけで、
満たされている。
男性が、
佐藤に気づいた。
「君、
卓球やってる?」
唐突だった。
「……はい」
「中学生?」
うなずく。
「ちょっと、
一緒に打つ?」
断る理由は、
なかった。
ラケットを
握る。
久しぶりに、
部の外で
台に立つ。
最初の一本。
ラリーが、
続く。
速さも、
回転も、
ちょうどいい。
男性は、
佐藤に
合わせてくれている。
でも、
手を抜いている感じは
しない。
「いいね」
「その球」
「今の、
気持ちいいな」
声をかけられるたび、
胸が
少し軽くなる。
笑っている
自分に
気づいた。
楽しい。
ただ、
楽しい。
勝ち負けも、
序列も、
評価もない。
そこには、
卓球だけがあった。
ラリーが終わったあと、
佐藤は
息を整えながら
思った。
(俺、
卓球好きだったな)
忘れていた感覚が、
確かに
そこにあった。
惰性で
続けていたはずの卓球が、
少しだけ
違って見えた。
男性は、
また笑って
言った。
「また来なよ」
「楽しいからさ」
佐藤は、
小さく
うなずいた。
その日の帰り道。
足取りは、
少しだけ
軽かった。
何かが
解決したわけじゃない。
でも。
止まっていた時間が、
ほんの少し
動いた気がした。
その後も何度か行われた。
最初の三人だけでなく、
別の部員が
連れて行かれることもあった。
名前が呼ばれるたび、
佐藤 優真は
何も言わずに
聞いていた。
自分の名前は、
一度も
呼ばれなかった。
分かっている。
理由も、
状況も。
それでも、
胸の奥が
少しずつ
冷えていくのを
止められなかった。
ある日。
出稽古の日と
重なった休日。
佐藤は、
家で
ゴロゴロしていた。
テレビも、
スマホも、
見る気がしない。
気づけば、
卓球のラケットが
部屋の隅に
立てかけられている。
(俺、
何やってんだろ)
そんなことを考えながら、
ソファに
寝転がった。
そのとき。
郵便受けから
持ってきた
チラシの束の中に、
一枚だけ
目に留まるものがあった。
公民館 卓球教室
初心者歓迎
場所は、
家から
歩いて行ける距離。
曜日も、
今日だった。
(……暇だし)
それだけの理由で、
佐藤は
立ち上がった。
ラケットを
一本だけ持って、
公民館へ向かう。
体育館ほど
広くない。
床も、
少し古い。
でも。
中から、
楽しそうな
打球音が聞こえた。
「こんにちは」
恐る恐る
入る。
中には、
数人の大人と
子ども。
その中で、
ひときわ
目を引く人がいた。
男性。
年は、
三十代か
四十代か。
フォームは、
きれい。
ボールは、
速い。
でも、
何より。
楽しそうだった。
打つたびに、
笑う。
ミスしても、
笑う。
相手が
良い球を打てば、
声を出して
褒める。
(……うまい)
それに、
楽しそうだ。
佐藤は、
思った。
勝ちたい。
レギュラーになりたい。
全国に行きたい。
今の自分は、
そんな言葉ばかりに
縛られていた。
でも、
目の前の人は
違う。
ただ、
卓球をしている。
それだけで、
満たされている。
男性が、
佐藤に気づいた。
「君、
卓球やってる?」
唐突だった。
「……はい」
「中学生?」
うなずく。
「ちょっと、
一緒に打つ?」
断る理由は、
なかった。
ラケットを
握る。
久しぶりに、
部の外で
台に立つ。
最初の一本。
ラリーが、
続く。
速さも、
回転も、
ちょうどいい。
男性は、
佐藤に
合わせてくれている。
でも、
手を抜いている感じは
しない。
「いいね」
「その球」
「今の、
気持ちいいな」
声をかけられるたび、
胸が
少し軽くなる。
笑っている
自分に
気づいた。
楽しい。
ただ、
楽しい。
勝ち負けも、
序列も、
評価もない。
そこには、
卓球だけがあった。
ラリーが終わったあと、
佐藤は
息を整えながら
思った。
(俺、
卓球好きだったな)
忘れていた感覚が、
確かに
そこにあった。
惰性で
続けていたはずの卓球が、
少しだけ
違って見えた。
男性は、
また笑って
言った。
「また来なよ」
「楽しいからさ」
佐藤は、
小さく
うなずいた。
その日の帰り道。
足取りは、
少しだけ
軽かった。
何かが
解決したわけじゃない。
でも。
止まっていた時間が、
ほんの少し
動いた気がした。
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