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27. 幸せな時間の終わり
しおりを挟むいよいよ…この日がやってきてしまった。
お母様との約束だったらしい1年がもうすぐこようとしている。
あの悪魔の住む、地獄の家に今日…帰らなければいけない…。
王子の側近としての仕事もあるので帰らないわけにはいかない。
でも、どうしよう…。
お姉様の話によると、私は帰ったら婚約するように言われていたらしい。
記憶を無くす前の私はどうしようと思っていたのだろうか。
最近になって気がついたことがある。
私はクリフ様の事が好きだったみたい…。
ここ何日も同じ夢を見る。
クリフ様と私…そして小さな子供が出てくる夢…。
はっきりと内容までは覚えていないが…。
私は自分の叶えられない願望を夢見ているのだとかんがえた…。
そんな、恋心を持ったままで女性と婚約なんて無理だ…。
私に友人がいたなら相談できたのかもしれないが…産まれてからずっと、レオンの代替として生きてきたから、レオナの友人は1人もいない。
どうしよう…。
「お嬢様…。起きていらっしゃいますか?」
マリアが扉の向こうから声をかけてきた。
「起きているわ。入って」
「失礼します」
「おはよう、マリア」
「おはようございます。お嬢様」
もう、マリアの"お嬢様"も聞けないわね…。
「どうかされましたか?」
「いいえ…お嬢様も聞き納めだなと思って…」
「お嬢様…大丈夫ですか?」
「ええ…。気持ちを切り替えるのが大変だけどね。後は言葉遣いも…男言葉にしないとね」
私はマリアに笑って見せた。
マリアは何とも言えない表情をして、スカートを握りしめていた…。
「荷物はもうできているから大丈夫だよ。マリア短い間だったけど楽しかった。ありがとう」
マリアはすぐに手で顔を覆ってしまった。
「…泣かないでマリア。最後は笑ってお別れしたいな…」
私がそう言うと、マリアは涙を拭いて私に笑顔を見せた。
「お嬢様…お辛い事があったら我慢ばかりぜずに、いつでもこちらへ入らしてくださいね。お手紙でもかまいません。私で良ければお嬢様のお力にならせて頂きたいです」
マリア…。
「ありがとう…とても嬉しい」
ふと、気がついた。
そういえば、お姉様達のの姿をまだ見ていない。
「そういえば、お姉様達はどうされたの?今日はまだお姿を見ないけど…」
いつもなら朝一番にお姉様が部屋を訪れるのに…。
「…今日は…朝早くから急ぎの用があったらしく、ご夫婦で出掛けられております」
「そうなの…」
最近、よく出掛けるのよね…。
まあ、旦那様とずっと離れていたから一緒にいたいのかな。
でも、今日の昼過ぎには、私が帰国するって知っているよね?
お姉様…冷たくないですか。
…いけない。
…ここでの幸せに慣れすぎている。
帰国すれば、今までのような幸せな時間はない。
慣れすぎては駄目だ…。
「お姉様達に御礼を言ってから帰りたかったけど…手紙にするわ。マリアからお姉様達に伝えてくれる?」
「…わかりました」
そうね…お姉様達に会ってしまうと帰国したくないという気持ちが強くなるかもしれないから、会わずにいた方が良いかも…。
私は荷物を持って馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、マリア元気でね。お姉様達に伝言をたのんだわよ」
「はい。お嬢様もお元気で…」
馬車が動き出した。
悪魔のいる屋敷を目指して…。
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