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2人の関係

「…どういうことだ？」
​迅は、雨宮の言葉の意味を測りかねていた。その表情には、混乱と、新たな怒りの炎が混じり合っていた。雨宮は、葬儀の場では見せなかった、深い悲しみを滲ませた顔で言った。
​「私の……双子の弟です。数年前、弟は突如として行方をくらませ、それ以来連絡が取れなくなっていました。そして……最近になって、彼がこの連続殺人事件に関与しているかもしれないと、私自身の『力』が告げたのです」
​雨宮の告白に、迅は何も言葉を返せなかった。目の前の男が、自分の両親の仇であるかもしれない男と血を分けた兄弟だという。その信じがたい事実に、思考が追いつかなかった。
​「なぜ…なぜ、そんなことを…」
​かろうじて絞り出した迅の問いに、雨宮は静かに答えた。「弟の心を読み取ろうとしても、深い霧がかかったように何も見えません。まるで誰かに心を閉ざされているか、あるいは、私と同じように『力』を持っていて、それを遮断しているのか……。ですが、犯行現場に残された、彼の『心の残り香』のようなものから、断片的な憎しみや、焦りを感じるのです。そして、その中に……」
​雨宮は言葉を詰まらせ、俯いた。そして、消え入りそうな声で続けた。
​「…私の名前を呼ぶ、声が聞こえました。どうやら、弟は私を憎んでいるようです」
​迅は、雨宮の言葉に背筋が凍るような思いがした。雨宮の弟は、なぜ雨宮を憎み、なぜこのような事件を起こしているのか。そして、なぜ迅の両親が殺されなければならなかったのか。
​二人は、再び事件現場へと向かった。そこには、先日とは違う、張り詰めた空気が漂っていた。迅は、もはや雨宮の奇妙な行動を訝しむことはなかった。ただひたすらに、両親の仇を討つため、そしてこの事件の真相を解明するため、彼の言葉に耳を傾けた。
​「現場に残された血文字のようなもの……」と雨宮は呟き、壁に手を触れた。「これは…ある場所を示す暗号です。そして、その場所には、弟が隠した『何か』がある」
​雨宮の言葉に従い、二人は宮崎市の郊外にある廃墟へと向かった。そこは、かつて二つの家族が住んでいたらしい、古びた二軒の家が並んでいた。
​「ここです。…私たちの実家と、鷲見さんの実家」
​雨宮の言葉に、迅は衝撃を受けた。まさか、自分の両親と雨宮兄弟は、かつて隣人同士だったというのか。なぜ、このことを知らされていなかったのか。
​雨宮は、迅の戸惑いを感じ取ったかのように、静かに続けた。
​「私も、最近まで知りませんでした。ですが、弟の記憶の断片の中に、幼い頃のあなたの姿がありました。そして……私たちの家族に起こった、ある悲劇の記憶が」
​雨宮の弟は、なぜか迅の両親に強い憎しみを抱いていた。そして、その根底には、彼らが幼い頃に経験した、ある出来事が関係しているようだった。
​雨宮の言葉に、迅は忘れていた過去の記憶を必死に辿った。遠い昔、確かに隣に双子の兄弟が住んでいたような気がする。しかし、なぜ彼らが引っ越していったのか、なぜ彼らが自分を憎んでいるのか、迅には全く心当たりがなかった。
​「もうすぐ…」
​雨宮は、悲痛な声で言った。
​「…弟は、次の犯行に及ぶつもりです。そして、そのターゲットは…私だ」
​雨宮は、自分の弟を憎むよりも、その歪んだ心に深く悲しんでいた。迅は、両親の仇であるはずの男の兄弟である雨宮に、複雑な感情を抱きながらも、彼の言葉を信じ、共に事件の真相を追うことを決意した。
​雨粒が窓を叩きつける音が、二人の間に重く響いていた。兄弟の深い確執、そして、忘却の彼方に隠された真実が、雨の夜の闇の中でゆっくりと姿を現し始めていた。