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第50話「いつもの癖で」

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リオネルは、郊外の小村に来たのは初めてである。
村の門を通ると防護柵の向こうはそこそこ広い牧草地が広がっていた。
牧草地では所々で牛、そして羊がのどかに草を食んでいる。

更に進むと、村の家々が見えて来た。
全てが土で固めた白い壁、且つ木造の家屋である。

村内は王都と違い石畳など使ってはいない。
土が踏み固められた固い道を、たくさんのニワトリが速足で駆けて行く。

大きな犬がリオネルを見て、ワンと吠えた。
嬉しそうに尻尾を「ぶんぶん」振っている。
ふと見れば、民家の屋根の上で猫が数匹、のんびりと昼寝をしていた。

はは、何か時間が止まったように、のんびりした村だなあ……
リオネルは、アルエット村にそんな印象を持った。

「おい、リオネル! ワシは、クレマン! アルエット村の村長じゃ」」

歩きながら、村長はぶしつけに大きな声で名乗った。
リオネルに背を向けたままで。

先ほどからの物言いも含め、失礼な人だと思ったが、仕方がない。

対して、リオネルはいつも通り、はきはきと挨拶する。

「改めまして! 俺はリオネル・ロートレック、王都出身の魔法使いで冒険者です。冒険者の街ワレバットへ行く途中です」

リオネルが冒険者だと聞き、クレマンは不快そうに鼻を鳴らす。

「ふん! やっぱり冒険者か。ならず者のお前が旅の途中でエレーヌとアンナを、人喰いのオークどもから助けてくれたというわけだな」

「はい、まあ、そんなところです」

「……そうか。ならば人として、礼は言っておこう。ありがとう、我が村民を救って貰い、感謝する」

このクレマンと、エレーヌ、アンナとのやりとりに少し気になる事はあった。
しかし、ここで自分から尋ねるのはやめておく。
もしも、事情が分かり自分が協力出来る事があればと、決めておく。

「いえ、当たり前の事をしただけですから」

結局正門前で……すったもんだした挙句、リオネルは村長クレマンが所有する『別宅』へ泊まる事となった。

強引に押し切られ、ぶーたれたエレーヌとアンナだったが……
「後で行く」と言い残し、一旦自宅へと戻って行ったのだ。

やがて……
クレマンに先導され、リオネルは一軒の家に到着した。

そこそこ大きい家だ。
古くはない。

「これはワシの別宅だ! ちなみに隣がワシの家だ。家の中の設備は自由に使って構わんが、火にだけは気をつけろ。何かあれば言うが良い」

クレマンは素っ気なかった。
嫌々という感じで一方的に告げ、去ってしまった。

クレマンは何かの理由により冒険者が大嫌いらしい。
「勝手に素泊まりしろ!」という事なのだろう。
エレーヌとアンナの件にしろ、冒険者嫌いの件にしろ…… 
自分からはあまりトラブル等へ鼻を突っ込まない、いつものリオネルの癖である。

リオネルは苦笑し、家の中へ入った。
中は見た目より広い。
調理用具一式が揃ったかまど付きの厨房があり、居住スペースは三部屋続きの板の間。
各部屋には大きな物入れが備わっていた。

「結構良い家だ」

原野で野宿する事を考えたら、数億倍マシ。
気持ちがだいぶ軽くなる。

荷物を置き、夕食の準備もろもろをする事にした。
かまどに薪をくべ、生活魔法で火をつける。
収納の腕輪から、スライムの草原で倒し、ストックしておいたウサギの肉を含めた食材、更に食器をいくつか出す。
ベッドがないので寝袋も出しておく。

宿の主人アンセルムから仕込まれて短期間で上達した、リオネルの料理の腕前はプロに近い。

手早くウサギの肉を処理し、かまどで焼く。
いくつか焼いて皿へ盛っておく。
宿でたくさん焼いたパンもいくつか取り出した。
やかんに水を入れ、お湯を沸かし始めた時……

とんとんとん!
扉がノックされた。

「は~い」

リオネルが返事をすれば、

「私で~す。エレーヌで~す!」
「アンナも居ま~す!」

先ほど約束した通り、エレーヌとアンナが来たのである。

「ああ、どうぞ、どうぞ」

リオネルは笑顔で、扉を開けたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「わお! 良い香り!」
「あら、ウサギの肉を焼いたのですね」

「ええ、夕食の支度をしていました。って……あれ?」

エレーヌは包みを抱えていた。
何か料理を持って来てくれたらしい。
アンナは水筒をさげていた。

「ウチの村長、頑固だし、とっても失礼なの。本当にごめんなさい!」
「ごめんなさいっ!」

エレーヌとアンナはいきなり謝罪すると、

「リオネルさん、おなかが空いたでしょ? 3人で食べようと思って、大急ぎで持って来たの」
「持って来たのぉ!」

「じゃあ、テーブルに広げますか」

「ええ!」
「アンナもやるぅ!」

という事で、テーブルに料理が広げられた。

エレーヌとアンナが用意してくれたのは簡素な食事であった。
いっぱいの黒パンに大きなチーズ、数種類のドライフルーツ。
水筒に入っていたのは新鮮な牛乳である。

これにリオネルが焼いたウサギの肉。
宿で焼いたライ麦パン。
ポットに入った紅茶が加わる。

支度が終わると、まずはエレーヌが口を開く。

「リオネルさん! 改めてお礼を申し上げます! 私達母娘をオークから助けて頂き、ありがとうございました」
「ありがとうございましたあ!」

お約束というか、エレーヌが発したお礼の挨拶にアンナが可愛く追随した。

「いえいえ、お安い御用です。俺もオークと初めて戦えて良い経験となりました」

という会話の後、乾杯した。

エレーヌとアンナは、がぐわしい香りに気付き……
リオネルお気に入りの紅茶を飲みたがった。

リオネルは快く淹れてやった。
その代わり、リオネルはアルエット村産だという、牛乳を貰う。

「美味しい! 久しぶりね! 紅茶なんて!」
「良い香りぃ!」

母娘は美味しそうに紅茶を飲んだ。
リオネルが貰った牛乳も新鮮で美味しかった。

「うわ! 牛乳……美味しいです」

リオネルは気付いた。
またまた『いつもの癖』で思考が働く。
ひとつの事項があれば、すぐひもづけて考える癖も、リオネルにはある。 
こんなに牛乳が美味しいという事は……絶対チーズも美味しいだろうと、か。

「失礼して、チーズを頂きます!」

「どうぞ!」
「食べてぇ!」

エレーヌとアンナ、ふたりからOKを貰いチーズを食べたリオネル。

「やっぱ、美味い!」

推測した通りだと、満面の笑みを浮かべていたのである。
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