上 下
136 / 656

第136話「極意を思い出せ!」

しおりを挟む
「ちっきしょ! こんな所で死なないぞ! やってやるっす! 俺は戦うっす!  姉さんを守り抜くって決めたっすう!」

無意識のうちに大声で叫んだカミーユは、恐怖を無理やり押さえつけ、ミスリル製、銀色の魔法杖を構える。
リオネルが購入してくれたこの魔法杖は、戦う相手によって使い分けが出来る優れものだ。
今回は不死者アンデッドが相手。
撃て!ショット』と心で念じれば、魔法を使えないカミーユでも、
込められた葬送魔法『昇天』を光弾にした状態で、撃ち出す事が可能なのだ。

「う、撃つぞぉ! 撃つぞぉ! 撃つぞぉぉ!! てめえらあ、撃つぞおおっっ!!!」

カミーユは絶叫する。
彼なりに威嚇したつもりだ。
しかし意思も感情もないゾンビには馬耳東風、沼に杭である。

おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……

「ちっきしょぉぉ! く、腐った肉の塊のくせにぃ! く、喰われてたまるかあ! 喰われてたまるかよぉぉ!」

開き直り、覚悟を決めたカミーユは、

どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 
どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 
どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 

リオネルからプレゼントされた魔法杖を思い切り乱射していた。
葬送魔法『昇天』の効果は、絶大である。

ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ!
ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ!

ゾンビの動きは緩慢であり、命中率はほぼ100%。
カミーユの魔法杖から放たれた光球を、まともに受けたゾンビは四散、呆気なく消滅した。

「ど、ど、どうだあ! ざ、ざまみろぉ!!」

しかし……魔法杖の装填数は約30発。
好きに撃ち続ければ、すぐ尽きるのは当然であった。

「あ、あれ!? う、う、撃てないぞ!? も、も、もう弾切れかよぉっ!?」

おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……

出現したゾンビの数は100体を楽に超えていた。
まだ7割以上のゾンビが無傷で、カミーユへ迫って来る!

「う、うわあああああっっ!!?? く、来るなあっ!! 来るなあああっっ!!!」

焦り、怯えたカミーユは我を忘れ……
リオネルから貰った小型盾をぶんぶん振り回し、大混乱。
己が習得した破邪聖煌拳の技もすっかりと忘れてしまった。

と、その時。

ぶわっと、カミーユの真横を通り過ぎた人影が、
カミーユの前で、迫り来るゾンビどもに立ちふさがり、

しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ!

凄まじい速度で、何度も拳を突き出し続けたのである。

すると!
先ほどゾンビどもが呆気なく、消失したのと同様……
突き出した拳の先に居るゾンビが何体も何体も崩れ去り、消え去った。
これは……葬送魔法と同じ効果だ!

「し、し、師匠ぉぉ! ど、どうしてぇぇっっ!?」

突き出す拳で、ゾンビどもに触れず、塵にして倒したのは……
「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」と告げ、
カミーユをゾンビどもへ放り投げたモーリスであった。

背後からカミーユに駆け寄り、「さっ!」と横を通り過ぎ、
彼を守るようにゾンビどもへ立ちふさがって、拳を何度も神速で突き出したのである。

背を向けたまま、戦いながら、モーリスは叫ぶ。
可愛い弟子に届け! と言わんばかりに声を大きく張り上げる。

「やらせはせんぞ、ゾンビどもぉ! やらせはせん! やらせはせんわあ!」

「し、し、師匠ぉぉ!!」

「カミーユぅ! 可愛いお前を! 深き谷底へ落としたままにはせ~んっ!! この私がぁ! お前の盾となってやるわあ!」

「し、し、師匠ぉぉ!!」

「落ち着けぃ、カミーユぅ! 破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの極意を思い出せぇ! お前にも出来る戦い方があるだろうがあ!」

「えええ!? は、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの、ご、極意!? お、俺にも出来る戦い方っすかあ!?」

「ああ、お前は魔法を使えない! だが、相手が不死者アンデッド限定なら、そのガントレットで、触れずして、塵に出来るはずだってなあ!」

「へ!? だが、相手が不死者アンデッド限定なら、触れずして塵?」

「カミーユ、しっかりしろっ! 見ろぉ! お前もこういうふうにやるんだあ!」

モーリスは叫ぶと、更に拳を打ち続ける。
言葉通り、彼の拳はゾンビどもに触れていない。
また葬送魔法『昇天』を行使しているのでもない。

専用のガントレットから、気合と共に打ち出す拳から放つ魔力の波動が、
迫り来るゾンビどもを破砕しているのだ。 

モーリスの戦いぶりを見て、ようやくカミーユは『師の教え』を思い出した。

「わう! そうだったっすよ! みんなとは違い、俺は魔法が使えない。だけど、俺みたいな常人でも、破邪聖煌拳で不死者と戦える方法っすね!」

カミーユはそう言うと、ポンと手を叩く。

「人間誰しもが持つ体内魔力を使い、このガントレットに宿る葬送魔法『昇天』を増幅して、拳で打ち出せるって、師匠から教えて貰ったっす!」

「その通りさ。モーリスさんの教えた事をやっと思い出したようだな」

「もう、馬鹿なんだから! 大慌てして、また物忘れの悪い癖が出たでしょ!」

「わ!? リオさん!? 姉さん!?」

いつの間にか、左右それぞれにリオネルとミリアンが立っていた。
カミーユは、前方で戦うモーリスを見る事につい夢中となり、周囲への注意を欠いていたのだ。

「カミーユ、物忘れと同時に、注意力も散漫だ。俺達が敵だったら、お前はやられていたぞ」

「そうよ! カミーユはしばらくリオさんにくっついて、シーフの修行、いえ猛特訓をしなさいよ。リオさんは馬のように速く走るし、リスみたいにすばしっこい。跳躍力も索敵能力も半端ないから♡」

欠点を指摘してくれるリオネル。
優しくアドバイスしてくれる姉ミリアン。

リオネルが、カミーユの心の中を察したように、言う。

「カミーユ、臆し、卑下する事はないさ。お前だけじゃなく、俺も、そしてモーリスさんも、ミリアンも、修行中だ。俺達の人生は全てにおいて永遠に修行が続く、そしてトライアルアンドエラーだ! 但し、命は大事にだぞ!」

「は、はいっす!」

「カミーユ、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの極意を思い出せたから、もう戦えるわね?」

「はいっす! 姉さん!」

「じゃあ、3人全員で行こう! モーリスさんに加勢するぞっ!」

「OK! リオさん!」
「了解っす! リオさん!」

リオネル、ミリアン、カミーユは、奮戦するモーリスを助けるべく、
ゾンビの群れに向かって行った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:686

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:385

転生したらスキル転生って・・・!?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:312

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:486

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:139

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,202pt お気に入り:745

処理中です...