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第372話「この中は……もう嫌なんだ……100年も閉じ込められてる」

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これまで食べた事がない美味しいアクィラ王国の料理と、
心を震わせる生演奏の音楽を思い切り楽しんだリオネル。

宿へ戻り、ぐっすり眠ると、気持ちよく起床。
朝の8時に宿を引き払い、出発した。

こんなに朝早く出発したのには理由がある。

そう、せっかく来たから、お昼半ばまで、レ・ワイズの街を探索するつもりなのだ。

昨夜は、冒険者ギルドの支部の所在を確認したのみ。

通り過ぎるのみの街ではあるが、これではつまらない。

まずは朝食。
王都オルドルやワレバット、その他の町村でも市場へ行った。

飲食出来る商店や露店があればと思ったのである。

そんなリオネルの予想はビンゴの大当たり。

露店がいくつも並んでいる。
フードコートのような共用のテーブル席も並んでいた。

やはり見た事がない料理を売る露店がいっぱい。

リオネルは悩んだ挙句……

クリームチーズを塗り、スモークサーモンをのせ、
ハニーマスタードソースとオリーブオイルをかけたパン。

砂糖、はちみつ、バターなどと共に、
牛乳で煮込んだオートミール。

きゅうり、パプリカを使ったサラダ。

などを購入。

いつもより、やや遅めの朝食を楽しんだ。

「美味い!」

どうやらアクィラ王国へ行っても、食事で悩む事はなさそうである。

あっという間に完食。

リオネルは更に市場を回る。

食材を売る以外にも、フリーマーケットのような催しも行われている。
生活用品、雑貨が主だが、魔道具、骨とう品なども売っていた。

鑑定眼、審美眼を磨く為、リオネルは魔道具、骨とう品を見て回る。
しれっと、さりげなく鑑定魔法も使ってみるが、大したものはない。

と、その時!

リオネルの心にかすかに声が響く。

『た、たすけて……た……す……』

ん?
何だ?

これは心の内なる声じゃない。

邪な気配ではない魔力の波動も、かすかに伝わって来る。

フリーマーケットの一画にある骨とう品店から感じられる。

どこだ?
あ、あの小さな宝箱か!

リオネルが声と魔力を感じたのは、
骨とう品店の陳列台に置かれた小さな古めかしい宝箱である。

大きさは、左右50cm、高さ30cm、奥行きが30cmほど。

リオネルは老齢の店主へ声をかける。

「店主さん」

「おう! 何だい、少年!」

「この宝箱は?」

「おお、目の付け所が良い! 洒落じゃないが、お宝品だぞ!」

「相当古そうですね」

「ああ、だいぶ古い! 多分数百年前の宝箱だ!」

数百年?
それは盛りすぎでしょ。
と思いながら、リオネルは尋ねる。

「中に何か入っているのですか? それとも空箱からばこですか?」

「いやあ、それがなあ、分からないんだ」

「え? 分からない? どうしてですか?」

「うん、何か魔法がかかっているようで開かないんだ。誰がどうやってもな。俺も出来るなら開けたいんだよ」

「そうなんですか、店主さんは開けたいんですか」

「ああ! 開けたいね! まあ、さほど重くないし、振っても音がしないからなあ。もし中身があったとしても、そんなに重いモノは入ってないよ」

店主はそう言うと、にやりと笑ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルと骨とう品店店主の会話は続いている。

「それで店主さん」

「おう!」

「この宝箱の値段はいかほどですか?」

「ああ、金貨100枚だ!」

「金貨100枚!?」

思わず、「たっけ~!」と言いそうになったリオネル。
慌てて口をふさぐ。

「ああ、お宝が入っているかもしれないし、それを考えたら安いくらいだ」

「お宝ですか……でも、ないかもしれないんですよね?」

と言いながら、リオネルは念話で呼びかけてみる。

『お~い、大丈夫かあ!』

対して……

『……この中は……もう嫌なんだ……100年も閉じ込められてる……』

ひゃ、100年!?

俺が生まれるずっ~とずっと前から?

驚きながらリオネルは問う。
当然、念話である。

『お前は……何者だ? 邪悪な気配は感じないけど』

『おいらは……ジャン……妖精……ピクシーだ……』

『おお! 妖精……ピクシーか!』

補足しよう。
ピクシーとは、手のひらに乗るくらい小さな人の姿をした妖精である。
種族にもよるが、背に羽が生えた者も居る。
基本的には集団で暮らし、歌や踊りが大好きである。
いたずら好きであるが、特別な理由がなければ、基本的に人間へ害を為さない。

何らかの理由で、不本意に閉じ込められているのは妖精……ピクシーのジャン。

100年なんて、可哀そうだから、解放……してやるか。
店主さんも「宝箱を開けたい」って言ったから、構わないだろう。

リオネルは、呼吸法を使い、体内魔力をあげると、
ピクシーのジャンが閉じ込められた宝箱を開けるべく、じっと見つめたのである。
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