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第560話「素晴らしい風の従士も居ますので、後ほど改めてご紹介します」

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「はっ!?」

いつの間にか、気をうしなっていたのだろうか。

目を覚ますと、ヒルデガルドは、肩に違和感を覚えた。

誰かが後方から、自分の肩を椅子越しにつかんでいたのだ。

「うふふふ、気が付いた? ヒルデガルド」

「え!? テ、ティエラ様」

向かい側の椅子にティエラとシルフのリーア、ウンディーネのマイムと、
精霊たちが座っていた。

その脇の椅子には、祖父イェレミアスが座り、柔らかく微笑んでいる。

火蜥蜴サラマンダーもゆっくりと宙を舞っていた。

「ヒルデガルド、貴女は私の鎮静魔法で目が覚めたのよ」

「は、はい! ありがとうございます!」

「どういたしまして!」

と、ティエラは答え、

「リオ! ヒルデガルドは完全に目を覚ましたわ。倒れたりしないから、もう支えなくても大丈夫みたいよ」

「はい、分かりました」

リオネルの声が背中越しに響くと、肩をつかんでいる感触がなくなった。

「え!? えええっ!? リオネル様!?」

ヒルデガルドは驚きっぱなしだ。

自分の肩をつかんでいたのは……リオネルだったのである。

しかしなぜ、リオネルが肩をつかんでいたのか?

その種明かしもティエラがしてくれた。

「ヒルデガルド、貴女はね、リオの従士たちの本体を見て、気を失ってしまったのよ」

「え!?」

「それでね、座っていた椅子から崩れ落ちそうになった貴女を、リオが素早く動いて支えたの。しっかりと抱きかかえてね」

「ええええ!!??」

「その後はさ、リオも照れてね。貴女を抱きかかえたままというわけにいかなくて、椅子に座らせて、肩をつかんで支えていたの」

ティエラの説明を聞き、ようやく現状が把握出来たヒルデガルド。

驚き、大きく目を見開く。

「そ、そんな!?」

そして、イェレミアスへすがるような視線を向ける。

「お、お、おじいさま!!」

「何だね? ヒルデガルド」

「わ、私!! 殿方に抱かれてしまいました!! もうお嫁に行けません!!」

ヒルデガルドの嘆きを聞き、ティエラは苦笑。
ジト目で、イェレミアスを見た。
一体どんな育て方をして来たのだと。

ティエラの冷たい視線を受けたイェレミアスも苦笑。

「はははは、ヒルデガルド。お前は何を言っている? 私はお前に対し、身持ちが固い女子になれと言ったが、はき違えてはいけないぞ」

「で、でも!! おじいさま!!」

「でもも、何もない! まずはリオネル様へお礼を申し上げないといかん! お前が気を失い、椅子から転げ落ちるところを救って頂いたお礼をな!」

「!!!!! た、確かに!! そ、そうでした!!」

イェレミアスから、たしなめられ、ハッとしたヒルデガルドは、
すっくと立ちあがり、回れ右。

背後にはやはりというか、今のやり取りを聞き、苦笑したリオネルが立っていた。

「リオネル様! お救い頂き、ありがとうございました!」

「いえいえ、お安い御用です。ケガがなくて、良かったですね」

そんなリオネルを見たヒルデガルドは、「ぽっ」と頬を紅潮させたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ヒルデガルドの配下たち、事務官と護衛役も、
ティエラが行使した広範囲鎮静魔法で復活、お茶会は、再開された。

そして、リオネルの従士たちは擬態した姿へと戻っていた。

魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスは、巨大な灰色狼風に。

火竜ファイアドレイクは火の精霊サラマンダーに。

凍竜フロストドレイクは、体長1mほどのミニマムドラゴンに。

気を失ったヒルデガルド以下のアールヴ族たちは、
先ほど起こった阿鼻叫喚が信じられなかった。

すぐに気を失ってしまったが、2体の竜と2体の魔獣の姿は、
はっきりとおぼえている。

亡国の危機になったと思った。

リオネルの従士たちを見ながら、全員がそうささやきあったのだ。

ここまでの猛者たちを従える人間族リオネル。

とんでもないとしか言いようがない。

同時に助かったとも考えた。

もしもリオネルが、邪悪な心と野望を持っていたら、イエーラは蹂躙され、アールヴ族たちは皆支配され、奴隷として貶められていたかもしれない。

しかし、リオネルは邪心どころか、イエーラの為に働いてくれるという。

転移魔法、全属性魔法使用者オールラウンダー
超一流召喚士?もしくは超一流テイマー?

それ以外にも、まだまだ見せぬ、底知れない能力を持っているに違いないと、
アールヴたちのささやきは止まらない。

ヒルデガルドも例外ではなく、喜び、希望、期待に満ちた眼差しで、
リオネルを見つめて来る。

「リオネル様」

「はい」

「イエーラには、多くの問題が山積しております。今後、いろいろとご相談に乗って頂き、ご尽力もして頂けるのですよね?」

「はい、イェレミアスさんとは、このイエーラを豊かな国にするべく、出来うる限り協力するという契約を結びましたので」

「ありがとうございます!!」

「はい、俺は万能ではありませんが、やれる事を最大限やりたいと思います。問題が山積していると聞きましたが、どれから手をつけるのかは、ヒルデガルドさん、イェレミアスさんと相談しながら、おいおい進めましょう」

「うふふふ♡ 助かります!!」

大いに喜ぶヒルデガルドだが、ジト目の視線を感じた。

恐る恐る見れば、シルフのリーアが、少しお怒りモードの視線を投げかけていた。

「あの……リオネル様」

「はい、何でしょう?」

「シルフ様のご機嫌がお悪いようなのですが……」

リーアは、まだ風属性の従士紹介がなかった事を不満に感じているようだ。

対して、リオネルはすぐに察し、

「はい、俺には素晴らしい風の従士も居ますので、後ほど改めてご紹介します」

と言えば、リーアの表情は一転。

晴れやかな笑顔に変わったのである。
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