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第567話「了解です! ヒルデガルドはリオネル様のおっしゃる通り、トライアルアンドエラーで修行をやってみます!」

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4大精霊の加護を受ける全属性魔法使用者オールラウンダー
失われし古代魔法――転移魔法を使いこなし、獰猛な冥界の魔獣に、
竜も2体従える冒険者で魔法使いのリオネル・ロートレック。

まだまだ能力は底知れない。

そんなリオネルに圧倒されてしまったヒルデガルドではあったが……

驕らず、誇らず、低姿勢、研究熱心で、常に前向き。
という人となりを知り、リオネルへの興味がどんどん増していた。

また、長年にわたって害為すオーク討伐の確認立ち合いという危険な仕事ながら、
不思議な事に、リオネルと一緒であれば、全く怖さを感じていない。

ヒルデガルドは、リオネルに対し興味だけでなく、
それほどまでに大きく信頼をも増していた。

「ヒルデガルドさん、先にお伝えした通り、立案した作戦に沿って動いて行きます。まず、護衛用のゴーレム20体を出しますね」

リオネルは搬出と念じ、ミスリル製、銀製のゴーレムを各10体ずつ、
計20体を出した。

すかさず起動させる。

「ま!」「ま!」「ま!」

いきなり出現し、吠える身長3m強のゴーレムたちを見て、
ヒルデガルドは驚き、目を丸くする。

リオネルはいともたやすく、20体のゴーレムたちを使役するのだから。

20体のゴーレムは、自分たちは 盾である!と言うかの如く、
リオネルたちの周囲をぐるりと取り囲む。

この屈強なゴーレムたちに、冥界の魔獣2体が加われば、
オークどもなど簡単に蹴散らしてしまう。

ヒルデガルドはそう思えて来る。

「す、凄い! た、頼もしそうですね!」

次に呼ぶのは魔獣アスプ30体だったが、リオネルには懸念がある。
確かめなければならない。

「ええっと……念の為、ヒルデガルドさんへ確認です」

「はい、何なりとお聞きください」

「ヒルデガルドさんは、魔獣アスプをご存じでしょうか?」

「い、いえ……名前は聞いた事がありますが、あまり存じません」

リオネルはアスプについて説明した。

アスプは体長は1m50cmほど。
蛇のコブラに良く似た魔物であり、動きが非常に敏捷。
飛ぶように移動する。

猛毒の息を吐き、その視線は睡眠を誘因させる。

また、つねにつがいで現れ、一体が倒されると、
敵を討とうと執拗に襲う。

リオネルの説明を聞いたヒルデガルドは、美しい眉をひそめる。

「ええっと……コブラという蛇は、このイエーラには生息していませんので、良く存じませんが……基本的に蛇は苦手ですね」

「成る程。ただアスプは忠実かつ使い勝手が良いので、使役するのをご了承ください」

「は、はい、分かりました。何とか我慢いたしますわ」

「申し訳ない。それとアスプは基本、南に居る魔物なので、寒冷地であるイエーラで、どれほど動けるか、確認もしたいのです」

「そうなのですか。まあ今は春も半ばなので、寒さはそれほど厳しくありませんが、実証実験という事ですね?」

「まあ、それも兼ねています……じゃあ、まず2体だけを呼びますね」

という事で、リオネルはアスプを収納の腕輪から搬出した。

ヒルデガルドの目の前に、2体のアスプが現れる。

「ひえええっ!!」

やはりというか、ヒルデガルドは蛇が大の苦手であった。

悲鳴を発し、反射的に飛び上がると、
何と何と、リオネルへがっし!と、抱きついてしまったのである。 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ううううう……」

リオネルに抱きついたまま、ぶるぶると震えるヒルデガルド。

ここまで、蛇が苦手とは思わなかったリオネル。

優しくヒルデガルドを抱き、背中をさすってやった。

ただただ申し訳なく思う。

……そういえば、ケルベロス、オルトロスの本体を見せた時も、
竜の尾と蛇のたてがみに驚き、ヒルデガルドが気絶してしまったのを思い出した。

後の祭り、後悔先に立たず……である。

「申し訳ない、ヒルデガルドさん」

「ううううう……」

前回、ヒルデガルドが気絶した際は、ティエラの鎮静魔法で正気を取り戻したが、
リオネルは体力回復も兼ね、最上位の回復魔法『全快』を使う事にした。

全快には、優れた鎮静効果もあるのだ。

「ヒルデガルドさん、回復魔法を使いますよ、落ち着きますからね」

リオネルはそう言うと、無詠唱、神速で全快を発動。

効果はすぐに表れた。

「ううううう……え!?」

唸り、震えていたヒルデガルドが驚き、大きく目を見開いたのだ。

「わ、私!? え!? きゃ!!」

驚き、我に返ったヒルデガルドは、自分が今、何をしているか、
どういう状態なのか、気付いたようである。

「し、し、失礼致しましたああ!!!」

ヒルデガルドはがっしと抱きついた手を外し、慌ててリオネルから離れようとする。

だが、リオネルは何故か、ヒルデガルドを抱いたまま放さない。

「リ、リオネル様……ど、どうして……」

「いきなりで申し訳ありませんが、今後の事を考え、少し修行しましょう」

「こ、今後の事を考え、しゅ、修行!?」

「はい、修行というのは、ヒルデガルドさんが蛇の姿をした魔物と戦う際の訓練です」

「修行は、私が……蛇の姿をした魔物と戦う際の訓練……」

「有事の際、ヒルデガルドさんが蛇の姿をした魔物に立ち向かう場合、気絶したり、震えていたら、話になりませんから」

「な、成る程……そういう場合もないとは言えませんね」

ヒルデガルドは納得した。

言われてみれば、その通りである。
想像はしたくないが、イエーラへ、そのような魔物が出現し、害を為した場合、
国民を守る立場のソウェルたる自分が、怖い、気持ち悪いなどと言っていられない。
ましてや逃げるなど、もってのほかである。

更にリオネルは言う。

「でも、いきなりひとりで正対しろというのも厳しいでしょうから、徐々に慣れるようにしましょう」

「徐々に? ですか?」

「はい、申し訳ありませんが、俺に抱きついたまま、落ち着くようにして、アスプを見てください」

淡々と話すリオネルの言葉に、いやらしさは全くない。

自分から抱きついた事もあり、ヒルデガルドは、リオネルに嫌悪感は全くなかった。

正直……安心出来る……というのが本音。

「もっと抱かれていたい」と思っているのは内緒だ。

「わ、分かりました。リオネル様に抱かれつつ、魔獣アスプを見る事が……訓練、なのですね」

「ええ、何度もアスプを見て、蛇に慣れる訓練をするんです。慣れたら、俺から離れ、ひとりで正対してみてください」

「な、成る程。そうやって、徐々に慣れるのですね」

「はい、思いつきですが、良い機会ですよ。トライアルアンドエラーで修行をやってみましょう」

「了解です! ヒルデガルドはリオネル様のおっしゃる通り、トライアルアンドエラーで修行をやってみます!」

決意を述べたヒルデガルドは、再びリオネルへぎゅ!ぎゅ!と抱きつき、
まるで恋人のように甘えたのである。
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