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第584話「しかし、このままでは面白くない。 武官たちにも意地がある。 何とか、一矢報いたい」

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事務官から経緯と意図は聞いていると思われたが……
リオネルは、改めて3人の商人たちへ説明。

宝箱の中身を売却した金は、オークに荒らされた地域の復興資金という事を強調。
全面的な協力を申し入れたのである。

リオネルの説明を聞きながら、商人たちの視線は一点に集中。
ヒルデガルドの手は、リオネルの手を、しっかりと握ったままだったからだ。

商人たちは、ず~っと、わけわかめ。

片や、アールヴ族のトップ、現ソウェルで前ソウェルイェレミアスの孫娘たる、
誇り高きヒルデガルド・エテラヴオリ。
こなた人間族の少年冒険者、リオネル・ロートレック。

ふたりの間柄はどういうものなのか、分からない。

とても近しく親しい事は間違いない。

……ただリオネルは、恋人というよりは、ヒルデガルドの面倒を見る、
保護者のような雰囲気を醸し出して堂々としており、
全くと言っていいほど、べたべたしてはいなかった。

「ヒルデガルドさん」

「はい!」

「では、事務官さん、商人さんたちと一緒に検品、値付けをお願いします。ちなみに、本日はすぐ結論を出さずに、一旦保留。改めて内容を確認し、精査、協議の上、後日、売却する事にしますから、時間をかけ、じっくりやってください」

「分かりました。あの……私への武術指導は?」

期待に満ちた眼差しを向け、ヒルデガルドは尋ね、
ぎゅ!っとリオネルの手を握って来た。

対してリオネルは笑顔で答える。

「はい、ちゃんとやりますよ」

リオネルの言葉を聞き、嬉しそうなヒルデガルドは満面の笑み。

「あはは! 良かったあ!」

「ええ、ひと通り検品作業が終わったら、俺へ声をかけてください。先に武官さんたちへ指導を行い、課題を与えて鍛錬している間に、ヒルデガルドさんへの指導を行いますから」

「はいっ! もろもろ了解です!」

納得し、頷くヒルデガルドは、やっと手を放してくれた。
意気揚々として、作業に取り掛かる。

張り切るヒルデガルドを、事務官、商人たちへ任せ、
リオネルは、武官たちの下へ。

武官たちはまだリオネルの実力を知らない。
オークキングの死骸は論より証拠なのだが、実際に自分が見たもの、体感したもの以外は信じないというのが、世の常であろうから。

「武官さんたち数人から、アールヴ族のトレーニング方法、鍛錬方法を聞きましたが、それらを加味した上で、人間族流のやり方をベースにやらせて貰いたいと思います」

リオネルはそう言うと、まずは準備運動、ストレッチをやらせた。
そしてストレッチが終わると、軽くランニングを行う。

ここから通常は基礎の指導から行うのであるが、論より証拠を知らしめる為、
実戦を模した対戦を行う事にした。

なので、全員革兜に革鎧の万全装備。
模擬戦なので、急所への攻撃は厳禁とした。

使用するのは、雷撃を付呪エンチャントし、
切っ先と刃を潰してた練習用の剣。
リオネルが購入し、用意したものである。

膂力に秀でていないアールヴ族が普段使う剣は、先端の尖った細身の刀身を持つ、
刺突用の片手剣レイピアに近い形状の独自な小型剣。

対して、今回リオネルが用意した剣はというと、
一応アールヴたちへ配慮し、だいぶ、こぶりの剣にはしたが、
ノーマルタイプ片手剣に雷撃が付呪エンチャントされたもの。

慣れない武器に戸惑う武官たちであったが、
リオネルは、ルールを簡潔明瞭に説明。

「あなた方が普段使い慣れていないもので申し訳ありませんが、たまには違う武器にもチャレンジしてください。トライアルアンドエラーですよ」

リオネルは笑顔で、武官たちへ雷撃剣を配布したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

武官たちへ雷撃剣の配布が終了すると、

「先ほど説明した通り、この剣は、相手へ少し触れるだけで、びりっと来ます。その時点で勝ちとなり、ダメージを受けたら負けとします。訓練の趣旨としては、攻撃を喰らわないよう、躱す事を重視で、相手の隙をつくようにしてください」

リオネルは言い、全員へ剣の素振りをするよう指示をした。

指示を聞き、素振りをする武官たち。

リオネルは、武官たちの周囲を巡回。
剣の振り方の指導をする。

しばし経ち、雷撃剣に慣れて来たところで、

「では、そろそろ模擬戦を始めます。俺に対し、ひとりずつ交代で、どんどん打ち込んで来てください」

リオネルは凄い。
本当に底が知れない。
これまでのいろいろな事象を見れば明らかである。

アールヴ族最強といえる前ソウェル、イェレミアスが礼を尽くし、
頼み込んで来て貰ったくらいなのだから。

そして、長年苦しめられて来たオークどもも半日で討伐してしまった。
彼らの目の前に置かれているオークキングの死骸等々を見れば明らかである。

加えて、性格は至って温厚。
驕らず、誇らず、控えめで腰が低い。

誠実な人柄も申し分ない。

リオネルの戦いを見届けたプライド高きヒルデガルドも、
ぞっこんと言って良いほど、惚れ込んでいる。

彼女は普段は無表情で極めて事務的なのに、雨が降るのではと思うくらい、
にこやかで、自分たちを労わってもくれた。

今までは、たかが人間族などと、全然下に見ていたが……
リオネルの出現は、彼らの価値観を思いっきりぶち壊してしまった。

……悔しいが、認めざるをえない。

しかし、このままでは面白くない。
武官たちにも意地がある。

何とか、一矢報いたい。

「では! 私から!」

そう言ったのは、一番若い武官である。

剣を構えたその武官は、

「うおおおおお!!!」

と、雄叫びをあげ、リオネルへ向かって来たのである。
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