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第598話「リオネル様! ありがとうございます! 頑張りますっ!」

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サブマスターのブレーズ、彼の秘書クローディーヌと話をした後、
リオネルとヒルデガルドは、冒険者ギルド総本部敷地内にあるホテルの、
それも最上級スイートルームに居た。

いろいろ話が弾み、ヒルデガルドの生い立ち、リオネルの思い出話等々で、
盛り上がった後、「宿泊先をどうするのかい?」とブレーズから尋ねられ、
「このギルド総本部敷地内のホテルにするつもりです」と答えたのである。

実のところ、リオネルは当初から、そう決めていた。

念の為、冒険者ギルド総本部のホテルは超豪華というわけではない。
豪華というより、玄人志向で渋いという趣きだ。
元々、所属する冒険者の利用を想定していて、
国賓を迎えるような格は備えていない。

だが、リオネルは以前、師モーリス達と宿泊した事もあり、
ホテルの様子を充分に把握。
雰囲気、接客は勿論、内装、設備なども、
ヒルデガルドが気に入ってくれると思っていた事。

そして何より重要なのが、安全面。
ワレバッド街中のどのホテルよりも、ギルド総本部のホテルは、
保安体制が遥かに強固である事。

そう、ホテルの出入り口には、
騎士顔負けのベテラン冒険者警備員が24時間常駐していた。
また館内で何かあれば、すぐ駆け付けてくれる体制にもなっていたのだ。

とはいっても、ホテル自体24時間開放というわけでもなく、
夜の11時から朝の6時まで、出入り口はがっつり閉ざされている。

また敷地の出入り口である総本部の正門にも同じく警備員が詰めており、
外部からの侵入はほぼ不可能なのだ。

リオネルの話を聞いたブレーズは、クローディーヌへ命じ、
すぐホテルへ問い合わせ、速攻で10間続きのスイートルームを押さえた。

というわけで、リオネルとヒルデガルドは、
ホテルのスイートルームへインしたのである。

だが、その際、ふたりは少しだけ揉めた。

まずリオネルがスイートルームと同じフロアの別室に宿泊しようとした事。
これは即座にヒルデガルドが強硬に却下。
護衛役は、絶対、至近距離に居なければならないと。

いつもよりヒルデガルドが強硬だったのは、リオネルへ笑顔で接する、
人間族のストロベリーブロンド美女、
クローディーヌのたおやかさに嫉妬したのかもしれなかった。

次にリオネルがスイートルーム内の別室に宿泊しようとしたが、
これもヒルデガルドが大反対。
「私と一緒のベッドで寝てください!」とせがんだが、
さすがに「それは出来ません」とリオネルが却下。

ヒルデガルドが寝る大きなベッドのそばに、シングルベッドを置いて貰う事で、
ようやく妥協して貰ったのである。

ようやく話し合いに決着がつき、機嫌が直った?ヒルデガルドは、
改めてスイートルームを探検。
シックかつ渋い内装を見て、子供のようにはしゃぐ。

「わあ! リオネル様っ! アールヴ族の様式とは全然異なりますが、人間族の高級な様式も、本当に素敵ですねっ!」

「ええ、決して派手ではありませんが、このホテルの様式は、俺も大好きですよ」

リオネルとヒルデガルドは、顔を見合わせ、にっこりと笑ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ホテルのスイートルームををリザーブしてくれた際、再びブレーズから、

「ヒルデガルド様が本日すぐ、総本部の見学を行いたいとのご希望だから、私の方で許可を貰っておく。案内はクローディーヌが行う。後程、彼女がホテルの部屋へ伺う事となるだろう」

と告げられた。

ブレーズとのやりとりの末、1時間後にクロディーヌが、
部屋へ迎えに行く事となり……

リオネルとヒルデガルドは、部屋へ戻り、各自の旅の荷物を出してから、
片付けをし、身支度を整え、雑談しながら待っていた。

ちなみに旅の荷物は、『お約束』という事で、
仕舞っておいたリオネルの収納の腕輪から、「搬出した」のである。

部屋へ入り、1時間と少し経った頃、
スイートルームの扉へ近づく気配が、『ふたつ』あった。

約束通りであり、安全なギルド総本部ホテル内ではあるが、
リオネルは念には念を入れて『索敵』を張り巡らせている。

それゆえ、部屋へ接近する者の有無。
接近する者が何者なのか?すぐに判明するようにしていた。

今回も近づく者が何者なのか、即座に分かった。

ひとりは約束した『待ち人』たるクローディーヌ。
もうひとりも、リオネルが良く知る人間である。

とん!とん!とん!とん!

リズミカルにノックが為された。

「!!??」

びく!
と、少しだけびっくりし、ヒルデガルド身を震わせた。

……ヒルデガルドの能力スペックは、本人からざっくりと聞いている。
彼女は祖父イェレミアスと同じく、
水属性と風属性の複数属性魔法使用者マルチプル
魔力量も普通のアールヴ族の数倍はある。
持つ素質は文句なしの上級魔法使いではあるが、
実力はまだまだ祖父に遠く及ばないという。

もっともっと、修行を積み、鍛える必要がある。

本人が望むのは勿論、イェレミアスからも、
ヒルデガルドへ行政スキルを教授するだけではなく、
術者としても、レベルアップさせて欲しいと頼まれていた。

戦いには情報が不可欠である。
他にもいろいろ応用が利く敵等の接近を感知する索敵と、
リスクを負わないようにする危機回避能力を、まず鍛えなければとも思う。

リオネルはそんな事を考えながら、不安な表情のヒルデガルドへ言う。

「ヒルデガルドさん、大丈夫です。部屋の前へ来たのはふたり。で、ノックをしたのは、先ほど会った秘書のクローディーヌさん。それと、もうひとりは、俺も知っている人なんでほぼ安心ですよ」

「リオネル様!! さ、索敵ですよねっ!!」

「はい、索敵です」

「だ、誰なのか!! や、やはり、分かりますか!? 」

「ええ、100%というわけではありませんが、大体は分かります」

「す、凄いです! 以前から習得したいと思っていましたが! わ、私にも教えてくださいませっ!」

「はい、頑張って一緒に修行しましょう」

「リオネル様! ありがとうございます! 頑張りますっ!」

という会話を交わすリオネルとヒルデガルド。

そして扉の向こうからは、

「ヒルデガルド様! リオネル様! ご案内の準備が出来ましたのでお迎えに伺いました!」

クローディーヌが声を張り上げ、告げて来たのである。
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