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第604話「リオネルの導きで見るもの、聞くもの、体験する事全てが面白く興味深い」

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笑顔の買い取り部門の長は、リオネル達3人を、部屋の奥へといざなった。

これから一体何が始まるのだろう。

興味津々のヒルデガルドは、目をキラキラさせ、わくわくどきどきしながら、
リオネルの一挙手一投足を見守っていた。

そんなウキウキ気分なヒルデガルドの様子を見て、笑顔のエステルが言う。

「ヒルデガルド様、昨日もご説明致しましたが、この買い取り部門は冒険者達が依頼を遂行する中で得たお宝を鑑定して貰い、査定の上売却。現金化する場です」

「はい、ありがとうございます。エステルさん達からして頂いた昨日の説明で、しっかりと理解しておりますわ」

……3人が案内された場所は、レストランのVIPルーム同様、区切られた個室となっており、特別な人物、特別なお宝を扱うみたいな特別感が半端ない。

先ほど見た大型の作業台――サッカー台が5つ。
そして片隅には、宿屋の個室くらいありそうな木製の巨大な平台が置かれている。

片隅には打合せを行うのであろう、応接セットも設置されていた。

「空間魔法を使う」と一旦職員達へ断りを入れてから、リオネルは収納の腕輪より、
オークの宝箱4つを、巨大な平台上へ『搬出』した。

リオネルの場合は魔道具だが、そもそも空間魔法を行使する冒険者は稀である。
空間魔法の習得は中々困難であり、術者はとても重宝されるからだ。

また空間魔法を付呪エンチャントした魔道具は極めて高価であり、
あってもディバック並みの小さな容量のものが殆どなのである。

というわけで、何もない空間から大小の宝箱4つがいきなり「どどん!」と現れば、
職員達から「おお!」と驚きの声が上がったのも無理はない。

以前、フェフ官邸の訓練場において、このオーク宝箱をチェックした際は、
単なる中身の検品と、商人達からの一方的な見積もり告知を受けたのみ。

今回、リオネルは自身の価値観、イエーラ商人達が出した見積もりと比べ、
もしも折り合わねば、売却しないとも話していた。

「ええっと、部門長さん……これらの宝箱の出どころですが、先日イエーラ付近の魔境でオークを討伐した際に彼らが巣にしていた洞窟において獲得しました。証人としてヒルデガルドさんが立ち会っています」

「成る程、そうなんですか」

「はい、こちらで既に確認済みなので、呪い等の危険はほぼないと思います。ですが、万が一の場合もありますから、念の為に、注意しながらの作業をお願いします。ちなみにこれは4つの宝箱全ての商品リスト一覧です」

リオネルはもろもろ説明を行い、
作成した商品リスト一覧を複製した『控え』を渡した。

商品リスト一覧を、押し頂くように受け取った買い取り部門長は、

「了解致しました、リオネル様。充分注意の上、検品、鑑定し、査定させて頂きますね。作業にしばしお時間を頂きますので、査定が出るまで少々お待ちくださいませ」

柔らかな笑みを浮かべ、深くお辞儀をしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……作業の待ち時間も、リオネルは決して無駄にはしない。

鑑定魔法を織り交ぜながら、商品を丹念にチェックして行く、
ギルド職員達の様子をしばらく見学してから、部門長へ断り、部屋内の応接へ移動。

エステルへ頼んで、
冒険者ギルド総本部にある店舗と取り扱い商品が詳しく記載された、
『ショッピングガイド』を急ぎ持って来て貰った。

午後に予定しているヒルデガルドのショッピングの為の下準備である。

というわけで、査定が出る間、『ショッピングガイド』を見ながら、
各店舗についてエステルから説明が為された。

その際、リオネルがエステルへお願いし、
以前ミリアンがフォローして貰ったのと同様、
ヒルデガルドと女子同士で買い物をした方が良いものの提案もして貰う。

例えば女性用のランジェリーなどである。

ヒルデガルドは傍に居て構わないと言うのだが、
さすがにリオネルは一緒に買い物が出来ない。

ただリオネルは、ヒルデガルドの護衛役なので、
その際は店舗のすぐ外で待つ事となる。

リオネルがそう言うとヒルデガルドは「どうして?」と難色を示したが、
いざという場合は、店舗内へ突入するという事で、何とか納得して貰った。

……そうこうしているうちに、職員達の作業が終わり、査定が出された。

改めて、既存の商品リスト、見積書と付け合わせを行う。

結論から言えば、ギルド買い取り部門の査定価格は、
イエーラの商人達が出したものよりも、どれも2割から4割近く高かった。
特に古銭、骨とう品の値段の差が結構大きい。

イエーラの商人達があこぎな査定をしたのかと、
ヒルデガルドは怪訝な顔をし、不機嫌となった。

「ねえ、リオネル様」

対して、リオネルは平然とし、微笑んでいる。

「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」

「こちらではあっさり買い取りが決まった事がとても驚きでしたわ!」

「ええ、商品が強奪品とか、盗品等の犯罪がらみとか、呪われているなどのわけあり品でなければ、基本的には問題なく買い取りして貰えますよ」

「むうう、それに引き換え、イエーラの商人達は、でもでもだってで、ぐずぐず、言い訳ばかり! あんなに及び腰で結局は買い取り拒否! 本当に情けない!! 腹立たしい!!」

憤慨するヒルデガルドをリオネルはなだめる。

「まあまあ、落ち着いて、彼らも生活が懸かった商売ですから、仕方がないですよ」

「それに! 殆どの商品がイエーラでついた買い取り価格よりも高く査定して貰えました。イエーラの商人達は、あこぎに安く買い叩こうとしていたのですか? ワレバッドの冒険者ギルドとイエーラとではここまで、査定価格が違うものなのですか?」

速射砲のように質問を連発するヒルデガルド。
リオネルは丁寧に質問に答えて行く。

「ええ、こういう場合は良くありますよ。確認は必要ですが、一概にイエーラの商人達があこぎとは言えません。査定価格が違うのは、多分、需要と供給のバランス、そして骨董品の価値の差が大きいと思いますね」

「査定価格が違うのは、需要と供給のバランス、骨董品の価値の差……ですか」

「はい、買い上げたものをギルドは自身の利益を付加し、再び他者へ売却します。それはイエーラの商人達も同じですが、価格が違うのは、このワレバッドにおいて、希少価値があり、より高く売れるからです。そして骨とう品は、愛好家が数多居る市場の大きさの違いだと思われます。イエーラよりも遥かに引き合いが多いのでしょう」

「な、成る程……」

リオネルの説明を聞き、ヒルデガルドは納得。
彼女の機嫌は完全に直った。

更にリオネルは説明を続ける。

「古銭や骨とう品以外でも、イエーラでは安く手に入る一般的な商品が、配送費や人件費などのコストがかかってしまい、ワレバッドではその分、高価だと考えれば、理解しやすいと思います」

「そうなんですね!」

「はい、イエーラにおいて安く手に入る商品を仕入れ、需要があれば、違う土地でコストを加味した利益を加えて高く売る。イエーラにおいて高値でしか買えない人気のある商品を違う土地で安く仕入れ、かかるコストを考えた利益を加えても、イエーラの値段よりは若干安く売るというのが交易の基本です」

「成る程、成る程、仕入金額と売却金額、更に配送費や人件費などのコストを引いたその差額が本当の儲けに、つまり純粋な利益になるわけですね。とても勉強になりますわ」

飲み込みが早いヒルデガルドと話した後、
リオネルはいくつかの商品に関しては価格交渉を行った。

結果、それらの商品は、やり取りの末、更に1割ほど価格がアップ。
リオネルは、お願いし、売却代金全てを現金で受け取る。

「え? リオネル様、交渉したら、買い取り金額が上がりましたね」

「ええ、いつもいつも全部が全部上がるとは限りませんが、いくつかは俺の見立てでもっと高く買い取りして貰えると思いましたから、ダメもとで交渉してみました」

「成る程」

「今回は上手く行きました。但し、何でもかんでも強引に申し入れるとこじれる場合もありますから、注意が必要です」

「はい、無理は禁物という事ですね! これが商売の駆け引きというものですか!」

リオネルの導きで見るもの、聞くもの、体験する事全てが面白く興味深い。
ヒルデガルドは満足そうに、「うんうん」と頷いていたのである。
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