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第620話「謙遜せずともよい。ランクSの遥か上を行く、魔王をも倒す伝説の勇者級と言っても過言ではないぞ」

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「分かった! 私が王都リーベルタース支部ギルドマスターへの紹介状を書き、君に託す。更に魔法鳩便で、いずれ訪問すると記した、手紙も送っておこう」

ローランドはそう言うと、にっこり微笑んだ

リオネルは、ローランドへ、アクィラ王国王都リーベルタース支部のギルドマスターを紹介して貰うお願いをし、魔法鳩便で手紙を送って貰う事となった。

紹介状はリオネルが預かり、事前に手紙で、
リーベルタースへ訪問する事を伝えて貰う。

イエーラの準備が整い、頃合いを見て、リオネルがリーベルタース支部へ赴き、
王家や上級貴族からの依頼を完遂すれば、
アクィラ王国との伝手つてを作る事は可能であろう。

またワレバッドの街に、イエーラ公社の支店と、
アンテナショップ的な物産店を設置する許可も得る事が出来た。

これでソヴァール王国においても交易を始める事が可能となった。

伝手が出来れば、ワレバッドと同じく、リーベルタースにも、
イエーラ公社の支店と、アンテナショップ的な物産店を設置する許可を貰うつもりだ。

その他にも、ローランドへいくつかお願いを入れて、了解を貰う。

ここで頃合いと見たのか、ローランドが壁にかかった魔導時計を見て、微笑む。

「リオネル君、そろそろ食事にしないかね?」

「ああっ、ついついたくさんお願いして、申し訳ございません」

「いやいや、君は相変わらず仕事熱心で良い事だよ」

そんなローランドの言葉には、出来ればイエーラではなく、
故国ソヴァール王国の為に働いて欲しかったという、本音の波動が含まれていた。

かつてリオネルが、モーリス達とともに行った町村支援策を、
ローランドは高く評価していたのである。

……という事で、全員で大広間へ移動。

大広間の巨大テーブルには屋敷の料理人が腕を振るった数多の料理が並べられ、
会食の準備は完全に整っていた。

生まれて初めて経験する人間族貴族家の食事に、
少々緊張気味なヒルデガルドではあったが、

「ははは、おふたりとも、気張らず気楽に食事を楽しんでください」

というローランドの言葉と笑顔、

「大丈夫ですよ、ヒルデガルドさん。ホテルのレストランと同じ作法で行きましょう。リラックス、リラックス」

そして、ささやくリオネルのいたわりで、ヒルデガルドは気持ちがやすまり、
何とか、席に着くことが出来た。

更にリオネルが、

「……深呼吸して気持ちを落ち着かせ、クローディーヌさん、エステルさんのアドバイスも思い出しましょう」

とも、ささやいてくれたのだ。

リオネルの言う通り、人間族の食事作法に慣れないヒルデガルドを、
クローディーヌとエステルもホテルの食事を共にする際、
いろいろ手ほどきをしてくれた。

「はい、分かりました、リオネル様、落ち着きました。もう不安はありませんわ」

……こうして、食事会が始まった。

ここでローランドから、

「ヒルデガルド様」

「は、はい、ローランド様」

「差し支えなければ、イエーラにおける国民の暮らしぶりを教えては頂けないか?」

ヒルデガルドはリオネルをチラ見。

この質問は、誰からもよくあるものでふたりには想定内。
事前にリオネルとヒルデガルド、そしてイェレミアスの3人で内容を考え、
文書化し、答えられるよう、全員で暗記していた。

リオネルが小さく頷くと、ヒルデガルドも小さく頷き、
差しさわりのない内容である、イエーラ国民の暮らしぶりを話し始めたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ヒルデガルドはまず、誰もが知るイエーラの成り立ち、
太古の妖精の末裔が集落を作り、村から町、国になった事を話してから、
国民の暮らしぶりを話す。

自然と精霊、魔法を尊び、農業と畜産を主に生業なりわいとするイエーラ国民は、普段は質素倹約を旨とし、誕生日、記念日などお祝いの日には、
少しぜいたくをし、楽しく飲み食いし、歌い踊ると。

鎖国状態のイエーラの内幕が、長たるソウェル自ら語られる事に、
その場の全員が、興味深そうに耳を傾けていた。

ヒルデガルドの話を聞き終え、ローランドは礼を告げた。

次にヒルデガルドから、ソヴァール王国について、
また世界の情勢について質問が飛ぶ。

対してローランドは、ソヴァール王国の歴史について簡単に述べた後、
「あくまでも私見である」と断ってから、世界情勢について語り始める。

世界には数多の国があり、その国を支えているのは国民であると。
国民をまとめ、率いていく為には優秀なリーダーが必要であり、
また国を運営する為の経済力が、魔物などの敵から守る為には、
武力が必要である事も話した。

そして「先んずれば人を制す」ということわざ通り、情報も大事だと強調した。

その上で、ソヴァール王国、アクィラ王国、その他の国々の立ち位置について語り、
イエーラがもしも鎖国を解除し、
他の国々と付き合って行く場合の心構えを説いたのである。

ローランドの話と、リオネルが普段からする話の内容は一致する部分が多い。

ヒルデガルドは納得しながら、ローランドの話を聞いたのである。
ホテルの部屋へ戻ったら、リオネルと確認し合い、記録に残そうと決めた。

次にローランドは、ワレバッドを旅立ち、
フォルミーカへ入ってからのリオネルの話を聞きたいと願った。

特にフォルミーカ迷宮の最下層攻略の話を聞きたいと強く希望したのである。

「リオネル君、どうだろう? この街を旅立ち、フォルミーカ迷宮の最下層へ到達するまでの話をいろいろ聞かせては貰えないかな?」

「はい、分かりました」

リオネルはワレバッドを旅立ってからの話を、はしょって述べた後、
フォルミーカ迷宮へ入り、表向きの最下層150階まで到達した事を話した。

フォルミーカの街で、ひょんな事から、
至宝『ゼバオトの指輪』と邂逅した事は当然伏せてある。

また真の最下層300階層に眠る古代地下都市と転移装置。

異世界ヤマト皇国より、次元を超え、この世界へやって来た、
インテリジェンスソード、しゃべる太刀のムラマサとの邂逅なども、
言えるわけがない。
ちなみにヒルデガルドとの旅に出てから、腰に提げているのは、ムラマサではなく、
以前から愛用していたミスリル製のスクラマサクスだ。

しかし、それらを差し引いても、
途中の魔物との戦い、深層の地下庭園におけるドラゴン、巨人族との戦いや、
ヒルデガルドの祖父イェレミアスとの出会いを淡々と語るリオネルの話は、
ローランド達の胸をわくわくさせるには充分であった。

実際、ローランド自身は、若き頃フォルミーカ迷宮へ挑み、
地下庭園でドラゴンと戦ったが、同行していた仲間が重傷を負い、撤退。
攻略を断念した過去があった。
それから、多忙の身となり最早フォルミーカ迷宮へ挑む余裕もない。

だから、強靭な従士を連れていたとはいえ、人間族としては単身、
フォルミーカ迷宮へ挑んだ若きリオネルを、
『自身を超えたもの』として、畏怖の眼差しで見つめたのだ。

「リオネル君」

「はい」

「フォルミーカ迷宮の冒険譚はとても面白かったし、ドラゴンや巨人族との戦いぶりは本当に凄い。たいしたものだよ、リオネル君の実力は」

「いえ、そんな」

「謙遜せずともよい。ランクSの遥か上を行く、魔王をも倒す伝説の勇者級と言っても過言ではないぞ」

リオネルは、魔王をも倒す伝説の勇者級……
ローランドの称賛を聞き、ヒルデガルドもうっとりしていた。

しかしリオネルは苦笑。
そして言う。

「いえ、いえ、ローランド様。現時点のレベルを考えると、まだまだ、自分は発展途上です」

「ははは、現在はレベル50だったな、君は。確かに更なる上を目指せるだろう」

ローランドはそう言い、

「今後、イエーラでの仕事を終え、もしも戻りたいと思ったら、いつでもソヴァール王国へ帰って来てくれ。国をあげて大歓迎するからな」

満面の笑みをリオネルへ向けたのである。
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