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第633話「このように費用、時間、手間を軽減する為に魔法があるのだと俺は思います」

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「ヒルデガルドさん、1本目の街道に到着しました。フェフからちょうど100㎞地点です」

そう、官邸から消えたリオネルと、
『背負い搬送具』でおぶさられたヒルデガルドは一瞬で転移、
フェフから遠く離れた街道100㎞の更に上空100mに位置していた。

少し離れた場所に呼び出した『魔導光球』がまぶしい光を放ちながら浮かんでいる。

手を軽く振り、リオネルは魔導光球を降下させ、街道を照らしたが、
『大鷲の視線』&『猫の夜目』による目をこらした視認でも動くものは居なかった。

「よし……どうやら大丈夫そうですね。索敵でも半径5㎞以内に魔物や肉食獣は皆無です。ですが万全を期す為、魔獣ケルベロスを護衛として召喚します」

絶対に守るべき対象ヒルデガルドを連れているので、
リオネルは石橋を叩いても渡らないくらい用心深い。

宙に浮かびながらケルベロスを異界から呼び、
街道に現れたケルベロスは周囲に、にらみをきかせた。

これで、ほぼ大丈夫だろう。

魔導光球を先に降下させ、明かりを確保。
続いて街道に降下したリオネルとヒルデガルド。

ヒルデガルドを背負ったまま着地したリオネルは、
収納の腕輪から、「搬出」
すかさず鋼鉄製ゴーレム20体を出した。

既に彼らの腕には道路工事用アタッチメント各種が装着されている。

それぞれのアタッチメントによりしっかりと役割分担をし、
ゴーレム達は円滑に作業を進めて行くのだ。

早寝早起きが生活モットーのアールヴ族達が暮らすイエーラにおいて、
魔物が出現する真夜中に、街道を通行する者はほぼ居ない。
だから、工事の進行に支障はないというリオネルの計算である。

「いいか、お前達! この街道を幅8mに拡張しながら、都へ向かって整地しながら進んで行け! 万が一、通行者が居たら、一時的に作業を停止。通行後に再開しろ。もし何か問題が起きたら、俺へ緊急波動を送るんだ!」

ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! 
ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま! ま!

声を張り上げたリオネルの命令を聞き、
鋼鉄製ゴーレムたち20体は応えるように吠え、
道路拡張&整地作業を開始した。

「これでよし! じゃあヒルデガルドさん、次の街道に移動しますよ」

「はいっ! ソウェルとしてヒルデガルド・エテラヴオリが、間違いなく道路工事の開始を確認致しました」

「はい、ご確認ありがとうございます」

笑顔で頷いたリオネルは「ふっ」と浮き上がると、魔導光球を新たに出現させた。
次に周囲を警戒していたケルベロスを一旦、異界へ帰還させる。

「準備完了、さあ、転移します」

「はいっ!」

転移魔法発動!

リオネルとヒルデガルドは、ふたつめの魔導光球とともに、煙のごとく消え失せた。

こうして……フェフから延びる5つの街道は、リオネルが使役する計100体のゴーレムにより、ガンガン拡張、どんどん整地されて行ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

5つめの街道の工事を開始した後、リオネルとヒルデガルドは、
官邸へ一旦戻り、しばし、ひと休憩。

休憩後、ふたりは再び転移魔法で一番最初に拡張、整地作業を開始した街道へ戻り、
ゴーレム達が工事済みのエリアを確認しながら、リオネルは地属性魔法を行使し、
石畳舗装化して行く。

そして、オーク討伐の際と同様、飛翔して上空から、魔導光球を照らし、
石畳舗装済みの街道の視認を行う。

視認が終わったら、リオネルとヒルデガルドは2番目に拡張、整地した街道へ移動。
地属性魔法を行使し、石畳舗装化して行く。

それらを繰り返し……なんやかんやで、石畳舗装とその視認が全て終了したのは、
午前3時を少し回った時間。
幸い魔物、肉食獣等は突き進むゴーレム軍団に臆したのか全く現れず、
さしたるトラブルもなく、工事は完了していた。

ほぼ予定通りの工事終了時間ではあるが、夜が明け、周辺の町村から行商人達がやって来るのは日の出と同時の午前4時なので何とか間に合った感がある。

さすがに今朝はトレーニングや護身術教授などは中止となっていた。
リオネルとヒルデガルドはは、お昼まで仮眠を取る予定だ。
ちなみに、まだ夜中なので、イェレミアスは就寝中であった。

さすがに少し疲れが出たのだろうと、ヒルデガルドはリオネルをいたわる。

「リオネル様、ありがとうございました。お疲れ様でした。いつもながらお見事です。とりあえずは終わりましたね」

対して、リオネルに全く疲れは見えず、いつもと変わらない様子である。

「ええ、ヒルデガルドさんも本当にお疲れ様でした。とりあえず終わりましたが、第一次工事という感じで、今回の工事はフェフからの主要街道のみですね」

「はい、ですがリオネル様。主要街道のみでも、私達アールヴ族がまともに工事をすれば、10年、20年と時間を要し、莫大な費用と時間、そして大勢の人手がかかるでしょう」

「まあ、そうかもしれませんね」

「それをたったひと晩でゴーレム100体と地属性魔法を使い、終わらせるとは……リオネル様の行使される魔法は本当に素晴らしいですわ」

「いえいえ、まだまだですよ。ただ今回の工事はほんの一例ですが、このように費用、時間、手間を軽減する為に魔法があるのだと俺は思います」

「ええ、おっしゃる通りですわ。魔法とはこのように使うものだと再認識させられます。いずれはイエーラ中の街道を石畳に変えたいですね」

という会話を交わし、念の為リオネルがヒルデガルドと自身に、
『全快』の魔法を施し、体力全回復、気分超爽快となったふたりは仮眠へ。

やはりというかヒルデガルドは、リオネルと一緒に寝たかったが、
何とか我慢したのは内緒だ。

そして……午前4時になり、
いつものように都フェフへ向かう行商人達は、街道へ出て大いに驚いた。

彼ら彼女達の目の前には、格段に広くなった道幅で、
ピカピカな石畳で綺麗に舗装された街道が、
まっすぐにフェフまで延びていたからである。
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