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第655話「はい、申し訳ありませんが、それ以上はお伝えする事は出来ません」

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ドラゴンどもを討伐したリオネルとヒルデガルドは、
討伐の総本部である破壊された町へ戻った。

待機していたアルヴァー・ベルマン侯爵と騎士隊は、
ふたりが戻ったのを見て、ひどく驚いている。

「お、おお!! ヒ、ヒルデガルド様!! リ、リオネル殿!! よ、よくぞ!! い、生きて戻りました!!」

驚くあまり、お疲れ様とか、ご苦労様とか、
ねぎらいの言葉さえ忘れているアルヴァー。

対して、元気でかすり傷ひとつないヒルデガルドとリオネルは、
しれっと言葉を戻す。

「はい! 侯爵様、ただいま戻りましたわ!」

「そちらは、異常なしのようですね。こちらも、ヒルデガルド様と私、ふたりとも、けがもなく無事ですよ」

「う、うむ!! だ、だが!! 驚きましたぞ!!」

「驚かれたとは、何がでしょうか? 侯爵様」

笑顔で尋ねたのはヒルデガルドだ。

「いえ、ヒルデガルド様。おふたりともご無事なのは良いのですが、出撃されてから1時間少ししか経っていない……」

「ええ、時間にしたら、それくらいですわね」

アルヴァーのつぶやきを肯定する笑顔のヒルデガルド。

しかし!
それどころではない、アルヴァー。
ドラゴンどもがどうなったのか!?
気になって仕方がないのだ。

「そ、それくらいって!!?? は、早すぎますっ!! 肝心のドラゴンどもは!!?? ど、どうなったのですか!!??」

さすがに、もしや恐れをなして逃げたのですか?と失礼な事を尋ねないアルヴァー。
そんな事を問うたら、間違いなく外交問題となるから。

ヒルデガルドは、そんなアルヴァーの心を見透かしたように、
にっこりと笑って、ズバリ言う。

「はい! リオネル様と私、そして従士達の協力もあり、既に討伐致しましたわ」

「え!!??」

ま、ま、まさか!!??
長きにわたり苦しんだ国難が……ほんの1時間ほどで解決した!!??
しれっと答えるヒルデガルドに、アルヴァーは絶句。

リオネルが追随し、そんなアルヴァーへ、声をかける。

「侯爵閣下、ヒルデガルド様のおっしゃる通りですよ。まずワイバーン10体を倒し、残ったドラゴンを巣穴からあぶり出して、倒しました」

あまりにもシンプル過ぎるリオネルの討伐報告。
そう、ドラゴンどもを倒した方法、手段は具体的に語られてはいない。

……何故なら事前の打合せで、討伐の方法や経過は、
具体的に話さないと取り決めしたからだ。

術者の秘匿する奥義等を明かさない為であり、討伐の『結果』さえ出せばOKだと、
王国のナンバー2、宰相ベルンハルド・アクィラが了解したのである。

なので、部下のアルヴァーは、それ以上追及出来ない。

「むううう……」

渋い表情で唸るアルヴァー。

だが、リオネルは構わず話を続ける。

「倒したドラゴンの死骸はケルベロスに番をさせてあります。ワイバーンども10体の死骸は放置していますが、野の獣に食い荒らされないよう、空からグリフォンが威嚇しながら見張っていますよ」

「…………………………………………」

とうとう無言になってしまったアルヴァー。
しかし、現在の状況だけは理解したらしい。

笑顔のリオネルは小さく頷き、

「という事で、侯爵閣下と皆様には、事前の打ち合わせ通り、現場検証をお願い致します。ドラゴンどもの討伐確認をして頂き、確認終了後は自分が空間魔法で死骸を仕舞い、全員で撤収しますので」

「わ、分かった!!」

「では、そちらの出立準備が終わるまで、自分達は待機します。OKならば、いつでもお声がけください」

「う、うむ! 急いで野営を解き、撤収。出立の支度をしよう」

「了解です。確認終了後はそのままリーベルタースへ帰還しますから、それを前提でお支度をお願い致します。予定より早く討伐が完了したので、せっかく野営準備をして頂いたのにすぐに撤収で申し訳ありませんでした」

「いやいや、それくらい何でもない。少しでも早い討伐が最優先されるからな」

リオネルと会話を交わすうちに、アルヴァーは気持ちが落ち着いて来た。
とにもかくにも、ドラゴンどもは討伐されたのだ。

ドラゴンどもの脅威により、長きにわたり苦しんだ国難は……ようやくなくなった。

そう思い、アルヴァーは「ふう」と軽く息を吐いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……しばし経ち、支度が完了。

『防護壁』として呼び出していたゴーレム軍団100体も撤収させた上……

念の為、アルヴァーとともに待機していた魔獣兄弟の弟オルトロスを先頭に立て、
リオネル達は討伐の総本部を撤収、破壊された町――を出発した。

周囲の原野を歩く一行。

ワイバーン10体の死骸がある場所はチェックしていたので、順繰りに回って行く。

リオネルが場所を記憶しているのと、ジズが上空を飛んでいるから、
効率良い『巡回コース』はすぐに決まった。

そんなこんなで、やがて一行の視野には、ぴくりとも動かない一体のワイバーンが。

「お、おおおっっ!!?? こ、こ、これはっっ!!?? ほ、ほ、本当に死んでいるのかっ!!??」

「ご安心ください侯爵閣下。オルトロスを先に行かせ安全を確認させますので」

リオネルの指示でオルトロスがそばに立っても、ワイバーンは全く動かなかった。

当然ながら、物言わぬ『死骸』である。

事切れたワイバーンの死骸を見たアルヴァー以下、騎士隊の驚きは大きかった。

リオネルとヒルデガルドの討伐が真実であると確信したのだ。

「侯爵閣下、尾の毒にだけご注意して頂き、存分にご確認ください。こうやって10体のワイバーン全てを回収、最後には首魁のドラゴンをご確認して頂き、回収しますので」

「う、うむ! 了解した!」

アルヴァーはそう返すと、配下の騎士達へ確認を命じる。

「皆の者! ワイバーンを検分せよ!」

命じられた騎士達は、興味深そうにワイバーンの死骸を観察する。

そんな部下達を見ながら、アルヴァーは言う。

「申し訳ない! 詳しく聞けないというのは重々承知しているが、どうやって倒したのか、宰相へ報告しなければならない。だから、ほんの少しだけで構わないので、教えて貰えないだろうかリオネル殿」

「はい、ならば簡単に申し上げます。このワイバーンは、ヒルデガルド様、従士と協力し……魔法とスキルで撃ち落とした上で行動不能とし、自分が剣でとどめを刺しました」

「むう~~……そうか」

リオネルの『報告』を聞いたが、不満そうなアルヴァー。
戦いの流れは分かったが、具体的な内容が全く見えないからだ。

しかし、リオネルは笑顔で、

「はい、申し訳ありませんが、それ以上はお伝えする事は出来ません」

そうぴしゃりと言い切り、

「侯爵閣下、ご確認が終わられましたら、ワイバーンの死骸を回収し、次に向かいますのでおっしゃってください」

再びにっこりと笑ったのである。
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