悪魔☆道具

東導 号

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奇跡の救援者編

第8話「妻の願い」

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 北方砦が無事守られて、3か月後……

 ラウルス王国王都エードラムの中央広場から職人通りへ入った路地を、歩く男女の姿があった。
 ひとりは貴族らしい服装をした30代半ばの逞しい男、もうひとりは穏やかな笑顔を浮かべ、彼に仲睦まじく寄り添う美しい貴婦人である。
 
 この男女は……
 北の砦の任務を無事に勤め上げ、帰還したベルナール・ゴーギャン男爵と愛妻クローディーヌであった。

 あれから……事態は一気に好転した。

 総大将ウジェーヌ侯爵を失ったラウルス王国軍3,000名は……
 理不尽もしくは不可解ともいえる、砦への救援を遅らせる理由が無くなった。

 組織の規律上、ウジェーヌにやむなく従ってはいたが、現実問題としてオークの大群が王国へ乱入したらとてつもない脅威となる。
 下手をしたら、王国の存亡にもかかわるのだ。

 大将代理を務める事となった副官の判断で王国軍は急ぎ、北方砦へ向かったのである。
 
 しかし!
 
 意外にも事態は収拾していた。
 オーク達が惨殺されていた激闘の後を見て……
 副官以下、救援に赴いた王国軍は、ベルナール以下守備隊が大いなる脅威を撃退した事を知ったのである。
 
 守備隊が勝利した理由が、謎の巨人の登場など未知の部分は多かったが……
 とりあえず、オークの大群による王国蹂躙の危機は避けられた。

 勝利報告を受けた副官は、守備隊の勇気を称え、ベルナールはその功績を認められ王都へ戻った。
 ちなみに後任の隊長は、特別に騎士爵として取り立てられた副隊長のロック・ケーリオである。
 これまた、ベルナールを支えた大きな手柄が認められたのだ。
 
 ……ちなみに余談だが、ベルナールの報告から、ラウルス王国は北方砦の重要性を認めた。
 あまり時間を置かず、砦には防衛に十分な兵力が与えられ、設備も立派に修復強化された。
 晴れて貴族となったロックも数年後に、無事仲間と共に王都へ戻ったという。

 閑話休題。

 青銅の巨人タロスが出現し、オーク共を蹴散らしたあの時……
 ベルナールは自分の魂を受け取るように、心の中でバルバへ何度も申し入れたが……
 結局、返事はなかったのである。
 
 返事がなかっただけではない。
 魂を取り上げられるどころか、結局ベルナールの身体には、何も異変が起こらなかった。

 その後……到着した王国軍からウジェーヌが変死した事件を聞き、『全て』を悟ったのである。
 
 バルバと契約した筈の、ベルナール夫婦の魂は……何故か回収されず。
 その代わりに、悪徳に染まった醜い魂が、もう二度と戻れない遥か遠い異界へ持ち去られたのだと……
 当然、緊急の魔法鳩便で愛妻クローディーヌと連絡を取り合い、お互いの無事を確認した上での話だ。

 凱旋したベルナールが王都へ戻ってから、雑務を終えて漸く落ち着いたある日……
 あの謎の男バルバを訪ねようと言い出したのは、妻のクローディーヌである。
 ベルナール自身は、もうバルバへ関わりたくないという気持ちが強かった。
 バルバの正体は紛れもなく、怖ろしい悪魔だと確信していたからである。

 だが、愛妻の考えは真逆であった。

「あの方は、バルバ様は……私達夫婦にとって命にも代えがたい恩人ですもの」

「そうかなぁ……私は……彼に……バルバに会うのが怖ろしい気もするが……」

「何を仰っているのですか、このままにしていたら……私達は酷い恩知らずになりますわ。お店に伺い、ちゃんとお礼を申し上げましょう」

「分かった……確かに今、私達がこうあるのもバルバ殿のお陰だ。お礼を申し上げに伺おう」

 こうして、ゴーギャン男爵夫婦は中央広場へやって来たのだ。
 
 不思議な事に……
 店の具体的な場所を聞いていないのに、夫婦の足は自然と職人通りへ向かい、更に路地へ入ったのである。

「おお、あった」

「ありました、ここですね、貴方……」

 目の前に佇んでいるのは夫婦の予想以上に、古ぼけた建物である。
 多分、築20年は経っているだろうという雰囲気。
 
 ガーブルタイプの若干小さめの規模で、築年数のせいか風格がある。
 1階の店舗の扉は重厚な樫の木で出来ていて、これまた渋い獅子のドアノッカーが取り付けられていた。
 そして、そんなに大きくない木製の看板が掲げられている。
 表面には、達筆な文字で店名が書かれていた。

 魔道具の店『放浪ストレイアラ』と。

 ふとベルナールは思い出した。
 青銅の巨人タロスが現れた時、バルバが告げた言葉を。
 
 お前達は助かる……
 
 ……お前達って……そうか……
 守備隊だけではなく……私と妻も含めて全員って事だったのか……
 ……バルバ殿……ありがとう!

 とびきりの笑顔を浮かべる妻を見て、ベルナールは同様に微笑むと、獅子のドアノッカーを掴んで大きく打ち鳴らしたのであった。
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