隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第122話「消えない違和感」

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 地下6階でいくつかの戦いを経たダン達は、地下7階へ……
 少し進んだところで、結構な強敵に遭遇した。
 地上と同種のものが超が付くほど大型化した……
 大蟷螂ビッグマンティスである。

 幸い、出現した数は一体だけであったのだが、大きさが半端ではない。
 体長は……3mを楽に超えていたのだ。

 地上に生息する普通の蟷螂《かまきり》は、種類にもよるが、大きくても10㎝そこそこ。
 なので、異常というか、信じられないくらいの大きさである。

 この大蟷螂ビッグマンティス、何者かが意図的に、魔法か妖しい術で造り出したのか……
 それとも、この迷宮で自然に繁殖したのか……
 ここまでのサイズになった原因は、不明である。
 
 当然肉食であるから、人間は勿論他の魔物も喰らう。
 迷宮における、食物連鎖の上位に位置する捕食者なのである。

 大蟷螂はダン達を認め、左右に羽を広げた。
 『獲物』に対し、自分の身体を大きく見せて、威嚇しているのであろう。

 そして、表情のない無機質な顔をこちらへ向けた。
 否、昆虫でも表情は僅かにあるのかもしれない。
 ダン達には、分からないだけで……

 戦闘態勢に入った蟷螂に対し、先陣を務めるケルベロスは低く唸って威嚇。
 片や、クランの周囲を舞う火蜥蜴サラマンダーは、より明るく発光し、牽制する。

 ダンは慌てていない。
 どうやら、以前にも大蟷螂と戦った事があるらしい。
 相変わらず威嚇し続ける大蟷螂を、軽く睨んでいる。

『エリン、ヴィリヤ、ちょっと良いか? あいつに対しては戦い方を変える』

『変える? 戦い方を?』
『ええっと、どのように……ですか?』

 エリンとヴィリヤが、ダンへ喰い付いた。
 ふたりとも冒険者として戦う事が新鮮らしい。

『分かっていると思うが、今迄の方法でも充分に戦える。なのに、敢えて変える理由《わけ》を言おう』

『教えて、旦那様』
『普通に私が冷気で凍らせて、エリンさんが岩で砕く……確かにダンの言う通り、今迄と同じ方法でも問題ないと思いますが……』

 興味津々のエリン。
 疑問を呈するヴィリヤ。

『そもそも冒険者ってのは、本来シビアなその日暮らしだ』

『その日暮らし?』
『???』

 ツーと言えばカーと答えて欲しいダンではあるが……
 エリンとヴィリヤのふたりは、上流階級の出身で、今迄生活に困った事はない。
 ダンの言う、『その日暮らし』という言葉は、ピンと来ないようだ。

『冒険者は、正当な理由があれば、金になりそうなモノは常に頂戴するって事さ』

『???』
『???』

 ますます、首を傾げるエリンとヴィリヤ。
 これは、駄目である。
 話は、全くの平行線。
 理解される気配は、ない。

 困ったダンは、遂に痺れを切らす。

『悪い! 回りくどかったな。早い話があいつのカマを回収し、ヴィリヤへ進呈する』

『え? あのカマをヴィリヤへあげるの?』

 大蟷螂は武器となる、巨大なカマを持っている。
 正確には、とげのいっぱい付いた前足だ。
 
 エリンは吃驚。
 そしてヴィリヤは、いかにも嫌そうだという拒否の表情で、手を横に振った。

『ええっ!? 何故? あ、あんな虫の部位なんて要りませんよっ、気持ち悪い……』

『ヴィリヤ、まあ、そう言うな。あいつのカマは武器用の好素材で、売れば結構な金になる。今回お前の屋敷で拝借した装備の代金が、少しは返せるって寸法だ』

『へぇ! あのカマって売れるんだ? あ、成る程!』

 エリンは納得。
 「ポン」と手を叩くが……ヴィリヤはといえば、相変わらず渋い顔である。

『そんなの、気にしないで良いのに……あなた達からお金なんか受け取れないわ』

『いやいや、金は大事だぞ。儲けられる時に確実に儲けるのが冒険者の心得さ。だからあいつを凍らせて粉々にするのは、無しなんだ。価値がゼロになっちまう』

 エリンは楽しそうに聞いている。
 そして悪戯っぽく笑う。

『了解! 売れそうな部位を取るのなら、旦那様が火の魔法で燃やすのも無しだよね』

『うん! だが、カマを貰えば残りは用無しだから……燃やしちまう。そうじゃないと、あいつは不死者《アンデッド》になる……蟷螂の不死者なんてぞっとしないだろう?』

『うっわ、嫌だ、それ、考えたくない』
『確かに! 想像もしたくありません』

 やっと、エリンとヴィリヤの意見が一致した。
 更に、エリンがぽつり。

『でもエリン……あんな虫……初めて見たよ』

『え? 初めて?』

 エリンの言葉を聞き、ヴィリヤはまた違和感を覚えた。
 そして傍らのエリンを見ると、羽を広げて威嚇する蟷螂を、物珍しそうに見つめていた。

 確か……エリンはスライムを見た時も同じ反応をしていた。
 どこにでも居るスライムを……
 そして、この蟷螂も……

 さすがに、こんな巨大な魔物は地上に居ない。
 だが、『普通サイズの蟷螂』はありふれている。
 なのに、何故……こんなに珍しがるのだろう?
 エリンの育った土地って……どこだろう?
 さっきから、違和感が消えない……
 どうしても……

 そんなヴィリヤの想いは、ダンの念話で破られる。

『さあ、対大蟷螂の作戦開始だ。指示を出すぞ』

『了解!』
『は、はいっ、りょ、了解!』

 エリンは打てば響くという返事をしたが、ヴィリヤは無理やり思考を切り替えたという感がありありである。
 ダンは知ってか知らずか、「にこっ」と笑い、ヴィリヤへ言う。

『まずはヴィリヤ、今迄通り氷化の魔法を使え。但し、威力を少し抑え、奴を完全に凍らさずに動きを止める程度で』

『氷化魔法を弱めにですか?』

『その通り! もう何度も発動しているから、制御コントロールは完璧だな?』

『は、はいっ!』

 返事をしてから、ヴィリヤは軽く頭を振った。
 今は違和感など、後回しにしないと。
 それより、目の前の戦いに集中せよと、己を叱咤したのだ。

 更にダンは、エリンへと告げる。

『次にエリン、お前もヴィリヤ同様、奴の足止めをやってくれ。ローランド様に使った地の魔法、【大地の束縛】で蟷螂の動きを封じ込めろ』

『旦那様、了解!』

『よっし! ふたりが蟷螂の動きを押さえたその隙に、俺が剣で奴のカマを切り落とす。落としたカマを回収したら、ケルベロスと火蜥蜴《サラマンダー》が奴を速攻で焼却する。それで作戦完了だ』

 エリンとヴィリヤは、ダンの説明により、これから行う作戦を完全に理解した。
 全員で協力し、化け物みたいな蟷螂を倒すイメージが、しっかり湧いている。

『了解!』
『了解!』 

 後は……作戦開始の合図を待つばかりだ。

『よっし! 良いか? ……作戦、スタート!』

 ダンは頃合いを見計らい、クランへ戦いの合図を出したのであった。
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