隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

文字の大きさ
127 / 181

第127話「エリンとヴィリヤ⑤」

しおりを挟む
 ダンとの恋が実らない。
 エリンと結んだ深い絆を聞いたら、入り込める余地などない。
 ほぼ絶望的となった……
 あまりにも悲しくて、我慢出来なくなり、ヴィリヤは嗚咽していた。

「ヴィリヤ……」

「…………」

 エリンが呼び掛けても、ヴィリヤは黙って泣くばかり……
 更にヴィリヤの発する悲しみで、エリンの身体は、ちくちく刺すような痛みを感じていた。

 そう……
 エリンには、ダークエルフ特有の能力がある。
 他種族に比べ、様々な気配を読むのに長けているのだ。
 ダンと一緒に森を探索した時、鹿や狼の気配を察知したのは、この能力なのである。

 気配とは、対象が存在を発する合図、すなわち波動。
 そして波動は、対象者の『感情』をも運んで来る。

 泣き出したヴィリヤの波動も、彼女の悲しみの感情を、エリンへ報せて来た。

 私は、もう駄目だ!
 二度と、取り返しがつかない事をしてしまった!
 自分のつまらない失策で、ダンの気持ちを失ってしまった。
 彼はもう私を愛してはくれない。
 単に仕事だけの繋がり……
 ……立ち直れない。

 波動を読むまでもなく、ヴィリヤは傍から見ても分かるくらいに落ち込んでいた。

 悲しむヴィリヤを見て、エリンは葛藤している。
 叶わぬ恋に、もだえ苦しむヴィリヤの事が、可哀そうになっているのだ。

 しかしヴィリヤは……ダークエルフの宿敵、エルフである。

 そもそもエルフが何故、ダークエルフの宿敵なのか?
 それは、今は亡きエリンの父が教えてくれたから。
 憎むべき存在だと……

 エルフは、とても酷い奴等だと父は言っていた。

 祖先が同じだと言われるダークエルフを、殊の外、目の敵にする。
 否、ダークエルフだけではない。
 エルフは高慢な性格故、さしたる理由もなく他種族全てを、蔑視するというのだ。

 父の発する憎しみの叫びを、物心ついた時から、エリンは聞いていた。

 熱を帯びる父の、エルフに対する非難は止まらない。
 己が容姿と知性に絶対の自信を持ち、何かにつけ鼻にかけた物言いをする。
 常に計算高くて、ずる賢い等々。

 尊敬する父から毎日、そう聞かされていたらエリンもそう信じ、エルフを憎まざるをえない。
 更に父は……激しい憎しみの籠った目で、こうも言っていた。

 ダークエルフが地上から追放されたのは、エルフが創世神へ『諫言』したのが原因だと。
 ありもしないダークエルフの罪をでっちあげたと。
 
 もしも父の言う事が事実なら……
 ダークエルフは、エルフの工作による冤罪の為に、住んでいた地上を追われた事になる。
 そんな事は絶対に許せない、鬼畜にも劣る悪魔の所業である。

 そんなエルフとは到底、一緒になどやっていけない。
 クランを組むどころか、同じ空気を吸うのだって、不可能だっただろう。

 しかし、エリンの目の前に居るヴィリヤは、そんな女の子ではなかった。
 初めて会った時こそ、やたら「つんつん」してプライドが高く、鼻持ちならない子だと感じたが……

 じっくり話してみたら、『素』は違っていた。
 むしろ自分と似ていた。

 ヴィリヤは、あまり器用ではない。
 むしろ不器用だと言い切って良い。
 計算高くなど、けしてなく、自分の気持ちに忠実である。
 
 それどころか、不器用ながらもいつも全力で頑張る、まっすぐな優しい女の子だった。
 オークの出現で混乱し、我を忘れ暴走しかけたエリンを、自らの身体を張って救ってくれたのだから。

 そう!
 違う!
 違うのだ!
 父から聞いていた悪辣なエルフとは……ヴィリヤは全く違うのだ。

 宿敵エルフであれ……
 ヴィリヤは、同じ人間の男を愛した女……
 自分と同じ……

 エリンはふと、自分がダンと出会ったばかりの時を思い出していた。

 あの時、エリンは必死だった。
 連れて行ってくれと、泣いてわめいて、ダンにとりすがった。
 高貴なダークエルフの王女とも思えない、酷い醜態をさらしたと思う。
 
 良く良く考えてみれば……
 あの時、泣いてわめいた自分も、今、目の前で嗚咽するヴィリヤも……
 全く同じではないか……

「ふっ」

 思わず微笑んだエリンの……心は決まっていた。
 この気持ちは、……ニーナの時と一緒だ。
 エリンはニーナの真っすぐな気持ちを知り、受け入れる事を決めた。
 最後は、ダンの気持ちに一任するとして。

「ふ!」

 またエリンは笑ってしまった。
 先程より、もっと大きな声で。

 そう!
 ダンは優しい。
 女子の押しに弱い。
 一途に思いを寄せる女子を、きっぱり突き放せない。

 そんな態度が、女子を悪戯に誤解させ、トラブルのもとにもなる。
 本当に、馬鹿だと思う。
 でも、種族や老若男女問わず誰にでも優しい。
 そんなダンが……エリンは大好きなのだ。

 ふと、エリンはダンを見た。
 彼は少し離れた場所で横になり、ぐっすりと眠っている。
 何も考えていないような無邪気な寝顔をして……

 つい「くすり」と笑ったエリンは、心の底からダンが愛おしいと、感じてしまったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...