隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

文字の大きさ
128 / 181

第128話「エリンとヴィリヤ⑥」

しおりを挟む
 気持ちを決めたエリンは、ヴィリヤへ話し掛ける。

「ヴィリヤ、聞いて……」

「…………」

 しかし、いくらエリンが呼び掛けても……
 ヴィリヤは、相変わらず泣くばかりだ。
 そこでエリンは敢えて慰めず、『逆手』を使う事にした。

「ヴィリヤ! ず~っと泣いていたって、駄目! な~んにも変わらないよ。そのままじゃあ、ダンからはガン無視だよ」

 エリンは、容赦なく叱咤した。
 すると、無言で肩を震わせて泣いていた、ヴィリヤが遂に反応したのだ。
 
「…………ガ、ガン無視? エ、エリンさん! そ、その言葉は聞いた事があります。徹底的に、完全に無視って事ですか?」

「その通り」

「い、い、嫌です」

 恋する乙女はやはり、『想い人』の事となると違う。
 恋が実らない上、まったく相手にされないなど、恋する乙女ヴィリヤにとっては死に勝る苦しみなのだから。

 突破口を開く、チャンスだ。
 エリンは、「ここぞ!」とばかりに、ヴィリヤを激励する。
 
「さあ! 顔を上げて! 前を向いて! ヴィリヤには、まだまだやるべき事が残っているでしょ?」

「はぁ…………の、残っている……私には、まだまだ、や、やるべき事が? ま、……まあ……そうですよね」

 エリンの叱咤&激励を聞いて、やっとヴィリヤが顔を上げた。
 大きくため息をついて。
 
 ため息をついたのには、理由がある。
 やるべき事……確かにヴィリヤの片思い的な恋より、大事な事がある。
 この迷宮へ3人で潜った、本来の目的があるから。

 元々このクランは、救助及び調査の仕事のみで組まれた、即席クランなのだ。
 そう、あくまで『仕事の為』のみで……
 だからエリンの言う意味とは、『仕事だけ』はきっちりやる。
 ヴィリヤは、当然そう思っていた。

 しかし、エリンの発した言葉の意味は、全く違っていたのだ。

「うん! ヴィリヤの恋の為にね。ダンに対して、やるべき事が、まだ残っているよ」

「え? わ、わ、私の!? こ、こ、恋の為に!」

 ヴィリヤは盛大に噛んでしまった。
 吃驚した。
 やるべき事が『仕事』じゃなく……自分の『恋』だなんて。
 予想外のエリンの言葉に、ヴィリヤは話が……見えない。

 戸惑うヴィリヤへ、エリンは問う。

「そうだよ、ヴィリヤ。貴女は本気でダンが好きなんでしょ?」

 この質問は、ヴィリヤにとって自信を持ち、答える事が出来た。
 なので、当然即答する。

「は、はい! 本気で好きですっ」

「なら、今、全力を出さないと、ヴィリヤは凄く後悔するよ。このままだと、もっと、もっとね」

「う、ううう……確かにぃ」

 エリンの言う通りだ。
 このままだと後悔するのは間違いない。
 だけど、ヴィリヤにはどこをどう進んで良いのか、『道』が見えないのだ。

 辛そうな表情のヴィリヤへ、エリンは再び問いかける。 

「ねぇ、ヴィリヤ、ニーナの事、覚えてる?」

「ニーナさん……はい」

 エリンに女性の名を言われ、ヴィリヤは記憶を手繰った。

 ニーナ……って……
 確か……ダンのふたりめの妻。
 王都の英雄亭という居酒屋《ビストロ》で出会った少女。
 可愛いメイド服で給仕をしていた、グラマラスな可愛い子……
 でも何故エリンは、今、急にそんな事を聞くのか?
 
 そんなヴィリヤの疑問に対し、エリンはすぐ答えてくれた。

「ニーナもね、今のヴィリヤと同じ状況だった。でも素直に、全身全霊でダンへ気持ちを伝えた」

「…………」

「女子の『好き』を受け止める、ダンの気持ちもある。だから最後に……決めたのはダン」

「…………」

「だけどその時……エリンは……ニーナを応援した」

 エリンが、ニーナを応援?
 さすがに今のヴィリヤなら、その意味が分かる。
 ……妻であるエリンは、「押しかける」ヴィリヤを、受け入れてくれるのだ。

「エ、エリンさん! そ、それって、まさか!」

「今回もエリンは同じ…………ヴィリヤの事も、応援する。恋に全力を出すヴィリヤならね」

「エ、エリンさん! あ、ありがとうございますっ!」

 ヴィリヤは、思わず感極まった。
 死ぬ思いで諦めかけた恋を、叶えるチャンスが生まれたのだ。
 無理もない。
 それも、妻であるエリンが、自分を助けてくれる?
 信じられない事だと思いながらも、素直に嬉しい。
 
「その代わり、もし結婚しても、ヴィリヤは3番目のお嫁さんだよっ」

「3番目の……ええ! 全然構いませんっ。そうか……エリンさんが、私を応援してくれる…………恋に……全力を出す、私ならば……」

「うん、そうだよ。でもね、エリンはOKだけど、ダンは言っていた筈。相手の事も考えろって……」

「…………」

「だからね、ダンの気持ちだって考えなきゃ」

「そう……ですね。ダンの気持ち……確かに……そうです。エリンさんの仰る通りです」

 ヴィリヤは大きく頷いた。
 
 逆の立場で考えてみる。
 そうだ。
 偉そうに、冷たくしていたヴィリヤのような女子など……
 もし自分が、ヴィリヤが相手の男子だったら、好きになる筈などない。

「そして、ヴィリヤのしがらみもね」

「私のしがらみ……」

「そう、しがらみ! そもそもヴィリヤには、結婚を約束した婚約者が居るでしょ?」

 エリンから、しがらみの『最たるもの』を聞かれたヴィリヤは、ハッとする。

「結婚を約束した婚約者…………あ! は、はい、そういえば居ました」

「い、いや……そういえば居ましたって……過去形じゃなくて、まだ居るでしょ?」

「ええ、言われてみれば、婚約したままです」

「もう! このままじゃ、まずいから……貴女の国へ一旦帰って、話し合わないと、いけないよ」

「はい! 何とかしないと、いけませんね」

 あっさり頷いたヴィリヤ。
 彼女の様子を見たエリンは思う。
 
 やはりヴィリヤは、事の大きさを理解していないと。
 エルフの詳しい事は分からないが、ヴィリヤは王族に近い立場なのだろう。
 で、あれば親の決めた結婚相手を、彼女の一存だけで、簡単に反故に出来るわけがない。

 そう、ヴィリヤには猪突猛進な部分がある。
 興奮してひとつの事に執着すると、自分の置かれた環境が、全く見えなくなってしまう性格なのだ。

 だからエリンはまるで子供を諭すように、優しく言い聞かせる。

「ヴィリヤ、良い? そんなしがらみを、ダンにぽいっと丸投げしちゃ駄目。まずは自分で何とかしなきゃ、覚悟をもって恋をしなきゃいけないのよ」

「覚悟を……もって……か。エリンさん、確かにそうです。私、感情が先走り過ぎて、何も考えていませんでした」

 ダンとの恋を成就させる為にまだ問題は山積み……

 しかし、少しでも光明が見えて来たヴィリヤは、エリンを見て嬉しそうに微笑んだのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...