隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第150話「足し算」

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 キッと睨む、ヴィリヤの視線を……
 ダンは、優しく受け止める。

「ああ、リョースアールヴ3代目の長は……父の犯した罪を、どのような思いで聞いたのかと、俺は想像したよ」

「…………」

 相変わらず……ヴィリヤは無言だった。
 しかし、ダンの言葉を聞き……
 さきほどの慰めが、けしてうわべだけではないと、はっきり感じたらしい。

「うん、落ち着いて聞いてくれ、ヴィリヤ。お前を愛する、俺になら分かるんだ……」

「……ダン……」

「遥か昔だから……断言は出来ないけど……多分3代目の長は、今のヴィリヤと同じ気持ちだったと思う」

「…………」

「リョースアールヴ3代目の長は、更に……4代目の長となる我が子テオドルへ、真実を伝えた。一切を、嘘偽りなく」

「…………」

「そして、テオドルは盟友バートクリードに連れられ、……遂に、この国へやって来た」

「…………」

「改めて真実を知ったテオドルは……デックアールヴ達へ、心から謝罪した」

「…………」

「ヴィリヤ、お前も想像するんだ。土下座までして詫びるテオドルの姿を……誇り高いリョースアールヴの長が、地べたに座り、頭をすり付けて……ひたすら謝罪する姿を」

「あ、あう……」

 ヴィリヤは、思わず口籠る。
 そして、あの場で、謝罪の行動に移さなかった自分と比べてみた。
 会った事もない、遠き祖先だが……
 正体を明かし、詫びる勇気のなかった自分と比べて、何という、『潔さ』だろうと。

「俺は……尊敬する。真実を伝えた3代目の長を、そして4代目のテオドルを……それに、リョースアールヴ2代目の長も、根っからの悪人ではなかったと思えるんだ」

「…………」

「何故ならば、我が子へ、真実を伝えたからだ。良心の呵責からな」

「…………」

「だから俺は、今のお前の姿を見て、誇らしいと思う」

「…………」

「厳し過ぎる事実をしっかりと受け入れ、悩み、葛藤する、アスピヴァーラの誠実な血は、真摯な魂は……確かに、お前の中に生きているんだ」

 いつもそうだと……ヴィリヤは思う。
 今度は、嬉し涙があふれて来る……
 
 ダンは……いろいろな事を教えてくれるから。
 困った時には、必ず傍に居てくれる。
 今だって、そうだ。
 尊厳を失い、崩れ落ちそうになる自分の心を、しっかり支えてくれた。

 それどころか!
 前を向き、生きて行く勇気を与えてくれた。

「ああ、あああ……ダン!」

「お前の敬愛する祖父、ヴェルネリと共に……お前の中には、アスピヴァーラの誇るべき血と魂は、ちゃんと受け継がれているんだ」

「あ、あ、あ、ありがとう! ダン! 私っ、私っ!」

「大丈夫! お前はひとりじゃない。俺が居る、エリンが居る、地上に戻れば、ニーナも居る。俺達は家族だ」

「はいっ!」

「これからは、全員で支え合い、前を向いて、生きて行くんだ」

「はい! 私、家族をしっかり支えます! 前を……向きます!」

 力強く、返事をしたヴィリヤの顔は……
 今迄の曇天が嘘のような、晴れ晴れとしたものであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 元気を取り戻したヴィリヤは……
 エリンともしっかり抱き合った。

 ヴィリヤは、少し心配であった。
 果たして、エリンが許してくれるのかと。
 リョースアールヴの犯した罪を……
 
 もしも地下にさえ、追放されなければ、エリンの仲間は死なずに済んだのだ……
 怖ろしい悪魔と、その眷属共に殺されずに済んだのだ。

 しかし、ヴィリヤの心配は杞憂であった。
 エリンは優しく微笑み……以前のように、包み込むよう、抱き締めてくれた。
 
 つい、ヴィリヤが感激して、

「エリンさん……ありがとう」

 と、言えば……
 エリンは悪戯っぽく笑い、首を振る。

「駄目だよ、ヴィリヤ」

「え? 駄目?」

「うん! もう『さん』は要らない。だって、他人行儀だよ」

「…………」

「エリンで良い。……エリンとヴィリヤは、同じだよ。……ダンの妻同士だから」

「あ……あううっ」

 感極まり……
 またも泣き出すヴィリヤ。
 今度も嬉し泣きである。

 抱き合う妻ふたりを見ながら、ダンが言う。

「俺、エリン、ヴィリヤ、ニーナには新たな役割が出来た。……これから地上に、新たな種族となった、デックアールヴ達の新たな国を作る事だ」

「新たな種族……」

 と、エリンが呟けば、ヴィリヤも言う。

「リョースアールヴ、人間、もしくはもっと……様々な種族と融合した新たな種族……そういう意味ですね? ダン」

「ああ、ヴィリヤの言う通りだ。エリン、さっきこの国の様子を見ただろう?」

「ええ、しっかりと」

 エリンの記憶が甦る。
 誰もが楽しそうに、そして前を向く波動が強く放たれる。

「デックアールヴの望郷の念、それに英雄と呼ばれるバートクリード、その弟ローレンスの遺志も受け継がれる国なんだ」

 そう……様々な人々の想いが……
 新たな国へと向けられている。

「エリン、ヴィリヤ、足し算だ」

「足し算?」
「どういう事ですか、ダン」

「何かを、行おうとする時、引くんじゃない、足して行くと考えるんだ」

「足して行く?」
「足し算……」

「一見、役に立たないように見えても、この世に無駄な事などない。きっと何か大切な物の礎《いしづえ》となる筈だ。その、地道な積み重ねが、遥か彼方の、輝かしい未来へ繋がると、俺は思う」

「無駄な事などない……」
「何かの礎……」

「ああ、誤解のないように聞いて欲しいが……エリンのお父上と仲間の死も……けして無駄死にではない。そしてデックアールヴが回り道した膨大な時間もな……」

「…………」
「…………」

「俺達は……志半ばで斃れた者達の意思を継ぎ、これからも戦い続ける。そして俺達が、もし目的を果たせなくても、きっと跡を継ぐ者が現れるさ」

「旦那様! そうだね、その通りだよ」
「ああ、ダン、分かります!」

 エリンは改めて認識する。
 自分が生き延びる事が出来たのは、父を含め、貴い犠牲の上にある事を。
 そして決意する。
 課せられた、自分の役割を全うしようと。

 一方……
 ヴィリヤは、遥か遠い過去に思いを馳せる。
 歴代のソウェルは、結局、デックアールヴ達を救う事が出来なかった。
 しかし……脈々と受け継がれた、確かな贖罪の意思を感じる。
 今度は……自分がその意思を継ぐ番なのだと。

 そしてダンは……
 この異世界へ、自分が送られて来た、真の意味が分かった。
 そう、はっきり感じたのであった。
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