隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第154話「必然たる理由④」

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 リストマッティは、名乗ったエリンにいくつか質問をした。
 対して、立て板に水。
 エリンが、何のためらいもなく、すらすら答えると……
 リストマッティは、大きなため息をついた。

「やはり貴女様は……ラッルッカ家のエリン様……なのか。しかし、何という巡り合わせだろうか……」

 どうやら……
 リストマッティは自分の持つ『尺度』で、エリンが『本物』かどうか、
『最終確認』をしたようだ。
 聞いた質問は、当然ながら全てが正解……
 
 出た結果に納得したらしい、リストマッティに対し、ダンは言う。

「さてと……リストマッティ、俺の話はまだ終わりじゃない。協力するふたつめの理由も、しっかりと聞いて貰おうか」

「あ、ああ……そうだったな」

『エリン登場!』で、大きなショックを受けたリストマッティは、あまり気のない返事だ。

 これ以上は、絶対にないだろう……
 『エリン以上』のサプライズなどは……
 そう、リストマッティの表情が語っていた。

 そんなリストマッティをスルーし、ダンは言う。

「ふたつめの理由とは、これまた我が嫁だ」

「ほう、我が嫁とは? ……もしや、そのリョースアールヴの娘も、ダン殿の妻……という事だな?」

「その通りだ」

「ふむ、つまりこういう事か?」

 さすがに今度は、ダンへ『丸投げ』せず、リストマッティは解答を出す雰囲気だ。
 一方、ダンは無言で、微笑みながら待っている。

「…………」

「私達へのサプライズとは、こうだ。つまりダン殿は、デックアールヴであるエリン様と夫婦というだけではない、そのリョースアールヴの女性とも夫婦だと」

「ああ、そうだ」

「うむ、成る程。少し驚いた。だが……私はとても素晴らしいと思う。これからの新たな我が国を、象徴するような……種族の隔たりをなくした、寛容的な家族構成だといえるな」

「ああ、俺もそう思う。だが、それだけじゃないぞ、リストマッティ」

「な、何? それだけじゃない?」

「その答えだけでは不十分だ。100点満点で、たった30点といったところだな」

「さ、30点?」

「まだ、貴方が驚く、もっと凄いサプライズがある」

「まだ? 私が驚く、もっと凄いサプライズ?」

 もう、リストマッティとの会話は不要……
 ダンは、そう考えたらしい。
 いまだに、エリンと抱き合ったままのヴィリヤへ、声をかける。

「よし、ヴィリヤ、立ってくれ」

「はいっ!」

「心得た!」とばかりに、ヴィリヤが大きな声で返事をし、エリンに微笑む。

 対して、エリンはエールを送る。

「うふふ、今度はヴィリヤの番だよ、頑張って!」

「うんっ!」

 これまたエリンへ笑顔で戻し、すっくと立ったヴィリヤ。
 3人の会話を聞いたリストマッティは、怪訝な表情となる。

「ん? ヴィリヤだと? 昨日、私が聞いたその娘の名とは違うな」

 擬態したヴィリヤは、副官のゲルダに扮していた。
 名前も、ゲルダと告げていた。
 
 リストマッティの注意力と記憶力は大したものである。
 さりげなく、ダン以外もチェックしていたようだ。

 「さすが!」と、意味なのだろう。
 にやりと笑うダン。

「はは、リストマッティ、良く覚えていたな」

「うむ、確か……彼女の名は、ゲルダというのではないか?」

「いや、ヴィリヤで間違いない。じゃあ、行くぞ!」

 ダンはそう言うと、先ほどエリンの魔法を解除したのと同様、指をピン!と鳴らした。

「おお、まさか! ……その娘にも、変身の魔法を!?」

 リストマッティの言葉とほぼ同時に、立っている、ゲルダに擬態したヴィリヤの輪郭がぼやけ始めた。
 あっという間に!
 違う容貌の、リョースアールヴが現れる。

 さらさらの長い金髪をなびかせ、美しい菫色の瞳を持つ、先ほどまでより若干華奢な体躯……
 これが、ヴィリヤ・アスピヴァーラ、本来の姿である。

 違うリョースアールヴが現れるのは、リストマッティの想定内なのだろう。
 さほど、驚いてはいない。
 まだ余裕がある。

「ほう、エリン様とは、また違う美しさだ! それがヴィリヤ殿、本来の姿か?」

「ああ、そうだ。さあヴィリヤ、お前もエリンと同じく名乗ってやれ」

「はいっ、ダン」

 ヴィリヤはまたも、はきはきと答え、大きく胸を張った。
 昨夜のヴィリヤであれば、こんなに晴れやかな気持ちには、絶対ならなかっただろう。

 しかし……
 ダンの真摯な言葉による励ましが……
 優しく包み込む、エリンのふくよかな胸が……
 ふたりの持つ、温かさが……
 悩み惑う、傷心のヴィリヤを、支えてくれた。

 かけがえのない家族として、しっかりと支えてくれたのだ。

 だから、ヴィリヤはもう臆さない。
 前を向いて、堂々と穏やかに言い放つ。

 先祖の行った贖罪に加え、自らが作り出そうとする未来への希望、ふたつの確かな想いを籠めて。

「リストマッティ殿、そしてみなさん、私は、ダン・シリウスの妻、ヴィリヤです。罪深き我がアスピヴァーラの行いを、私からも改めてお詫び致します」

 ヴィリヤはそう言うと、まず深く頭を下げた。
 リストマッティ達は、呆気に取られている。

「な、我がアスピヴァーラ!?」

「はい! 私は、ヴィリヤ・アスピヴァーラ。リョースアールヴの長、ヴェルネリ・アスピヴァーラの孫娘なのです」

「おおおおおっ!?」

 リョースアールヴの長の血を引く、直系の娘!?
 このヴィリヤまでもが、ダンの妻!?

 かつての、4代目テオドルが謝罪する姿を、彷彿とさせるヴィリヤの姿……

 さすがに、想定外といえる衝撃の事実に……
 リストマッティ達は、驚愕し、大きくどよめいたのであった。
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