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第164話「ローランドの決意②」
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ローランドは、ダンの話が、よほどショックだったのか……
そのまま、ギルドの応接室の長椅子に座り込んでいた。
ダン達を見送った、クローディアが戻っても……
ローランドは、ずっと無言であった。
背後に控えたクローディアが待機しても、ずっとそのままなのだ。
気遣う『愛弟子』へ、顔さえ、向けはしない。
痺れを切らしたクローディアが、そっと前に回り込み、一礼し、ローランドを見やれば……
意外にも!
ローランドは、泣いていた……
大粒の涙を、ぼろぼろ流していた。
しかし、涙を流しているのに、表情は笑顔だ。
いわゆる、泣き笑いなのである。
思わず、クローディアが、
「ローランド様!」
と、呼びかければ、ローランドは泣き顔のまま、苦笑する。
「ああ、クローディア、済まない」
「…………」
「つい、胸がいっぱいになった……私へ、助力を求めるダン殿が……亡き息子に重なったのだよ」
「ディーン様に……ですか?」
「ああ、そうだ。クローディア、これを読んでくれないか? 読めば、今の私の気持ちが、良く分かる筈だ」
そう言って、ローランドが差し出したのは……
今は亡き愛息ディーンが出した最後の手紙である。
クローディアは、手紙の存在自体は知っていた。
しかし、ローランドが一番の宝物にしている手紙を、読んだ事など、勿論ない。
クローディアは、おずおずと、聞いてみる。
「私が読んで、よ、宜しいのでしょうか?」
「構わない、私の気持ちは決まった。このギルドをクローディア、君に任せ、ダン殿の下へ行く……」
「え!? ロ、ローランド様……」
ローランドの発言は衝撃的であった。
ギルドの看板でもある、竜殺しの英雄が引退するのだ。
但し、予感はあった。
最近、何かにつけて、ローランドはクローディアへ、どんどん仕事を任せていたから。
「…………」
思わず口籠るクローディアへ、ローランドは、黙って手紙を差し出した。
手紙を受け取ったクローディアは、食入るように読み出す……
父上様
貴方がこの手紙を読む頃に、私はこの世には居ないでしょう。
黙って、家を出てしまってごめんなさい。
父上が、どんなに私を愛していたか。
亡き母上の分まで、私にたくさんの愛情を注いでくれていたか。
充分に分かっています。
私は、父上に愛されて本当に幸せでした。
だけど私は、無理なお願いをしてしまいました。
さすがの父上でも、あの腐りきった騎士団を変えるのは容易ではありません。
しかし、父上は頑張りました。
決して退きませんでした。
会う騎士の誰もが、父上を悪く言いました。
何人とも喧嘩になり、殴り合いになりました。
散々殴られ、蹴られました。
私も決して退きませんでした。
父上は正しい事をやっている、私の尊敬する方だからです。
ですが、これ以上、父上ばかりに無理は言えません。
私も、何かをしなければ。
この国の民の為に。
だから決断しました。
私は、苦しむ人達を助けたい。
これ以上、王都でぬくぬくと暮らしたくない。
だから、私は義勇団に入りました。
そして拙いながらも戦って、苦しむ民の力になる事が出来ました。
今迄鍛えてきた剣が、何とか役に立ちました。
たくさんの人に、喜んで貰えました。
尊敬する父上に、少しでも近づきたい!
そう思って頑張りました。
しかし、明日行われる戦いは相当きついです。
敵はオーガ数百。
対して私達は、僅か30人少し……
私達の剣は錆びて刃こぼれし碌に斬れず、弓の糸は切れ持つ矢の数も満足にありません。
私は、死ぬかもしれません。
だけど悔いはありません。
正々堂々と戦って、もし天に召されたら……母上に初めて会えますから。
私は、母上にお会い出来たら、胸を張って言います。
あなた達の息子ディーンは、おふたりに対して恥じない生き方をする事が出来たと。
父上……お元気で。
ご自愛くださいませ。
クローディアは、ディーンの手紙を読んだ。
途中で涙があふれ、書かれている文字が見えなくなったが、
必死に、何度も、繰り返し、読んだ。
目の奥が、更に熱くなって来る。
普段は物静かで、戦いとなれば悪鬼のように荒れ狂う英雄の心には、やはり深い傷と悲しみが隠されていたのだ。
手紙を「きゅっ」と握ったクローディアへ、ローランドは言う。
「聞いてくれ、クローディア。元々、私は考えていた。ほどなくしたら、ギルドマスターを引退し……誰も私を知らぬ、どこか遠くへ行こうと……」
「え? いきなり、何を仰っているのですか、マスター!」
「そう……あてのない旅に出て……魔物との戦いにあけくれ、斃れて……ひとり朽ち果てようとしていたのだよ」
「ロ、ローランド様…………………」
クローディアはローランドの名を呼び、絶句した。
ギルドを、引退……どころではない。
ローランドは『世捨て人』となり、誰にも知られずに、のたれ死のうとしていたのだ。
自分も、亡き妻、そして戦いに斃れた息子の下へ、早く逝きたい……
そう、考えたに違いないのだ。
「もうこのギルドでやるべき事を、私はやり遂げた。こんなロートルは、第一線を退いた方が良い……君に跡を譲ってな」
「…………」
無言のクローディアへ、涙の跡が残ったまま、ローランドは微笑む。
「だが……自ら死ぬ事は思い直した」
「え!?」
「安心してくれ、クローディア」
「は、はい! お、思い直されたのですねっ! 良かった!」
クローディアの声には、歓喜の感情がはっきりと表れていた。
笑顔のクローディアへ、ローランドはゆっくり、そして静かに語る。
「ああ、ダン殿は……新たな国を創る為、私が必要だと言ってくれたからな。それもディーンの遺志に応えられる、とても大きな役割を与えてくれた」
「ええ、ローランド様はまだまだこの世に必要です! ダン殿達と共に、ディーン様がやり残した事を継ぐべきなのです」
「ありがとう、クローディア……その通りだ」
「…………」
「エリンさんも……約束を忘れるな、そう言ってくれた……」
「…………」
「私は……残された人生を全う出来る……悔いの無い人生を送る事が出来る……そんな気がするよ……」
「…………」
「こんなに……嬉しい事はない」
「…………」
「私はまだ生きる……キャサリン、ディーンの魂と共に……しっかりと前を向いてな」
最後にローランドは、決意を語ると……
目をきらきらと輝かせ、無垢な少年のように笑ったのである。
そのまま、ギルドの応接室の長椅子に座り込んでいた。
ダン達を見送った、クローディアが戻っても……
ローランドは、ずっと無言であった。
背後に控えたクローディアが待機しても、ずっとそのままなのだ。
気遣う『愛弟子』へ、顔さえ、向けはしない。
痺れを切らしたクローディアが、そっと前に回り込み、一礼し、ローランドを見やれば……
意外にも!
ローランドは、泣いていた……
大粒の涙を、ぼろぼろ流していた。
しかし、涙を流しているのに、表情は笑顔だ。
いわゆる、泣き笑いなのである。
思わず、クローディアが、
「ローランド様!」
と、呼びかければ、ローランドは泣き顔のまま、苦笑する。
「ああ、クローディア、済まない」
「…………」
「つい、胸がいっぱいになった……私へ、助力を求めるダン殿が……亡き息子に重なったのだよ」
「ディーン様に……ですか?」
「ああ、そうだ。クローディア、これを読んでくれないか? 読めば、今の私の気持ちが、良く分かる筈だ」
そう言って、ローランドが差し出したのは……
今は亡き愛息ディーンが出した最後の手紙である。
クローディアは、手紙の存在自体は知っていた。
しかし、ローランドが一番の宝物にしている手紙を、読んだ事など、勿論ない。
クローディアは、おずおずと、聞いてみる。
「私が読んで、よ、宜しいのでしょうか?」
「構わない、私の気持ちは決まった。このギルドをクローディア、君に任せ、ダン殿の下へ行く……」
「え!? ロ、ローランド様……」
ローランドの発言は衝撃的であった。
ギルドの看板でもある、竜殺しの英雄が引退するのだ。
但し、予感はあった。
最近、何かにつけて、ローランドはクローディアへ、どんどん仕事を任せていたから。
「…………」
思わず口籠るクローディアへ、ローランドは、黙って手紙を差し出した。
手紙を受け取ったクローディアは、食入るように読み出す……
父上様
貴方がこの手紙を読む頃に、私はこの世には居ないでしょう。
黙って、家を出てしまってごめんなさい。
父上が、どんなに私を愛していたか。
亡き母上の分まで、私にたくさんの愛情を注いでくれていたか。
充分に分かっています。
私は、父上に愛されて本当に幸せでした。
だけど私は、無理なお願いをしてしまいました。
さすがの父上でも、あの腐りきった騎士団を変えるのは容易ではありません。
しかし、父上は頑張りました。
決して退きませんでした。
会う騎士の誰もが、父上を悪く言いました。
何人とも喧嘩になり、殴り合いになりました。
散々殴られ、蹴られました。
私も決して退きませんでした。
父上は正しい事をやっている、私の尊敬する方だからです。
ですが、これ以上、父上ばかりに無理は言えません。
私も、何かをしなければ。
この国の民の為に。
だから決断しました。
私は、苦しむ人達を助けたい。
これ以上、王都でぬくぬくと暮らしたくない。
だから、私は義勇団に入りました。
そして拙いながらも戦って、苦しむ民の力になる事が出来ました。
今迄鍛えてきた剣が、何とか役に立ちました。
たくさんの人に、喜んで貰えました。
尊敬する父上に、少しでも近づきたい!
そう思って頑張りました。
しかし、明日行われる戦いは相当きついです。
敵はオーガ数百。
対して私達は、僅か30人少し……
私達の剣は錆びて刃こぼれし碌に斬れず、弓の糸は切れ持つ矢の数も満足にありません。
私は、死ぬかもしれません。
だけど悔いはありません。
正々堂々と戦って、もし天に召されたら……母上に初めて会えますから。
私は、母上にお会い出来たら、胸を張って言います。
あなた達の息子ディーンは、おふたりに対して恥じない生き方をする事が出来たと。
父上……お元気で。
ご自愛くださいませ。
クローディアは、ディーンの手紙を読んだ。
途中で涙があふれ、書かれている文字が見えなくなったが、
必死に、何度も、繰り返し、読んだ。
目の奥が、更に熱くなって来る。
普段は物静かで、戦いとなれば悪鬼のように荒れ狂う英雄の心には、やはり深い傷と悲しみが隠されていたのだ。
手紙を「きゅっ」と握ったクローディアへ、ローランドは言う。
「聞いてくれ、クローディア。元々、私は考えていた。ほどなくしたら、ギルドマスターを引退し……誰も私を知らぬ、どこか遠くへ行こうと……」
「え? いきなり、何を仰っているのですか、マスター!」
「そう……あてのない旅に出て……魔物との戦いにあけくれ、斃れて……ひとり朽ち果てようとしていたのだよ」
「ロ、ローランド様…………………」
クローディアはローランドの名を呼び、絶句した。
ギルドを、引退……どころではない。
ローランドは『世捨て人』となり、誰にも知られずに、のたれ死のうとしていたのだ。
自分も、亡き妻、そして戦いに斃れた息子の下へ、早く逝きたい……
そう、考えたに違いないのだ。
「もうこのギルドでやるべき事を、私はやり遂げた。こんなロートルは、第一線を退いた方が良い……君に跡を譲ってな」
「…………」
無言のクローディアへ、涙の跡が残ったまま、ローランドは微笑む。
「だが……自ら死ぬ事は思い直した」
「え!?」
「安心してくれ、クローディア」
「は、はい! お、思い直されたのですねっ! 良かった!」
クローディアの声には、歓喜の感情がはっきりと表れていた。
笑顔のクローディアへ、ローランドはゆっくり、そして静かに語る。
「ああ、ダン殿は……新たな国を創る為、私が必要だと言ってくれたからな。それもディーンの遺志に応えられる、とても大きな役割を与えてくれた」
「ええ、ローランド様はまだまだこの世に必要です! ダン殿達と共に、ディーン様がやり残した事を継ぐべきなのです」
「ありがとう、クローディア……その通りだ」
「…………」
「エリンさんも……約束を忘れるな、そう言ってくれた……」
「…………」
「私は……残された人生を全う出来る……悔いの無い人生を送る事が出来る……そんな気がするよ……」
「…………」
「こんなに……嬉しい事はない」
「…………」
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