隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第165話「成し得なかった事①」

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 巷で知られるエルフ……
 正式には、リョースアールヴと呼ばれる種族の国は北方にある。
 元々、リョースアールヴの祖先は森に棲む妖精であり、いくつかの部族に分かれていた。
 しかし、ある人物がリョースアールヴをまとめあげ、ひとつの大きな国を創った。
 それが現在イエーラと呼ばれる彼等の国の始まりである。

 そのイエーラの都フェフには、長ソウェルの屋敷があった。
 王宮と見まごうばかりの規模を誇り、現在は6代目ソウェル、ヴィリヤの祖父ヴェルネリ・アスピヴァーラが主である。

 ダンは、再び人間に擬態したエリンを伴い、ヴィリヤ、ゲルダに連れられる形で、ヴェルネリに会おうとしていた。
 警戒厳重な屋敷もヴェルネリの孫娘ヴィリヤは別である。
 見知った警護のアールヴ剣士達は、笑顔で通してくれた。
 副官のゲルダも居たから、尚更である。

 ヴェルネリは在宅していた。
 というか、事前にヴィリヤから『勇者』を連れて戻ると連絡をしていた為、ヴェルネリがスケジュールを調整したのである。

 ソウェル専用の応接室に通され、4人は暫し待った。
 やがて……
 ヴィリヤより若干大きい、ヴェルネリの瘦躯が応接室に現れた。

「お祖父様、ただいま戻りました」

「おお、ヴィリヤ、元気そうだな?」

「はい! 私は元気にしております。そしてアイディール王国では様々な事を学び、大きく成長する事が出来ました」

「うむ! お前の発する魔力波《オーラ》で分かる。アイディールへ旅立つ前のお前はまだまだ青かった。しかし今は大人になった。穏やかで、物腰も落ち着き払っている」

「はい! 自身の努力もありますが、殆どがここに居ります勇者ダンのお陰です。ダンの妻エリン、我が副官のゲルダにも支えられながら、私はいくつかの難事を成し遂げる事が出来ました」

 ヴィリヤがここまで話をすると、ダンが軽く一礼し、挨拶する。

「初めまして、ソウェル殿、ダン・シリウスだ。俺は勇者ではないが、ヴィリヤの役には立った筈だ」

「ほう! ……その物言い、初対面なのに、この私に対して、良い度胸だ」

「気を悪くしたら、申し訳ない。だが……俺も望んでこの世界に来たのではなかったからな」

「成る程……なかった、という過去形で言うのなら、勇者よ、お前はもう、自身の運命を受け入れたという事だな?」

「まあな、俺は大きな使命を受け、この異世界へ呼ばれた。今となってはそう自覚しているよ」

「ふむ! その覚悟、結構。今後も創世神様に対し忠実に仕え、降りかかる災厄を退け、この世界の役に立つが良い」

 ヴェルネリは、ダンの言葉を至極常識的な考えとして受け止めたらしい。
 しかし、ダンは敢えて訂正しなかった。
 この後の、話の展開を見極めてからという判断らしい。

 ヴェルネリはもうダンに対して、興味を失ったらしい。
 彼にとって、愛する孫娘ヴィリヤの往く末の方が気になるのだ。

「さて、ヴィリヤ」

「はい!」

「私には分かる。少々生意気だが……この勇者は言うだけの事はある。結構な力を持っている。創世神様の使徒としては申し分ないだろう」

「はい! 仰る通りです」

「ふむ、今迄の報告を聞けば、お前は『実績』を充分積んだらしい」

「はい! そう認識しております」

「ならば、もう頃合いだ。イエーラへ戻って来るが良い。私の跡を継ぐ準備をせねばならん。イェレミアスとの結婚話も進めよう、彼なら良い婿となる筈だ」

 祖父からの帰国要請であったが……
 ヴィリヤは即座に首を横に振った。
 爽やかな笑顔で。

「いいえ、お祖父様」

「む? いいえだと?」

「はい! 私は新たな使命を授かりました。その使命を果たさなくてはなりません。ですからイエーラには戻りません」

 最愛の孫娘から出た、想定外の話……
 さすがのヴェルネリも動揺を隠せない。

「な、な、何!」

「イェレミアスには申し訳ありませんが、彼との婚約も白紙に戻して下さい。それがお互いの幸せとなります」

「な、何だ! お前がそこまでいう、使命とは!」

「お祖父様が、まだ成し得ていない、いいえ、歴代のソウェルが成し得なかった大きな使命ですわ」

「何だと! 私を含め、歴代のソウェルが成し得なかっただと……む! そうか!」

 ヴェルネリは、すぐ思い当たったらしい。
 ゲルダを鋭い視線で見据える。

「ゲルダ!」

 ヴェルネリから厳しい声で呼ばれ、ゲルダは身体が強張ってしまう。

「は、は、はいっ!」

「先日の報告にあった。お前は英雄の迷宮へ入ったそうだな?」

「…………」

「どうした? 何故、黙っておる」

 ゲルダの身体はヴェルネリに対する恐れから……震えていた。
 しかしゲルダは、華奢な拳を固め、気持ちを奮い立たせる。

「……ソウェルよ、わ、私は!」

「む?」

「創世神様に誓って申し上げます。……私は英雄の迷宮へ入っておりません」

「む! 入っていないだと?」

「はいっ!」

「おかしいではないか? 報告では、ゲルダ、お前とこの勇者、そこに居る勇者の妻とやらが、迷宮へ降りた筈……何故だ?」

 瞬間。
 ヴィリヤが、力強く手を挙げた。
 そして、叫ぶ。

「はい! お祖父様! ある事情により伏せておりましたが……迷宮へ入ったのはゲルダではありません、私ですから!」

「何だと!」

「はい! 私は勇者ダンの魔法でゲルダに擬態し、英雄の迷宮へ入りました。そして真実を知りました」

「むうう……」

「私は、この世界の、誤った常識を変えて行きます。ダンと共に! エリンと共に! ゲルダと共に! そして信頼すべき仲間達と共に! それが我がアスピヴァーラ家の贖罪、そして私ヴィリヤの新たなる使命です」

「…………」

 と、ここで、エリンが勢いよく立ち上がり、ヴィリヤに駆け寄ると思いっきり抱きついた。
 どうやら、ヴィリヤの決意を聞き、感極まったらしい。

「ヴィリヤ! ありがとう! ありがとうっ!」

 エリンに抱きつかれたヴィリヤも涙ぐんでいる。
 やがてふたりはもっときつく抱き合い、大声で泣き出してしまった。

「…………」

 その様子をヴェルネリは無言で見つめていた。

「ソウェル殿、貴方は俺とは初対面だ。いきなり腹を割って話すなど、出来ないと仰るかもしれない」

「…………」

「おっと、その前に防音の魔法をかけておこう。貴方の驚きの声が漏れないよう」

「…………」

「さあて、論より証拠。これを見て欲しい」

 そう言って、ダンが収納の魔道具から取り出したのは……
 あの銀の指輪、そして3人の名が書かれた誓約書であったのだ。
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