隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第177話「輝かしい未来へ①」

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 アイディール王国王女ベアトリスが、救世の勇者となったダンと結ばれるよう神託を受けてから……約1年が経った……

 王都トライアンフから、やや離れた山間に……
 アイディール王国とリョースアールヴの国イエーラの惜しみない援助により大規模な開発が行われ、ひとつの町が完成した。

 そう……
 ダンが隠れ住んでいた場所に、新たな町が造られたのだ。
 
 元々、この土地はアイディール王国宰相フィリップの直轄地であった。
 妹のベアトリスがダンと結婚すると共に、兄フィリップからお祝いとして贈られたのである。
 
 そしてこの土地の北方は、リョースアールヴの国イエーラとも国境を接しており……
 その付近の土地も、イエーラからダンへ譲られた。
 こちらはアスピヴァーラ家令嬢ヴィリヤがダンに嫁いだのを機に、持参金代わりとして譲られたものである。

 結果、小国規模の領地を得たダンは、『救世の勇者』として、アイディール王国、イエーラ両国から伯爵位も得て、新生活を始める事となった。

 魔物など外敵を防ぐ為、高い魔法石壁に囲まれたこの町はシリウスと名付けられ、ダンと家族が住まう為の城館も築かれた。
 そしてダンに請われた者達、慕った者達も大勢、移住したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 シリウスの町が完成して、数か月後……

 ここは救世の勇者ダン・シリウスと家族達の住まう城館の中庭である。
 腕の良い庭師達によって、丁寧に念入りに造られた美しい庭園がある。

 2匹の逞しい犬が見守る中……

 一面に植えられた緑濃い芝生の上で、ひとりの美しい少女がゆっくり、ゆっくりと慎重に歩いていた。
 茶色の髪を、後ろで束ねた年配の女性に、優しく手を引かれて……

 少女は……ダンの妻となった王女ベアトリス。
 そして、手を引く女性はベアトリス付き侍女頭だったパトリシアである。

 パトリシアは、ベアトリスがダンへ嫁ぐと聞き……
 自分もついて行きます! と熱望。
 王宮勤めをあっさり辞し、シリウスへと移住したのである。

 ちなみにふたりを見守る2匹の犬は、城館の守り手でもある、魔獣ケルベロスと同オルトロスの擬態した姿であった。
 
 そして、離れた物置小屋の屋根には……
 我関せずという趣きで、一匹の黒猫が昼寝をしていた。
 妖精猫《ケット・シー》のトムである。

 暫し歩いてから、ベアトリスは立ち止まり、空を見上げた。
 今日は快晴。
 雲ひとつない青い大空が、一面に広がっていた。

「ねぇ、パトリシア」

「はい、ベアトリス様、いかが致しました?」

「ええっとね、旦那様と皆は、今頃どうしているかしら? 私と同じ青い空を見ているのかしら? ちょっと一緒に居ないだけで……すぐ会いたくなってしまうの。早くシリウスへ帰って来て欲しいわ」

「ご安心を! ダン様達は、難儀する者達を助けたら、すぐにお戻りになりますよ」

「そうよね! 旦那様が帰るまでは、リストマッティ殿と一緒に、シリウスをしっかり守らないと」

「はい! ベアトリス様の仰る通りです」

 ベアトリスの言う通り、リストマッティと配下達はこの城館に通い、ダン達と共同でシリウスの町を管理していた。
 
 ベアトリスとリストマッティが初めて会った時……
 ふたりは言葉に言い表せない、不思議な気持ちとなった。
 妙に親近感を覚えるのだ……
 お互い、アイディール王家の血を引いている為かもしれない。

 閑話休題。

 ここで……誰もが不思議に思うだろう。
 
 創世神の巫女になるのと引き換えに……
 視力と身体の自由を失ったベアトリスが、何故動け、歩く練習までしているのか?
 どうして、閉ざされた筈の瞳で、青い空を見る事が出来るのかと。

 実は、『奇跡』が起こったのである。

 今迄は、何度発動しても、全く効かなかったのに……
 再び試みたダンの『治癒魔法』により、ベアトリスの身体機能が奇跡的に回復したのだ。
 これも、ダンが救世の勇者となったからだろうか……
 
 さすがに、手品のような急激な回復こそしなかったが……
 ダンが愛情を籠めた、地道な治療を何度も繰り返した末……
 まずベアトリスの『視力』が完全に回復した時、シリウスの城館中には大歓声が満ちた。

 ベアトリスの兄ふたり、リシャールとフィリップも朗報を聞いて大いに喜び、祝いの品を大量に送りつけたほどである。
 それからも、ダンの魔法の効果は徐々に現れ、まだ誰かの補助が必要ではあるが……
 今やベアトリスは、中庭を元気に歩けるほど回復したのだ。

 ちなみに、パトリシアの腰痛も、ダンの魔法により常に万全以上の状態。
 以前よりパワーアップしており、ベアトリスを支えたり、抱きかかえても、何のダメージもない。

 当初、パトリシアはベアトリスの結婚を危惧した。

 原因は、ダンの人柄ではない。
 パトリシアの腰痛の件で、彼女はダンの誠実さを認識していたから。

 問題は、ダンには他に3人の妻が居る事だ。
 つまり、ベアトリスへの扱いがぞんざいになると、パトリシアは心配したのだ。

 しかしそんな心配は杞憂だった。

 ダンは不在がちだが、城館に居る時はベアトリスを慈しみ、リハビリも共に行ってくれる。
 そして他の妻達も、ベアトリスに対し、実の姉妹のように優しく接してくれた。 ダン同様リハビリにも、まめに付き合ってくれるのだ。

 こうして、薄幸だった最愛の主は幸せになった。
 
 日々、著しく回復する主……
 そんな主を助ける自分……
 パトリシアもこれ以上ない生き甲斐を持って、張りのある人生を送る事が出来る。
 こんなに幸せな事はない。

「ベアトリス様、改めまして、おめでとうございます。本当に素晴らしい方と巡り合いましたね」

 パトリシアが尋ねると、ベアトリスは嬉しそうな表情で頷く。

「ええ! ダンは素敵よ! とても優しいし、可愛がってくれるし、頼もしいし……私には最高の旦那様よ」

 と、その時。

「ベアトリス様ぁ! パトリシア様ぁ!」

 ふたりを呼ぶ声が中庭に響いた。
 改めてダンの従士となったアルバート&フィービー夫妻である。

 元騎士の夫妻は、同じくダンの領地となった隣接するラーク村から、移住。
 主に城館と町内の警備等を務めている。
 多分、ベアトリスのリハビリを手伝いに来たのであろう。

 ベアトリスとパトリシアは、顔を見合わせ、にっこりと笑ったのである。
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