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第60話「仕方がない。 データがないならば、無理やり作るしかない」

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モチベーションの上がった俺は、同期のやる気もはっきりと感じ、
更に気持ちが前向きとなった。

そんなこんなで朝食が終わり……
バスチアンさんから、本日の訓練スケジュールの発表が為された。

「てめえら! よく聞け! 基礎訓練メニューのボリュームダウンを行うぞ。それと、基礎訓練は午前中にまとめて行う! 訓練場周回持久走を、たった1周の10㎞、ほふく前進を500m、パルクール訓練を1回だ」

バスチアンさんは、ふうと息を吐き続けて言う。

「午後は3人が、分かれて別メニューだ。それぞれに指導担当がつく。新人1号にはローラン様、新人2号にはセレスとクリス、新人3号には、この俺バスチアンだ」

え?
俺、マエストロ、ローラン様から、マンツーマン指導!?

わおおっ!!
やったぜえ!!
ものすっごく、嬉しいかも!!

目の前でガッツポーズは反感を買ってしまう。
なので、心の中でこっそりとガッツポーズ。

しかし、シャルロットさんとフェルナンさんはつい、不満の声を漏らしてしまう。

「え!?」
「え~っ!?」

ふたりの声は似た臭くとも、放たれる感情の内容は全く違う。

勘働きが、俺へ伝えて来てくれる。

皆さんも分かってしまうだろう。
シャルロットさんは、俺と一緒に訓練が行えない寂しさ。
フェルナンさんは俺に対する羨望だ。

そんなふたりの不満を知ってか、知らずか、バスチアンさんは言う。

「てめえら、この配置に不満があるのなら、認められるように結果を出せ、本契約を勝ち取る為にな」 

そして、セレスさんもフォロー。

「シャルロットさんも、フェルナンさんも、エルヴェ君の存在が刺激になってるでしょ? 負けないよう、頑張ってね♡」

シャルロットさん、フェルナンさん、内情は、全く違えど、
俺の存在が刺激となり、且つ、励みとしているのは間違いない……と思う。

そんな俺も、偉そうに言えるほど、大したものではない。

まだまだ発展途上の未熟者。
もっともっと、腕を磨かなくては。
そして文句なしに実力を認められ、本契約を勝ち取る!

さあ!
気合を入れ直して、まずは基礎訓練だ。

改めてストレッチ、準備運動をしてから、メニューを消化しよう。

ええっと……メニューは、と。
訓練場周回持久走を、1周の10㎞、
ほふく前進を500m、パルクール訓練を1回だったな!

ふうと軽く息を吐いた俺は、シャルロットさん、フェルナンさんへ言う。

「シャルロットさん! フェルナンさん! まずは基礎訓練を、びしっとやり抜きましょう!」

念の為、フェルナンさんは勿論だが、愛するシャルロットさんも、
彼氏彼女のプライベートタイム以外は、先輩だからさん付けで敬語である。

俺の檄に応え、シャルロットさん、フェルナンさんは、

「ええ! エル君! 頑張りましょう!」
「うん! エルヴェ君! 頑張ろう!」

同期として、心をひとつにしてくれたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ストレッチ、準備運動をじっくりやった後、バスチアンさんが告げた基礎訓練に。

……ボリュームダウンした事もあり、基礎訓練メニューは、あっさりクリア。

俺たち新人は、個別メニューへ入った。

シャルロットさんは、セレスさん、クリスさんとともに、
魔法杖を使いながら、後方にて攻撃、支援の実戦訓練。

フェルナンさんは、バスチアンさんと剣技、格闘の実戦訓練。

そして俺は、憧れのマエストロ、ローラン様と剣技の訓練だ。

雷撃剣を構えて対峙する、俺とローラン様。

「早速だが、バスチアンを圧倒した君の剣、存分に見せて貰おうか」

「はい! 宜しくお願い致します!」

返事をしながら、ローラン様との戦いを素早くイメージシミュレーションする。

戦法はすぐ決まった。

基本的には、バスチアンさんと全く同じ
ローラン様の『間合い』の外から、ヒットアンドアウェイ攻撃
――有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、
即座に撤退する事に徹するのだ。

繰り返しになるが、一番重要なのは、絶対ローラン様の『間合い』には入らない事。

しかし、問題があった。
『間合い』自体が分からない!

目の前で魔物と戦っていたバスチアンさんのケースと違い、
俺はローラン様の戦闘を見た事がない。

実際、俺はローラン様の英雄譚しか読んだ事がないし、
その英雄譚の記載で戦闘をイメージするしかないのだ。

仕方がない。
データがないならば、無理やり作るしかない。

目安になるデータベースは……ずばりバスチアンさんだ。

ローラン様とバスチアンさん、剣技、パワー、体さばき、等々は全く違うだろう。
でも単純な『強さ』の比較からシミュレーションは可能であると考えた 。

少な目の見立てかもしれないが……
とりあえず、ローラン様の強さは、バスチアンさんの約3倍としてみようと決める。

そして、俺の切り札とも言える『勘働き』を存分に使う。

俺は少し離れた位置で、剣を構えるローラン様へ、
最大限に意識を集中したのである。
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