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第63話「また褒められた! 尻尾をぶんぶん打ち振る子犬のような気分だ!」

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ばちばちばちばちっっっっ!!!!!

凄まじい雷撃音が響き渡った。

「ぐっ!」

軽度の雷撃に痺れたのか、くぐもった短い声を上げ、
がくっと脱力したローラン様ではあったが……
バスチアンさんとは違い、片膝まではつかなかった。

軽度とはいえ、人間の肉体に雷撃は相当こたえるはず。
なのに、一見して、受けたダメージは、さほどではないという感じ。

加えて、クリティカルヒットに近い俺の渾身の一撃なのに……
耐性があるのか、単に身体が頑丈なのか、
しょせん、これがランクSとAの違い……なのだろうか。

凝視していると、噛み締めたローラン様の唇が柔らかくなり、ふっと笑う。

「ふ、想像以上だな……エルヴェ君は」

そう、つぶやいたローラン様は、俺をまっすぐに見据え、

「済まなかったな」

と謝罪もした。

「いえ……」

短く言葉を戻した俺だったが、ローラン様からの謝罪の意味はすぐに分かった。
俺エルヴェの実力は想定外だった、
必要以上に手加減して申し訳ないという事だろう。

繰り返しになるが、ここで傲慢&プライドの高い奴なら、激高する。
要らぬ手加減、気遣いなのだと。

でも俺に、そんなこだわりはない。

まず、俺の才能を見込んで、褒めてくれるのが素直に嬉しい。

それが畏れ多くも、雲の上の人、マエストロたるローラン様なのは勿論。
更に言えば、俺の基本スタンスもある。

そう、手加減しようが、油断しようが、計算外であろうが、
単に運が良かったであろうが、結果が全てという基本スタンス。

どんな状況であろうと、渾身の一撃は一撃……それは変わらないからだ。

それに俺はランクFの最底辺。
命だけは惜しいが、他に失うものは何もない。
ただただ、前へ進み、成り上がるだけだから。

「それよりローラン様、時間が勿体ないです。……稽古を、再開しましょう」

「稽古を再開か、ああ、そうだな」

「はい! そして防御一辺倒なんて、おっしゃらず、思い切りやってください。俺も一旦ヒットアンドアウェイをやめて、安全圏解除で思い切り踏み込みますから」

「うむ、分かった、エルヴェ君。では、互いに遠慮なしで思い切り、行かせて貰おうか」

「はい、ありがとうございます、ローラン様」

という事で、俺は剣を構え直し、改めて深呼吸。

基本戦法のヒットアンドアウェイ攻撃は一旦中止する事に。
今回はガチで、ローラン様と打ち合おう。

す~は~、す~は~、す~は~、す~は~、す~は~、

最後にふうと軽く息を吐き、ダッシュ!

ローラン様へ接近!
間合いを詰め、思い切り雷撃剣を打ち込む。

びしゅう!

俺の剣がうなりをあげ、ローラン様を襲う。
当然『勘働き』のスキルを使い、次の動きを追尾した上でだ。

「むっ!」

ローラン様は、ほんのぎりぎりでかわした。
俺は即座に勘働きを発動。

左へ、すかさずカウンターが来る!

ローラン様が放つ波動がそう教えてくれた。

よし、こちらも更にカウンター返し!

がいいいんんん!!!

ばちばちばちばちっっっっ!!!

カウンターを仕掛けようとしたローラン様は、逆に俺のカウンター剣を受け止め、
辺りには重い金属音、そして雷撃が鳴り響いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

以降、俺とローラン様の稽古、否、戦いは一進一退では……なかった!

俺の8割がた負け、攻撃は10回に2回の割合でしか、当たらなかった。

敗因は剣技、身体能力の単純な差。
そして圧倒的な経験値の違いだ。
反撃出来た2割は、スキル勘働き――先読みのお陰である。

そして、ローラン様の反撃が半端なかった。

どっ!
びりびりびりっっ!

「ぐわう!」

びしっ!
びりびりびりっっ!

「がっ!」

どご!
びりびりびりっっ!

「ぐお!」

などと、ほぼ一方的かつ、散々打ち据えられてしまった。

しかし、進歩もあった。

本気モードになったローラン様に、最初こそは一方的に打たれたものの、
後半になってからは、徐々にだが反撃が出来るようになって来たのだ。

勘働きの助けで、ローラン様の動きに慣れて来て、
わずかな癖も見抜けるようになった事、加えて、剣技の進歩もあったに違いない。

そしてそして何と!

雷撃に耐性があるらしいローラン様のように、
俺は雷撃に耐えられるようになって来たのだ。

終いには、雷撃が身体へ伝わるごとに、力がみなぎって来るような気もした。
ダメージを受けていたのが、逆に元気になるような。

言っておくが、俺はM気質ではない、念の為。

そんなこんなで、約2時間と少し……俺はローラン様とたっぷり剣を交えた。

……そんなこんなで、稽古と言う名の戦いは終了した。

「うむうむ、想定外以上の手ごたえだ!」

と、言い放つローラン様。

また褒められた!
尻尾をぶんぶん打ち振る子犬のような気分だ!

そんなに可愛くないだろ?
って、ほっといてくれ!

「ありがとうございます!」

「ふむ、もう午後4時か、頃合いだな。時間も来たし、本日の訓練は終了だ。ロッジへ戻ろう」

「はい」

こうして……ローラン様から促され、訓練を終えた俺は帰途についたのであった。
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