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《第5章》 ロットバルトの憂鬱
桜の香りのシャワージェル ☆
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雨のなか二人が帰宅したのは昼すぎで、午後は別々に過ごしていた。
この一か月、特に取り決めたわけではないが、一方がリビングにいる時は一方は自室に行く、そんなルールができあがっていた。自室にこもっていた飛豪が六時すぎに部屋を出ると、リビングにノスタルジックな匂いが立ちこめていた。
――昨日、話すのに夢中で風呂入ってないって言ってたな。
瞳子はおそらく最初に入浴して、その後はリビングで過ごしていたのだろう。
甘やかで、胸の底にある古い記憶を刺激していくこの香りは、桜の香りだと彼は気づく。脳裏の細胞がすべて、やわらかな薄紅色に染まっていった。
そういえばバスルームにピンク色のシャワージェルが増えていた、と飛豪は思いだす。彼女が好きな香りなのだろう。切なささえ覚える芳香がリビングに充満していた。
「飛豪さん、いいところに! サバ食べられましたっけ? アレルギーとかある? 今日の夕飯、サバと舞茸の炊き込みにする予定なんですけど」
扉があいた途端に、軽い足音をたててキッチンから瞳子がやって来た。
桜の香りの震源地。その濃厚さに、酔って眩暈がしそうだった。
「いや、アレルギーとかは特にない」
「了解。今日は炊き込みと、湯豆腐と、あとはワカメとトマトのサラダの予定です」
「いいんじゃない。――昨日たくさん飲み食いしてきた分の、カロリーを相殺しようとしてる意図が感じられるけど」
「残念ながら、その通りです。ダイエットメニューに付きあいたくない気分だったら、お肉焼きますよ」
「いや、俺も湯豆腐でいいよ。夕飯何時?」
「七時。できたら呼びまーす」
瞳子はくるりと背をむけて、キッチンへと戻っていく。彼女の後ろを、飛豪はフラフラと惹かれるようにして付いていった。
――いい匂いがする。人の理性をとてつもなく狂わせる、甘い香りが。
冷蔵庫を開いている彼女の背後に立つ。彼がなかば理性を手ばなしかけていることなど、まだこれっぽっちも気づいていない。瞳子は「どうしたんですか?」と首だけ仰向かせて訊いてきた。
無言でただじっと見下ろしている飛豪に、彼女は不思議そうだった。なにか言いたげに口の端を少し動かす。リップクリームを塗った唇がツヤツヤと光っていた。
抑制がきかず、彼は無理やりこちらに向かせるとキスを落とした。
「ん……ッ‼」
遠慮などしない。片手で彼女の頬を押さえつけ、舌をずいと割りこませてこじ開ける。気の向くままに彼女の口腔内を犯していく。なぜなら、自分にはそうする権利がある。
心ゆくまで口づけを堪能しながら、飛豪は彼女をゆるやかに抱きしめた。逃げられないように、腕のなかに閉じこめる。
キスを終えると、瞳子は濡れた瞳をしてこちらを見上げていた。半開きになった口から、熱い息がこぼれているのが艶めかしい。
「料理したいんだけど……」
「それより、俺とちょっと遊んでよ」
彼は淫靡な手つきで、彼女の耳朶をなぞった。ダメ押しするように、耳元に口を寄せて囁きかける。
すると、彼女は簡単に堕ちた。体の力が抜けたように、くたりと飛豪の胸にもたれかかってきた。
「ちょ……耳は反則。わたし、それ、抵抗できなくなる」
「へぇ、良いコト聞いた」
「大人げない。ムカつく」
可愛い悪口を封じるように、飛豪は再び唇をかさねた。
唾液をやりとりするような口づけを深めながら、彼女を壁ぎわに追い詰めていく。もう自分の性器が昂奮して、痺れをきらして立ち上がっている。
隠そうともせずに彼はそれを彼女の腹部に押しつけ、部屋着のショートパンツごしに尻に手をやった。弾力のある感触をたっぷりと楽しんだあと、敏感なところをそっと撫でてゆく。
「い……やッ…」
抵抗するように首をふっているが、その場所がすでにみだらに湿っているのも、彼女が感じはじめているのも分かる。飛豪は昏くほくそ笑んだ。
――もう今日は、自分がやりたいだけしよう。
そこに脈絡はない。強いて言うなら、彼女のシャワージェルが悪い。どうにも加減ができそうになかった。
「イヤじゃないだろ。君は俺を拒否できないはずだ」
二人のあいだの契約を告げると、彼女は黙りこんだ。やがて、熱にうかされた眼ざしで従順に頷いた。
この一か月、特に取り決めたわけではないが、一方がリビングにいる時は一方は自室に行く、そんなルールができあがっていた。自室にこもっていた飛豪が六時すぎに部屋を出ると、リビングにノスタルジックな匂いが立ちこめていた。
――昨日、話すのに夢中で風呂入ってないって言ってたな。
瞳子はおそらく最初に入浴して、その後はリビングで過ごしていたのだろう。
甘やかで、胸の底にある古い記憶を刺激していくこの香りは、桜の香りだと彼は気づく。脳裏の細胞がすべて、やわらかな薄紅色に染まっていった。
そういえばバスルームにピンク色のシャワージェルが増えていた、と飛豪は思いだす。彼女が好きな香りなのだろう。切なささえ覚える芳香がリビングに充満していた。
「飛豪さん、いいところに! サバ食べられましたっけ? アレルギーとかある? 今日の夕飯、サバと舞茸の炊き込みにする予定なんですけど」
扉があいた途端に、軽い足音をたててキッチンから瞳子がやって来た。
桜の香りの震源地。その濃厚さに、酔って眩暈がしそうだった。
「いや、アレルギーとかは特にない」
「了解。今日は炊き込みと、湯豆腐と、あとはワカメとトマトのサラダの予定です」
「いいんじゃない。――昨日たくさん飲み食いしてきた分の、カロリーを相殺しようとしてる意図が感じられるけど」
「残念ながら、その通りです。ダイエットメニューに付きあいたくない気分だったら、お肉焼きますよ」
「いや、俺も湯豆腐でいいよ。夕飯何時?」
「七時。できたら呼びまーす」
瞳子はくるりと背をむけて、キッチンへと戻っていく。彼女の後ろを、飛豪はフラフラと惹かれるようにして付いていった。
――いい匂いがする。人の理性をとてつもなく狂わせる、甘い香りが。
冷蔵庫を開いている彼女の背後に立つ。彼がなかば理性を手ばなしかけていることなど、まだこれっぽっちも気づいていない。瞳子は「どうしたんですか?」と首だけ仰向かせて訊いてきた。
無言でただじっと見下ろしている飛豪に、彼女は不思議そうだった。なにか言いたげに口の端を少し動かす。リップクリームを塗った唇がツヤツヤと光っていた。
抑制がきかず、彼は無理やりこちらに向かせるとキスを落とした。
「ん……ッ‼」
遠慮などしない。片手で彼女の頬を押さえつけ、舌をずいと割りこませてこじ開ける。気の向くままに彼女の口腔内を犯していく。なぜなら、自分にはそうする権利がある。
心ゆくまで口づけを堪能しながら、飛豪は彼女をゆるやかに抱きしめた。逃げられないように、腕のなかに閉じこめる。
キスを終えると、瞳子は濡れた瞳をしてこちらを見上げていた。半開きになった口から、熱い息がこぼれているのが艶めかしい。
「料理したいんだけど……」
「それより、俺とちょっと遊んでよ」
彼は淫靡な手つきで、彼女の耳朶をなぞった。ダメ押しするように、耳元に口を寄せて囁きかける。
すると、彼女は簡単に堕ちた。体の力が抜けたように、くたりと飛豪の胸にもたれかかってきた。
「ちょ……耳は反則。わたし、それ、抵抗できなくなる」
「へぇ、良いコト聞いた」
「大人げない。ムカつく」
可愛い悪口を封じるように、飛豪は再び唇をかさねた。
唾液をやりとりするような口づけを深めながら、彼女を壁ぎわに追い詰めていく。もう自分の性器が昂奮して、痺れをきらして立ち上がっている。
隠そうともせずに彼はそれを彼女の腹部に押しつけ、部屋着のショートパンツごしに尻に手をやった。弾力のある感触をたっぷりと楽しんだあと、敏感なところをそっと撫でてゆく。
「い……やッ…」
抵抗するように首をふっているが、その場所がすでにみだらに湿っているのも、彼女が感じはじめているのも分かる。飛豪は昏くほくそ笑んだ。
――もう今日は、自分がやりたいだけしよう。
そこに脈絡はない。強いて言うなら、彼女のシャワージェルが悪い。どうにも加減ができそうになかった。
「イヤじゃないだろ。君は俺を拒否できないはずだ」
二人のあいだの契約を告げると、彼女は黙りこんだ。やがて、熱にうかされた眼ざしで従順に頷いた。
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