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《第7章》 元カレは、王子様
渋谷のカフェで3
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セックスの時だけに現れる、もう一人の彼をDV男と言っていいのかはよく分からない。しかし、暴力に近い行為はある。
神妙に相槌をうっていると、二人が「健康保険とか年金のシステムって、社会人やって初めて理解できたよね」とか、「労働後のご褒美スイーツとか一点モノの服のために働いてるのかも」と屈託なく喋りちらしていく。彼女たちにとっては日常の話題が、瞳子にとってはひどく新鮮だった。
――こういう話って、大学の友達とすることないな。
二人の会話に黙って聞き耳をたてていると、ヒガチカが思いだしたように「あ、それでね」と、改まって声を区切った。
「私、会社で社会保険とか総務っぽい仕事もITの他にやってまして。皆さんの書類の取りまとめもしてるから把握してるんですけど、瞳子ちゃん……来月、飛豪さんのお誕生日だって知ってる?」
彼女は、「九月の一四日なんですけど」と言い添える。
「知らなかったです」
「そうだと思った。飛豪さん、誕生日とか気にしないタイプだろうけど、瞳子ちゃんがお祝いしてあげたら嬉しいんじゃないかなって思って。……同僚からの余計な気遣いです」
思いもよらなかった新情報に、「ありがとうございます。なにかお祝い考えてみます」と頭をさげた。必然的に意識はそちらへと向いてしまう。
あと三週間半。社会人男性の誕生日、どうすれば喜んでくれるだろう。
父親がいない環境で育った上、彼以前に付きあったのはサーシャとの一か月のみ、しかも女子大に通っているので、男の人がそもそもどんなものを必要としているのか、イメージができない。
帰りに書店でメンズ雑誌を眺めていこうかな、と思案にくれていると、スミレがうきうきとした様子で助け舟をだしてくれた。
「九月生まれだったんだ、飛豪くん。夏っぽいイメージはあったけど。瞳子ちゃん、ファッション系のプレゼント買うなら、相談のるよ」
「わ、助かります。やっぱり、ネクタイとかカフスとかが一番オススメですか?」
「そうねぇ……。チカ、あの人、週に何回ぐらいスーツ着てる?」
「それ私に訊く?」
「だって、硬っくるしいからって言って、用事ある時だけ着替えてそうじゃない」
「顧客の初回打ち合わせと本契約、美芳さんのお供で外交するときと、あとは接待とかパーティー系。……ジャケット着てるのは結構見るけど、きちんとしたスーツは月二……くらい?」
そうかもしれない。瞳子も、彼が朝にスーツ姿で出勤していくのは一緒に暮らしはじめてから数回も見ていない。
「じゃ、ネクタイはなし。カフスも。せっかくだから使えるもの選びましょうよ」
使えるものを贈る。至極大事なコンセプトだ。
「うーん。あの人の場合、時計もダイバーズウォッチだし、ファッション系よりアウトドア系の方がいいかも。仕事の視察で海にも山にも結構行ってるって、前に聞いたような気がする。それか、車関係のガジェット。車は私、運転しないから分からないんだよな……」
スミレはブツブツ言いながら頭をかかえているが、瞳子としては十分にヒントを貰えた気がする。
しかし、一つ重要な点に気づいてしまった。
バイトをしていないから自分のお金がない。
今、銀行口座に入っているお金は、すべて彼から振りこまれたものだ。彼のお金で、彼への誕生日プレゼントを買うのはあまりにも情けない。そんなこと出来ない。だとしたら――。
神妙に相槌をうっていると、二人が「健康保険とか年金のシステムって、社会人やって初めて理解できたよね」とか、「労働後のご褒美スイーツとか一点モノの服のために働いてるのかも」と屈託なく喋りちらしていく。彼女たちにとっては日常の話題が、瞳子にとってはひどく新鮮だった。
――こういう話って、大学の友達とすることないな。
二人の会話に黙って聞き耳をたてていると、ヒガチカが思いだしたように「あ、それでね」と、改まって声を区切った。
「私、会社で社会保険とか総務っぽい仕事もITの他にやってまして。皆さんの書類の取りまとめもしてるから把握してるんですけど、瞳子ちゃん……来月、飛豪さんのお誕生日だって知ってる?」
彼女は、「九月の一四日なんですけど」と言い添える。
「知らなかったです」
「そうだと思った。飛豪さん、誕生日とか気にしないタイプだろうけど、瞳子ちゃんがお祝いしてあげたら嬉しいんじゃないかなって思って。……同僚からの余計な気遣いです」
思いもよらなかった新情報に、「ありがとうございます。なにかお祝い考えてみます」と頭をさげた。必然的に意識はそちらへと向いてしまう。
あと三週間半。社会人男性の誕生日、どうすれば喜んでくれるだろう。
父親がいない環境で育った上、彼以前に付きあったのはサーシャとの一か月のみ、しかも女子大に通っているので、男の人がそもそもどんなものを必要としているのか、イメージができない。
帰りに書店でメンズ雑誌を眺めていこうかな、と思案にくれていると、スミレがうきうきとした様子で助け舟をだしてくれた。
「九月生まれだったんだ、飛豪くん。夏っぽいイメージはあったけど。瞳子ちゃん、ファッション系のプレゼント買うなら、相談のるよ」
「わ、助かります。やっぱり、ネクタイとかカフスとかが一番オススメですか?」
「そうねぇ……。チカ、あの人、週に何回ぐらいスーツ着てる?」
「それ私に訊く?」
「だって、硬っくるしいからって言って、用事ある時だけ着替えてそうじゃない」
「顧客の初回打ち合わせと本契約、美芳さんのお供で外交するときと、あとは接待とかパーティー系。……ジャケット着てるのは結構見るけど、きちんとしたスーツは月二……くらい?」
そうかもしれない。瞳子も、彼が朝にスーツ姿で出勤していくのは一緒に暮らしはじめてから数回も見ていない。
「じゃ、ネクタイはなし。カフスも。せっかくだから使えるもの選びましょうよ」
使えるものを贈る。至極大事なコンセプトだ。
「うーん。あの人の場合、時計もダイバーズウォッチだし、ファッション系よりアウトドア系の方がいいかも。仕事の視察で海にも山にも結構行ってるって、前に聞いたような気がする。それか、車関係のガジェット。車は私、運転しないから分からないんだよな……」
スミレはブツブツ言いながら頭をかかえているが、瞳子としては十分にヒントを貰えた気がする。
しかし、一つ重要な点に気づいてしまった。
バイトをしていないから自分のお金がない。
今、銀行口座に入っているお金は、すべて彼から振りこまれたものだ。彼のお金で、彼への誕生日プレゼントを買うのはあまりにも情けない。そんなこと出来ない。だとしたら――。
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