俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第2章 異世界家族

第1話 新しい家族

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ナディアが親パンダの呼吸を確認する。未だ子パンダは母親から離れようとはしない。
しかし、ここは大森林の奥地である。出来るだけ早く立ち去る必要があった。

ナディアはカバンからナイフを取り出すと親パンダのキバを切り取ろうとする。
子パンダはその様子をみて既にナディアに噛みついていた。

「母さん…」

「アキ、お願い。好きにさせて。」

アキにはその言葉がナディアかパンダのことを指すのかはわからなかったが、アキはその手に抱える女の子を大事に抱いていることしか出来なかった。この女の子も獣人族だった。獣耳はナディアのとは異なり白く丸い形をしており、生えている尻尾も白黒の縞模様が鮮やかに生えている。
赤ん坊が目を覚ます。アキと目が合う。オレンジ色の綺麗な目をしている。クリンクリンのまん丸い瞳が印象的だ。
将来は美人になるんだろうな。とアキが考えていると、ニヘラと赤ん坊が笑う。

《お~、可愛いな。おいっ。アキもっと撫でろ!!》

<…これは、、可愛さで人を殺せる。ぐぅぅ…>

アキと感覚を共有できる詩が、赤ん坊の質感を堪能するためにリクエストを出し、ディラも物騒なことを言い放ち、早速被害者1号となっていた。

《アキ、とりあえず何か着物!!》

素っ裸の赤ん坊に衣類を要求する詩。アキも気付いて慌てて荷物を漁る。

<…全く気が利かない。愚か者め…>

割と早めに復活したディラも辛らつな言葉を浴びせる。
とりあえずアキは雨合羽代わりに準備していた毛皮で赤ん坊を包む。キャッキャと赤ん坊は喜んでいた。


一方、子パンダが足に噛みついたままのナディアも獲物を縛るために用意していた縄を穴を開けたキバに通すとチョーカーを作製し終えていた。
そしてそのまま子パンダに差し出す。

「ごめんね。あにゃたのママは置いていかにゃいといけにゃいの。代わりにこのキバがあにゃたを守るから。」

そう言って子パンダの首元にチョーカーを着けようとすると、何かを感じ取ったのか噛むのを止め、素直に首を差し出し、チョーカーを着けてもらう。

「アキ、この方を火葬にできる?」

ナディアはそう言ってアキに問いかける。

火魔法は少し特殊である。今回の場合、アキは自分の魔力を火に変換して火葬しなければならない。しかしそれをするには相当量の火力と温度が必要である。アキの魔力量は通常の4倍強。つまり体重でいうと約300kg。だが目の前の親パンダはそれ以上である。アキの魔力全てを犠牲にしても包み込むことはできない。さらに温度も問題である。何度の熱を加えればいいかさえもわからない。だが、幸運にもアキは精霊魔法を使うことができる。

親パンダの体分の穴を地中に空けることは不可能である。アキの魔力が足りない。そこでアキは、枯れ木をナディアに分解してもらい、遺体に重ねてもらう。そして土精霊魔法をつかい遺体と共に覆うと、着火口に火魔法で着火。後は下方に空気穴を空け、少しずつ風精霊魔法で空気を送り続けた。
時折、土壁が溶けてしまいそうな部位には都度、土を補給し続けていたアキ。
その様子を子パンダはジッと眺め続けていた。




火葬を終えると、アキはその場に膝をつく。魔力量がギリギリだったのだ。
子パンダはアキの足元に寄ってくると、前脚と後脚を器用につかい、ひしっとアキの膝下にしがみ付く。20cmほどの体長である。ちょっと重いな。とアキは思うも引きはがすことはしなかった。

アキが魔力の供給を止めたことで崩れる土壁。
この小さな小山をそのまま親パンダのお墓とした。


アキとナディアは周囲の気配に気を配りながらもお墓に向かって黙とうを捧げる。
ナディアは何か含むことがあったのであろう。同じ母親としての情なのか、いくつかの涙が彼女の頬をつたっていた。


「母さん、帰りましょう。」
これ以上ここに留まるのは危険であった。

「ええ。熊猫の子もね。もちろんあなたもよ。」

ナディアの腕で小さな手をパンパンと合わせて遊ぶ赤ん坊。そう呼びかけたナディアは既に赤子と子パンダを引き取り育てるつもりでいた。



復路は真っすぐに村を目指す。
いくつか獲物の気配もあったが、ナディアは両手に赤子を抱えており、アキもパンダを肩に担いでいる。狩猟をする余裕はない。
また村での襲撃状況を考えるにゴブリンの群れは赤子と子パンダを狙った可能性が高い。ここで群れに出くわせば一たまりもないとのナディアの判断だった。
かなりの速度で疾走するアキに振り落とされないように子パンダも必死にアキにしがみ付いていた。


村に着く頃には日が沈み始めていた。
ナディアたちはそのまま自宅に帰る。アキたちの家は村のなかで、大森林から最も近い位置にある。村人とは誰も顔を合わすことはなかったが、血の臭いがアキの鼻腔を刺激した。

ゴブリンの襲撃で村には甚大な被害が出ていた。
倒壊、1。
破損、全家屋。

幸いにして食糧だけは、屋上に避難させており無事であったが、ゴブリンの死骸が村中に散らばり、矢も放出し終えて村の防衛力が極端に下がった今の状況で、家屋の修復は優先順位が高いものでは無かった。

アキが帰宅すると、既にリリが帰宅していた。

「あら、おかえりなさい。今日はいつもより遅………………………………………………………………………………………説明してくれるかしら。」

リリの視線がこちらを向いた瞬間、アキたちの想像通りの反応をリリが示す。

「リリさん…。実は…。」

ナディアが森で起こったことを身振り手振りで説明する。リリは頷くこともせず、ただ黙ってナディアの話に耳を向けていた。

「そう。この子が…。」

ナディアが話終えると、赤子の顔を見ようとリリはナディアに近寄る。

グルルルルル!!

近寄るリリに子パンダが威嚇の声を出す。

「そうね。あなたの兄弟だものね。急にごめんなさい。」

そういいながら、リリは膝を抱えながら座り、先ほどからアキの膝下にしがみついていた子パンダに話しかけた。アキも子パンダを安心するように撫でながら話しかける。

「僕のばあちゃんなんだ。警戒しなくていいよ。」

そういうと子パンダはそれ以上威嚇することは無かった。

「とてもいい子ね。ナディアより賢いかも知れない。」

「そっ、そんなことにゃいですよ。…きっと。……多分。」

「まあいいわ。今日からこの子たちもうちの子よ。」

その言葉にアキもナディアも表情がパァと明るくなり、ナディアは嬉しさのあまり赤子に強く頬ずりしてしまい泣かせていた。あわわと慌てるアキとナディア。

それ故、2人はリリの喜びの表情に暗い影が含まれていることに気づかなかったのだった。

「リリさん、この子らににゃ前を付けてください。」

アキはナディアが名付け親にならないことを不思議に思い、ナディアの顔を見上げる。
ナディアはアキからの視線に気付く。

「アキのにゃ前もリリさんが付けてくれたの。」

少し考えてた後にリリは、

「じゃあ、女の子をイズモ。子パンダ君はヒュウガにしようかしら。」

アキはその言葉にビックと体を震わせる。

「今日からあなたはイズモちゃんよ~。」

そう言いながら、高い高いをするナディア。
イズモもケラケラと楽しそうに笑っている。

「早く私にも抱かせて頂戴。」

ナディアに近寄り、イズモを見上げるリリ。

2人は気が付かなかった。

《お、おい、アキ。このばあさん。ひょっとして。》

<…???…>

「き、今日から君の名はヒ、ヒュウガだぞ。」

クゥ~♪

名前をもらったことに喜ぶヒュウガだったが、自分を見下ろすアキの表情が動揺を隠しきれないほど狼狽していたことを不思議に思っていた。
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