俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第1章 異世界転生

第10話 戦後

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ゴブリンの襲撃から2日が経っていた。
家に帰宅した後もナディアは片時も眠ったままのアキから離れようとはせず、リリは寧ろナディアの体調の方が心配だった。
過剰な強化術による内臓への負荷。それがリリが診た限りのアキの症状であった。
薬草を煎じて飲ませており、命にも別状は無かった。

うぅぅん、、、

「アキ!!」

二日ぶりにアキが目を覚ます。間髪入れずナディアがアキに抱き着いた。獣人族のパワーがこれでもかと言わんばかりに発揮される。

「ふぐぎぃぃぃ」

アキの口から変な音が漏れ出る。
近くに控えていたリリがナディアの頭軽く叩くと、アキを抱きしめていた力も緩む。

「アキ、かなり無茶しましたね。」

怒っている声だ。リリの声を聴いたアキは直ぐに分かった。

「ワポルからあまり怒らないでやってくれと言われていますが、それとこれとは話が違います。ナディアちょっとどいて。」

パァン!

ナディアが体をずらすと同時にリリから頬を叩かれるアキ。少し脳が揺れていた。

「いい?ワポルたちを助けようとした勇敢さは褒めてあげる。けれど、あなたは自分の力を過大評価し、命を軽視しました。……これは今まで必死に育ててきた私やナディアに対する侮辱です。」

「…あなたが成人したとしても。…たとえ私やナディアが先に…死んだとしても。それだけは。……それだけは、絶対に許しません。いいですかっ!!!!」

そう言い結んだリリの目は真っ赤に腫れ、涙が浮かんでいた。

泣いているばあちゃんを初めて見た。しかも自分が泣かせた。自覚したアキが発することのできる言葉は多くなかった。

「ご、ごめんなさい。ばあちゃん。母さん。」

結局、その日はアキが自力で立つことができたにもかかわらず、リリもナディアも経過観察といい、アキの側から離れることはなかった。




次の日、アキが目を覚ますと家に誰か来客しているようだった。誰が来たのか、アキは結局わからずじまいだったのだが、直ぐにリリはナディアを叩き起こした。





ナディアにくくり付けられたアキは森に来ていた。
といってもナディアに背負われる格好のアキは何もすることができないのであるが、久しぶりにアキを抱っこできたナディアは満足げである。


今日は狩人のナディアが森に入り被害状況を確認するとアキは聞いている。
森には少しずつであるが、生き物の気配が戻りつつあったが、やはりゴブリンらの残したつめ跡は大きかった。いたるところで木々が荒らされている。

「ひどい」

ナディアは独り言を呟く。この様子では以前のような森に戻るにはある程度の時間が必要に考えられた。

更に森に分け入っていく。被害の程度が更に増す。ナディアは狩人としては一流である。被害状況から判断すると、今回のゴブリンらは北から南下してきた集団だと断定する。村を襲ったのも一部の群れでしかない。他の群れは放射線上に森に散ったようで、今ナディアたちがいる場所はかなり大きな群れが通り過ぎた跡が見受けられる。


慎重に痕跡を追跡する。リリ特製の匂い消しを体に振りかけた。
直ぐにナディアらはゴブリンの死体を発見する。ざっと数えて100体は下らない。更に奥にもゴブリンの死体が横たわっていた。見るにかなり時間が経っている。腐臭が獣人族のナディアの鼻には強烈だった。アキも吐き気に襲われるが流石に耐えた。

奥に行くほど死体は新しくなっていた。大型肉食動物の爪痕が多い傷口からして、大型の動物が相手だったのだろう。ナディアも危険は承知だった。が、地上での戦闘の痕跡から木に登れば逃走が難しくないことや、血痕跡や足跡から未知の生物は1匹で深手を負っていることが明らかだったため追跡を続けた。

ゴブリンの死体が途切れたところで、それは姿を現した。

熊のような体格で、体長は5mを超える巨体。この世界での名前をアキは知らなかったが、ひと目見ただけで何かはわかった。

(パンダだ…。)

パンダがこちらに気付くと寝転んでいた体を起こし、こちらを威嚇してくる。

グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

辺りの木々が震えるほどの大声にアキの汗が一斉に引く。

「アキ、絶対動いちゃダメよ。」

頼まれたって動くか。アキはそんな想いを込めてゆっくりと頷く。

見ればパンダは体中血だらけで、立っているのもやっとという様子だ。
死にかかっている。それはアキにもわかった。ナディアは背負っているアキをその場に下すとパンダに近づいて行く。
「かあっ《アキ!!!黙りな!!》」

ナディアを呼び止めようとすると脳内で詩の大声が響く。

(詩、どうゆうこと?)

<…命の灯を必死に輝かせようとしている。邪魔しちゃダメ…>

《母親ってことなんだよ。》

アキにはさっぱり理解できなかったが、事態の推移を見守る。

「わたしも母親です。大丈夫ですよ。」

ナディアは持ってきた装備を全て降ろすと、パンダに語り掛けながらその歩を進める。

あっ!

アキがその影に気付く。小さな子パンダがパンダの足元からこちらを窺うように顔を覗かせたのだ。アキもやっと皆のいうことを理解した。

「大丈夫ですよ。わたしたちは敵じゃにゃいです。」

お昼用に準備していた干し肉をゆっくりと子パンダの口元に運ぶナディア。子パンダも肉に鼻を摺り寄せるがフィッと顔を背けてしまった。
すると、ナディアはおもむろに肉を口に含むと租借し始め、噛みちぎった肉を子パンダに与えたのだ。

その様子を見ていた親パンダは子パンダを潰さないように歩を進め始めると近くの枯れ木を破壊する。

不思議に思うアキ。子パンダをあやすナディア。

開けられた木の穴にパンダは顔を突っ込むと、引き出したパンダは小さな女の子を咥えていた。1歳児ぐらいだろう。驚いたアキはナディアを呼ぶ。
あっ、と女の子に気付いたナディアにパンダはその子を名残惜しそうに預けると、子パンダに顔をこすりつけ始め、子パンダもそれに甘えた。

しばらく続いていたその光景も終わりを迎える。

グオを小さく鳴いた親パンダ。まるで「じゃあね」と我が子にお別れを告げるようであった。そしてナディアに顔を向けもう一度グオと鳴く。
ナディアもそれにうなづいた。
親パンダに顔をこすりつけ続ける子パンダ。親パンダは我が子を潰さないようにゆっくりのその体を横たえる。


もう母が鳴くことは無かった。
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