俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第2章 異世界家族

第2話 村の行く末

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話は少し遡る。
ナディアたちによって警鐘が鳴らされると村はパニックに陥った。
ラウ村の村長、狐人族のジンもその一人であった。
齢150歳を超える老人、眉毛から髪の毛、尻尾までも白色に覆われており、腰も90度以上の角度で曲がっている。
村長というより長老という表現の方が正しいかも知れない。

「領主様に救援をお願いするのじゃ。」

ジンは息子であるコウに嘆願書を持たせ、領主であるホップス子爵に救援を依頼するよう指示する。
ホップス子爵が常駐しているホップス子爵領、領都ホストラはラウ村の東にある。馬を飛ばして1日の距離だ。村に馬など存在しない以上、徒歩での移動になる。獣人族の身体能力をもってしても1日半は掛かってしまう。どう考えても間に合うはずもないが村長として他に選択肢も無かった。




幸運にも襲撃は撃退することができ、村に経済的な被害こそ出たものの死者は出なかった。しかし、問題はあとからやって来る。

「親父!スタンピートはどうなった!?」

4日後の早朝、村長の息子コウが息を切らせて帰宅する。まだ床についていた村長のジンは驚きながらも無事に帰って来た息子に安堵する。

「それならば大丈夫じゃよ。皆でなんとか追い払った。」

コウはその言葉に一息つく思いだったが、本来の要件を切り出す。

「領主の監査官共がやって来る!!」

「なんじゃと!!」

ジンは起き上がらせようとした腰を再度床につかせてしまう。


大森林から発生したスタンピートはネスジーナ王国西部全域に被害を及ぼしていた。
今回のスタンピートで異常発生したのは比較的弱いゴブリンであった。
高い城壁で囲まれた都市では交易が止まる以外の被害は全く無く、ゴブリンらもそれを理解してか都市部には近寄る気配が無かった。
反対に、村や集落は異なる。多少の柵などはゴブリンらがその物量に任せて破壊し、少なくない集落や村が全滅の憂いに遭っていた。

領主はその報告を聞き、税収が下がることを危惧した。
監査官を組織し領内の安全が確保されたことを知ると、生存した者がいると思われる村々に向けて監査官らを派遣した。


ジンは急ぎリリの家に向かう。

「リリさん。大変じゃ!!」

早朝にも関わらず、リリは迷惑な表情を浮かべない。ジンは直ぐに事情を説明するとリリの顔色が変わる。リリの家には人族のアキがいる。獣人族の村に出生が不明な人族の子がいると分かれば、どんないいがかりをつけて処罰されるかわからない。誘拐。拉致。いくらでも理由付けは可能であった。

リリは病み上がりのアキをナディアに任せ、大森林へと向かわせる。
監査官は絶対に大森林へは分け入らない。その確信があったからだ。



監査官が到着したのは昼前。
出迎えるのは、村長であるジン、年老いたジンの代わりに主だった代理をしているコウ、そして顔役のリリである。

東から馬に乗った2騎の影が向かってきた。
「今回の監査を行う監査官のゴードン=ニカルドである。」
「同じく監査官のハビエル=フォルスだ。」
遠乗りに向かない甲冑のフル装備である。名乗らないことから騎士ではないのであろう。ゴブリンを恐れての装備であることは一目瞭然だった。

「村長を「挨拶などいい!!早く村に連れていけ!!」」

「全く獣臭い!!息を吐くな!!」

滅茶苦茶な理屈であるが、この国での獣人族の扱いなど大差ない。今のように会話にすらならない。コウも嘆願書を城門の警備兵に渡した後、返事をもらえるまで城門の外で何日も夜を1人で明かしていた。

騎乗したまま村を見て回る2人。

「なんだ。ボロ屋が一つ壊れただけでないか。生意気に救援要請など出しおって。」

「しかし、汚い。本来我らのような気品高い者が来ていい場所ではないであろうに。」

「おい狐!!税を3割増やす!!来月からだ!!」

5分ほど村を見たところでそう言い放つ。

「そ、そんな我らにぎゃあ!!」

ジンが抗議しようとすると監査官の1人が抜刀し、ジンを切りつけたのだ。

「獣が我らに口出しするな!!これは決定事項だ。」

「全くとんだ無駄足であった。」

そう言い残し2人は東に馬首を向け帰って行った。



監査官が帰ると直ぐにリリはジンの治療を行う。
見た限り傷は深くない。だが、年老いたジンには酷なことであることは違いなかった。

「親父…。」

コウもただ口惜しさを握りしめるしかなかった。どう足掻いても勝てる相手ではない。監査官の1人や2人、殺すことは容易いが、かすり傷1つ付けただけで千倍になって報復され村が滅びる。そんなことはこの村で一番に習うことだからだ。




リリの治療の介もあってジンは家で休むことができていた。
夕刻になるとジンの家族に薬を渡し、リリも自宅に帰っていた。ナディアたちがイズモたちを連れて帰宅したのはそれから間もなくのことであった。


リリはナディアと共に裁縫に勤しむ。イズモの服はほとんどをアキのお下がりで賄うつもりだったが、やはり女の子である。かわいい装飾を着けて愛でたいのは女親の親心であろう。自分らの服を潰し、一生懸命針を動かしていた。
アキも新しくできた弟、パンダのヒュウガにエサを与えるべく、備蓄していた食糧の一部を咀嚼して与えていた。

すると、ヒュウガが家の片隅に置いていたあるものに興味を示す。

「なんだい?何か見つけた?」

部屋の片隅に行き前脚でツンツンしていたのは、この村を襲ったゴブリンらの魔石である。死体処理の際にリリらが心臓付近にあるこの赤黒い魔石を剥ぎ取っており、皆の家で等分していたのだ。といっても、ゴブリンの魔石は子供の小指の先ほどの大きさしかなく、100個売ってもパン1個の値段の価値もないらしい。
ただ何となくリリたちも保管していたのだ。


ゴブリンは妖魔獣とも呼ばれる種族に分類される魔物である。魔物は獣と異なり、体の心臓付近に魔石が埋まっている。魔物が同じ大きさの獣と比べて、知能が高く、強力なのはこの魔石によるものだと結論づける学者も多い。そして強力で凶悪な魔物、魔獣ほど大きな魔石を保持しているのだ。魔石は大きくなればなるほど、透明度が高くなり価値が上がる。コレクターも存在しているほどで、魔力の充電ができることを利用し、魔道具として活用している場合もある。

田舎者のアキは当然そんなことは知らないが獣種である熊猫のヒュウガが魔石に興味を持っているのを不思議そうに観察していた。

「ばあちゃん、この魔石もらっていい?」

寝室で編み物に没頭しているリリからいい返事をもらえたアキ。

「好きにしていいってさ。」

そう告げると、ヒュウガは目を輝かせてそれらを食べ始めた。えっえっえっぇと狼狽するアキ。とりあえずリリに助けを求める。

「どうしたの?」

アキはヒュウガが魔石を食べたことを説明。ヒュウガも食べちゃ悪かったの?といった感じでクゥ~ンとうなだれている。

「ヒュウガ、異常はない?」

リリがそう聞くと、グオと大きな声で返事するヒュウガ。

「魔石に関してはわからないことのほうが多いの。ひょっとしたらヒュウガの方が詳しいのかもね。ヒュウガがいいのならそのまま続けさせてあげて頂戴。」

そう言い残してリリは編み物に戻ってしまった。

再度嬉しそうに魔石を食べ始めるヒュウガ。その様子をアキは心配そうに見守ることしか出来なかった。




アキたちが寝静まった後、家の裏のいつもの場所でリリとナディアが会話していた。

「えぇ!税が上がるんですか!!」

「しぃ!声が大きい!!」

昼間の出来事をナディアはリリから説明され驚く。

「そんにゃ時にイズモとヒュウガを…。今でも生活はギリギリにゃのに。リリさん、ごめんにゃさい。」

ふみぃぃぃぃ

ナディアの両頬が引っ張られる。

「謝ることじゃないでしょ!!一緒に頑張るんだから!!」

「ふぁい。ひょろひくほねぎゃいひまふ。」

この子たちとなら、大丈夫。リリの悩みなど娘のこの顔を見たとたん、どこかに吹き飛んでいた。
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