俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第2章 異世界家族

第6話 真実

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「あなた日本人でしょ!?」

リリの言葉に体が硬直するアキ。リリはアキのこの反応を予想していたのか、アキの歩が止まっても歩き続ける。

「大体、あなたは無造作すぎるのよ。怒られる時に正座したり、座るときに胡坐組んだり。こちらの世界でそんなことする人いないのに。」

アキはまだ何も言わない。

「黙っていてもよかったのだけどね。二人っきりのいい機会だったし、アキも気付いているのでしょ!?」

アキが口を開く。

「ば、ばあちゃんも日本人なんだよね。」

アキの声を聞いたリリはアキの方を振り返り、ゆっくりと微笑む。

「ええ、そうよ。長女は出雲だし、次男は日向、それで長男は私の故郷、安芸。気付かれなかったら、それはそれで悲しかったけど。」

《あ、あたいは気付いていたけどな、当たり前だろ!!》

<…???…>

アキは外野を無視して、聞きたかったことをリリに尋ねる。

「ばあちゃんは何年にこっちに来たの?」

「私?私はおそらく昭和20年かしら。最後にある記憶がそれで途切れているの。アキは?」

戦時中の人なんだ。アキは驚きながらもリリの質問に答える。

「僕はよくわかりません。平成28年だから、昭和でいうと92年以降だと思います。」

「どういうこと?」

アキは自分に起こったことを説明する。
旅行中に捕まり、拷問を受け、そして気が付いたらこの世界にいたこと。

「そう。大変だったわね。」

淡々と話すアキを抱きしめるリリ。出自はどうあれリリがアキを孫として大事に思っているのは変わらなかった。そしてアキも、

「ばあちゃんはの最後の記憶は?」

聞きにくいことを聞くアキ。デリケートなこと故聞くことを躊躇われたが、アキにとっての最後のピースがはまりそうな気がしていたからだ。

「私はね広島で女学生だったの。夏の暑い日だったのだけど、朝、学校に着いて友達をお話していて、気が付いたらこっちの世界だったわね。」

…原爆。アキの脳裏に浮かんでくるキノコ雲。アキの顔が真っ青になり、言葉を紡げない。
(おそらく、自分も…。)
確かにアキが、核実験で証拠ごと消された可能性は非常に高かったが、今、この状況となってはそれを確かめる手段は何も持ち合わせていなかった。

アキの態度がおかしくなっていたことに気付いたリリはそれ以上会話を続けようとはしなかった。
日が沈み、野営の準備を始めるまで2人は一言も発することは無かった。

「アキ、日本は戦争に勝ったの?」

ポツンとリリはアキに聞く。

「いえ、昭和20年の8月15日に負けました。」

「…………………………そう。あとちょっとだったのね。」

このリリの言葉の真意をアキが理解することはなかった。




2日後、アキたちが村を視界に収める。

「にいに~~~。ばあちゃ~~~ん。」

遠くから恐ろしい速度でこちらに向かってくる白い影。

「とうっ!!」

急ブレーキを掛け、アキに飛びついたのは、7歳になったイズモである。茶色いポニーテールと白黒のテールをブルンブルン揺らす彼女も年相応の少女に成長していた。
アキたちが村を出てからというものの、毎日日が沈むまで村の監視塔に登ってアキたちの帰りを待っていたのである。

「にいに、おみやげは?」

アキを下から見上げ、笑顔で聞いてくるイズモ。アキは心が締め付けられる想いにさらされる。

「ごめんな、イズモ。お土産は無いんだ。」

「ぶ~~。…でもこころがひろいイズモはそんなにいにをゆるしてあげるのです。かんしゃするのです。」

「ははっ。ありがとうな。イズモ。」

アキが頭を撫でると顔をアキのお腹にグリグリとしてくるイズモ。リリもアキもやっと帰って来たと頬が緩むのだった。

そんなやり取りをしていると、フヨフヨと色黒の物体が飛んでくる。
砂まみれになったヒュウガである。
背中には1対だった翼が2対になっている。この3年でヒュウガは再度、成長と進化を繰り返し、まだ体長も30cm弱に戻っている。

おそらく全力で駆けだしたイズモが巻き上げた砂煙をまともに浴びたのであろう。
アキの周りを飛び回りながら、体に付いた砂を後足でケシケシと器用に取り除いていた。

「ヒュウガもただいま」

ガウ!!

ヒュウガを頭に、イズモを荷車に乗せアキたちは村に到着する。
アキたちの姿を見つけると村人たちは喜びの声を上げる。それはアキたちの無事を喜び、長い行程を運び帰ってくれた感謝を告げるものでもあるが、全くといっていいほど娯楽がない村ではこうした品物が届くことは非常に貴重な娯楽だったのだ。

品物は一旦、村長の家に届けられ、それから各家に等分される。
アキらも村長に品物の確認をとってもらい、礼を受け家路に着く。

「リリざ~ん。お゛がえ゛りな゛ざ~い。」

家の玄関に手を掛けたところでナディアがリリにしがみ付く。鼻水の量がとんでもないことになっていた。

「な、何ですか。汚いわね。」

「ママのりょうりすごかったんだから。なんかね~ベロがヒリヒリした。」

イズモがアキたちに解説してくれる。
どうやら、アキたちが不在の間、ナディアの家の家事を一手に引き受けたのだが、早い段階で無理に達したらしい。

そもそも朝起きれないナディアが朝食の準備をできるはずもなく、狩りの頻度を多くしている以上、昼の準備もできるはずも無かった。

結局、初日から家事の一切を、イズモの友達である豚人族のオール一家にお世話になったらしい。それでもたった一度食べたナディアの料理はイズモとヒュウガの幼い心にくっきりと爪痕を残したらしいが。

「今まであなたに家事を教えてこなかったわたしのせいですね…。わかりました。今日から徹底的に家事を教え込むことにします。」

今まで涙、鼻水をダダ流しにしていたナディアの蛇口がキュッと締まる。

「えっ、いや、そういうことじゃなくてですね…」

やばい…。そうナディアの表情が語っていた。
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