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第3章 異世界レジスタンス
第10話 末路
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「それで何か申し開きはあるか?クリストよ。」
「私は全く心当たりのないことであります!!陛下!」
広大と表現すべき大広間の中央にレッドカーペットが敷かれ、その両端には貴族の装いをした男たちが並んでいた。そして男どもに囲われるかのように1人の男が問答を繰り返している。今回の事件の渦中にいる男クリスト=ライ=ホップス子爵である。
先日のキストーラ子爵への襲撃に連なる一連の騒動に対しての喚問が行われていた。喚問を行っているのはホップス子爵をクリストと呼び、大広間に集まる一同よりも数段高い玉座に座る壮年の男性、エドガー=カイ=ネスジーナ、ネスジーナ王国の国王である。
玉座に肘を掛け、国王は続ける。
「ふむ、では全て今回の騒動はお主の申す陰謀であると申すのであるな?」
「左様です。私には一切の非のなきこと。」
自分の言い分が聞き入れたことに安堵するクリスト。しかし、国王は隣に立つ宰相から一枚の羊皮紙を受け取る。
「だが、クリスト。キストーラ子爵領への攻撃に用いられた、鎧、剣、旗そして白紙の羊皮紙を封蝋した紋章。これらを紋章院に確認してもらったが、全て本物ということだったのだが、これはどういうことだ。」
「陛下。すべて強盗に盗まれた次第です。これに関しては領内の警備が薄く、賊に付け込まれたこと不徳の致すところ。今後より一層の改善を以って王国に尽くす所存。」
「しかしな、今回の件は監査官を使って十分に捜査している。子爵邸に騎士の人数分の鎧に剣、執務室に紋章印が盗まれずにあったことを監査官が報告している。」
「陛下。それも全てこの私を陥れる陰謀かと。」
ここで、クリストがパウエルに命じてラウ村襲撃での行方不明の騎士を除名したことが凶と出る。襲撃時、全ての装備品が子爵邸には揃っていたのだ。
アゴに手を当て何かを考える仕草をする国王。
「クリストよ。今回の事件であるが、被害がお主の屋敷以外では、一切でておらぬ。お主何か恨みでもかったのか?そうであればまた話は変わってくる。」
王は言葉を続ける。
「それに、お主は陰謀というが今回の事件一切の目撃者がおらぬ。これではお主の言い分を信じろと言うのはいささか無理というものだ。」
今回、表立って行動したタロアらは全て騎士の格好をして行動している。目撃者がいたとしてもタロアらが犯人だとは誰も気が付いていなかったのだ。
「そう云えば襲撃の数日前、領内の商会も襲撃に遭っております。同じ犯人の可能性もあるかと」
「ほう。ではその商会の店主を召喚せよ。」
「い、いえ、そ、それが…」
「何だ。どうした?」
「既に死んでおります。」
================================================
アキら強盗団らを追跡するため騎士団が出発した夕方、閉まりかけた城門を叩く男がいた。
ギルノート商会会長ブルドである。
「旦那様。ブルド様が面会を希望されております。」
強盗団に資産を根こそぎ奪われたばかりのクリスト。怒りのみが彼を動かしていた。そんな彼に家令であるアルフレッドは臆する事無く報告を伝える。
「あの豚かっ!!今はそれどころではないわ!!」
「いえ。それが今回の襲撃犯に心当たりがあると。」
「何ぃ!?直ぐに連れて来い!!」
クリストに言われ、ブルドは執務室に通される。しかしアキに置いてきぼりにされ、草原から歩いて帰って来たブルドの洋服はボロボロで、土や泥で汚れまるで浮浪者の装いであった。汚いものを見るかのようにクリストは視線をブルドに向ける。
「それで、何があった?」
ブルドは事のあらましをクリストに伝える。
「つまり、貴様が賊に情報を流したのかっ!!」
クリストはブルドの話を聞いているうちに、謎がようやく解けた。なぜ寝室と執務室、金庫室しか襲われなかったのか。なぜ金庫の鍵の場所がわかったのか。全てこいつだ!こいつが情報を流したからだ。こうなってしまってはクリストに冷静という感情は存在していなかった。
「子爵様。大変申し訳「黙れぇえええ!!!」」
「今すぐ!!このクズを!!死刑にしろ!!!」
「そ、そんな…」
部屋に入っていた騎士らに取り押さえられ、処刑場に連行されるブルド。
ブルドは斬首させるまでひたすらクリストに慈悲を乞い続けていたという。
=======================================================
「ほう。すでにこの世におらぬと。」
クリストからことの概要を聞く王。
「はっ。申し訳ございません。」
クリストもここで漸く事態を理解する。自身の潔白を訴え続ければ問題ないと思い臨んだ今回の謁見。全ての証拠が自分に不利なように用意されていると。
ここで2人の問答に割り込むものがいた。
東部の雄、オレグ=サン=アストラッド公爵である。
「陛下。今回の事件、数名の死者も出ております。ましてや子爵殿は今季どころか来季さえも税の支払いの見通しが立たないとのこと。誰かが責任を取らねばならぬかと。」
アストラッド公爵はクリストが所属する派閥と対立する派閥の長。ここで敵対派閥の勢力を削りたいという思惑は皆が理解できた。
「うむ。他に道もないな。「陛下!!お待ち…」」
王の言葉を遮ろうとしたクリストを手で制する王。
「クリスト。お主の長年の忠勤に免じてホップス家の取潰しは無しとする。しかし、お主には今回の責任をとってもらう。連れていけ。」
「陛下!!!」
控えていた衛兵に脇を抱えられ連行されるクリスト、大声で王の名を呼び続ける姿はブルドとそっくりであったという。
クリストに処せられる刑は極刑。
税金の未納という行為であるが、ここで罰則を軽くすると諸侯に王が舐められる。ましてや今回は死亡した騎士の親族からも苦情が多く寄せられており、王としても苦渋の決断となった。
謁見が終わり玉座を立つ王。それを諸侯が見送ると王に近寄る影があった。
「それで賊の足取りは掴めたか?」
「いえ、盗品を川まで運びそこから輸送したことまでは掴めましたが、捜査範囲が膨大で。恐らく痕跡も残っていないでしょう。」
答えるのは王の子飼いである諜報部隊の1人である。
「そうか。クリストのことは残念だ。かの父親には戦場で幾度も助けられたのだがな。」
「陛下…」
「いや、わかった。下がってくれ」
闇に姿を消す影。王は寂し気に廊下に足音を残していった。
「私は全く心当たりのないことであります!!陛下!」
広大と表現すべき大広間の中央にレッドカーペットが敷かれ、その両端には貴族の装いをした男たちが並んでいた。そして男どもに囲われるかのように1人の男が問答を繰り返している。今回の事件の渦中にいる男クリスト=ライ=ホップス子爵である。
先日のキストーラ子爵への襲撃に連なる一連の騒動に対しての喚問が行われていた。喚問を行っているのはホップス子爵をクリストと呼び、大広間に集まる一同よりも数段高い玉座に座る壮年の男性、エドガー=カイ=ネスジーナ、ネスジーナ王国の国王である。
玉座に肘を掛け、国王は続ける。
「ふむ、では全て今回の騒動はお主の申す陰謀であると申すのであるな?」
「左様です。私には一切の非のなきこと。」
自分の言い分が聞き入れたことに安堵するクリスト。しかし、国王は隣に立つ宰相から一枚の羊皮紙を受け取る。
「だが、クリスト。キストーラ子爵領への攻撃に用いられた、鎧、剣、旗そして白紙の羊皮紙を封蝋した紋章。これらを紋章院に確認してもらったが、全て本物ということだったのだが、これはどういうことだ。」
「陛下。すべて強盗に盗まれた次第です。これに関しては領内の警備が薄く、賊に付け込まれたこと不徳の致すところ。今後より一層の改善を以って王国に尽くす所存。」
「しかしな、今回の件は監査官を使って十分に捜査している。子爵邸に騎士の人数分の鎧に剣、執務室に紋章印が盗まれずにあったことを監査官が報告している。」
「陛下。それも全てこの私を陥れる陰謀かと。」
ここで、クリストがパウエルに命じてラウ村襲撃での行方不明の騎士を除名したことが凶と出る。襲撃時、全ての装備品が子爵邸には揃っていたのだ。
アゴに手を当て何かを考える仕草をする国王。
「クリストよ。今回の事件であるが、被害がお主の屋敷以外では、一切でておらぬ。お主何か恨みでもかったのか?そうであればまた話は変わってくる。」
王は言葉を続ける。
「それに、お主は陰謀というが今回の事件一切の目撃者がおらぬ。これではお主の言い分を信じろと言うのはいささか無理というものだ。」
今回、表立って行動したタロアらは全て騎士の格好をして行動している。目撃者がいたとしてもタロアらが犯人だとは誰も気が付いていなかったのだ。
「そう云えば襲撃の数日前、領内の商会も襲撃に遭っております。同じ犯人の可能性もあるかと」
「ほう。ではその商会の店主を召喚せよ。」
「い、いえ、そ、それが…」
「何だ。どうした?」
「既に死んでおります。」
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アキら強盗団らを追跡するため騎士団が出発した夕方、閉まりかけた城門を叩く男がいた。
ギルノート商会会長ブルドである。
「旦那様。ブルド様が面会を希望されております。」
強盗団に資産を根こそぎ奪われたばかりのクリスト。怒りのみが彼を動かしていた。そんな彼に家令であるアルフレッドは臆する事無く報告を伝える。
「あの豚かっ!!今はそれどころではないわ!!」
「いえ。それが今回の襲撃犯に心当たりがあると。」
「何ぃ!?直ぐに連れて来い!!」
クリストに言われ、ブルドは執務室に通される。しかしアキに置いてきぼりにされ、草原から歩いて帰って来たブルドの洋服はボロボロで、土や泥で汚れまるで浮浪者の装いであった。汚いものを見るかのようにクリストは視線をブルドに向ける。
「それで、何があった?」
ブルドは事のあらましをクリストに伝える。
「つまり、貴様が賊に情報を流したのかっ!!」
クリストはブルドの話を聞いているうちに、謎がようやく解けた。なぜ寝室と執務室、金庫室しか襲われなかったのか。なぜ金庫の鍵の場所がわかったのか。全てこいつだ!こいつが情報を流したからだ。こうなってしまってはクリストに冷静という感情は存在していなかった。
「子爵様。大変申し訳「黙れぇえええ!!!」」
「今すぐ!!このクズを!!死刑にしろ!!!」
「そ、そんな…」
部屋に入っていた騎士らに取り押さえられ、処刑場に連行されるブルド。
ブルドは斬首させるまでひたすらクリストに慈悲を乞い続けていたという。
=======================================================
「ほう。すでにこの世におらぬと。」
クリストからことの概要を聞く王。
「はっ。申し訳ございません。」
クリストもここで漸く事態を理解する。自身の潔白を訴え続ければ問題ないと思い臨んだ今回の謁見。全ての証拠が自分に不利なように用意されていると。
ここで2人の問答に割り込むものがいた。
東部の雄、オレグ=サン=アストラッド公爵である。
「陛下。今回の事件、数名の死者も出ております。ましてや子爵殿は今季どころか来季さえも税の支払いの見通しが立たないとのこと。誰かが責任を取らねばならぬかと。」
アストラッド公爵はクリストが所属する派閥と対立する派閥の長。ここで敵対派閥の勢力を削りたいという思惑は皆が理解できた。
「うむ。他に道もないな。「陛下!!お待ち…」」
王の言葉を遮ろうとしたクリストを手で制する王。
「クリスト。お主の長年の忠勤に免じてホップス家の取潰しは無しとする。しかし、お主には今回の責任をとってもらう。連れていけ。」
「陛下!!!」
控えていた衛兵に脇を抱えられ連行されるクリスト、大声で王の名を呼び続ける姿はブルドとそっくりであったという。
クリストに処せられる刑は極刑。
税金の未納という行為であるが、ここで罰則を軽くすると諸侯に王が舐められる。ましてや今回は死亡した騎士の親族からも苦情が多く寄せられており、王としても苦渋の決断となった。
謁見が終わり玉座を立つ王。それを諸侯が見送ると王に近寄る影があった。
「それで賊の足取りは掴めたか?」
「いえ、盗品を川まで運びそこから輸送したことまでは掴めましたが、捜査範囲が膨大で。恐らく痕跡も残っていないでしょう。」
答えるのは王の子飼いである諜報部隊の1人である。
「そうか。クリストのことは残念だ。かの父親には戦場で幾度も助けられたのだがな。」
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