俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第4章 異世界開拓史

第7話 商人ギルド(表)

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「なんだ、京の都にそっくりじゃないか。」

ヘストラーザの街並みは詩にとって前世の京都を思い出させるほど寂れていた。官史の不正に鎮座する浮浪者、大通りだけ栄えた外観。見ていると気分が悪くなるものばかりがヘストラーザには集約されている。

ヘストラーザへの入城は時間こそかかったものの、スムーズなものであった。衛兵に金貨1枚を手渡すと、顔を汚く歪ませて簡単な手荷物検査だけで終わった。
街並みを酷評する詩と共に真っすぐ商人ギルドを目指す。

馬車の速度に気を付けながら大通りを進むと3階建ての石造りの建物が視界を占拠する。それほどまでに大きかった。数十台の馬車を停めることができる駐車場に、人の出入りが頻繁な併設された倉庫、そしてその2つに相応しいだろうと言わんばかりに数百坪の土地の上で座り込む商人ギルドの店舗。ヘストラーザが商人のたまり場と言われる所以だ。

ヘストラーザ近郊は魔素の濃度が少ない。そのため西に大森林があるものの魔物による被害がさほどない。つまり商人は多少大回りをしてでもヘストラーザ経由で行商をすることで輸送の際の危険を減らしていたという歴史の背景がこのギルドをここまで大きくしたと言える。

「次の方、どうぞ~」

商人ギルドは荷物の積み下ろしのロスを避けるため、入り口とは別に外に馬車で乗り入れることができる受付がある。
その受付に並び順番待ちをしていたアキたちを若い女の声が呼び寄せる。

「あら、君たち随分若いのね。大人の方は?」

来るもの拒まずの精神のギルドではあるが、少年少女がギルドに来ることなど初めてであった。20歳ほどのこの受付嬢が保護者の姿を探すのは至極当然である。

「いえ、俺たちだけです。」

どうしましょう。とばかりに手を頬に添え思案に暮れる受付嬢。
「今日は買い取りをしてもらいに来ました。」

嬢が困っていることを察してはいたもののアキはそのまま続ける。
丁寧な言い回しが嬢を子守から受付へと変えた。

「そ、そう。それで何を売っていただけるのかな?」

子ども扱いはそのままであったが、嬢の視線は馬車の荷台に移る。

「食糧と調味料です。」

「具体的には?」

「小麦粉と塩、砂糖です。」

「塩!!砂糖!!」

嬢が口の小ささに似合わない大声を出す。直ぐに自分の声に驚き口を手で覆うが、突然の大声で騒がしかった周囲が静まり返る。

ある程度の混乱は予想していたものの想像以上の反応にアキも内心で頭を抱えていた。

「すみません。少々お待ちください。」

急に敬語に切り替わった嬢はアキらの返事も待たぬまま、受付の奥へと消えていった。
待ちぼうけを食うかなと思っていると直ぐに嬢は50歳くらいの口ひげを蓄えた上司らしきおじさんを伴って現れた。

「別室でお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

嬢の言葉で、馬車を詩に任せるとギルドの内部に入り2階にある応接間に案内された。

「ヘストラーザで商人ギルドの支部長をしているバトランゼという。」

「初めまして。アキと言います。」

応接間に入るなり嬢が部屋を出ると、支部長を名乗る男は椅子に腰を下ろし勝手に自己紹介を始め出した。
始めからまともな対応をしてもらえるとは流石にアキも思っておらず、バトランゼの対面に座ると自分の名を名乗った。

「で、砂糖と塩だったな?どこで手に入れた?」

「内緒です。」

聞かれるだろうなぁとは当然思っていた。

「ふざけるな!!さっさと話せ!!」

いきなり立ち上がり声を張り上げ始めるバトランゼ。相手が子供だからであろう、自分が舐められていると思ったのだ。

「ま、待て!!どこに行く!?」

バトランゼが声を荒げた時点でアキは席を立ち出入り口の扉へ向かっていた。目の前の子供の行動に戸惑いを隠しきれないでいた。

「帰ろうかと」

「なにぃ?」

「いえ、買ってくれると思ったので付いてきましたが、怒られ始めたので帰ろうかと」

そう告げると扉に手を掛けていた。

「いいのか!?このわたしに逆らうとこの街で取引など出来はしないぞ!!」

「………」

バトランゼは何とか主導権を握ろうと今度は脅しを掛けていく。しかし子供が歩を止める様子はない。既に廊下に出て、扉は音を立てて閉じる寸前であった。

バタン。

廊下を進むアキの背後で扉が閉まる音がする。



「わかった!!わかったから部屋に戻れ!!」

後ろで扉が開く音と共にバトランゼの呼ぶ声が聞こえる。
勝った。アキが心の中で呟いたこの一言がバトランゼに向けられた銃の撃鉄を起こす音になった。



「それで、それぞれどのくらいの量がある!?」

「小麦が麻袋で20、塩が5、砂糖が5。」

麻袋はこの世界で食糧を入れて運ぶ主流のものであり、1袋で約20kgの重さがある。つまり、小麦400kgに塩と砂糖が100kgである。
バトランゼは喜びに打ちひしがれていた。

何せ今ネスジーナ王国は全土で食糧難である。
力のある商人や貴族はこぞって食糧を買い集めていた。
1日毎に値上がりする小麦。
さらに計り知れないほどの価値もある塩と砂糖をただのガキが買って欲しいと訪ねてきたのだ。
小麦こそ大した量は無いが、塩と砂糖に関しては5袋だ。1財産築くことができる。
バトランゼは購入した後の遣い道ばかり考えていた。

「それでいくらで買ってもらえるんですか?」

端を発したのはバトランゼが馬鹿にして眼中に無かったガキからであった。
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