俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第4章 異世界開拓史

第8話 商人ギルド(裏)

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「小麦1袋を銀貨1枚、塩を銀貨3枚、砂糖を銀貨5枚でどうだ?」

ヘストラーザの商人ギルド支部長であるバトランゼは強気な姿勢と上からの目線を崩さない。

「ありえないですね。失礼します。」

一言で席を立つアキ。
バトランゼは直ぐにその背中を振り向かせようとする。

「わかった!!では2倍だ!小麦1袋を銀貨2枚、塩を銀貨6枚、砂糖を銀貨10枚だ!これで文句はないだろう?」

目の前にいるのはただの子供。今提示している額でもこの子供には過ぎた小遣いだ。その思惑から抜け出せない。自分がその子供の顔色を窺い、なんとか取引を成立させようとしている事実にまだ気付けていないのだ。

「…本気で言っているんですか?」

背を向けたままその子供は確認をしてくる。
やった!!上手く売却させられる!バトランゼの勘違いが炸裂する。

「ああ!もちろんだ。先輩からの投資であると思ってくれ」

「やはり失礼します。」

アキが扉に手を掛ける。

「わかった!じゃあいくらなら売るんだ!!」

その言葉でアキは歩を戻し、ゆっくりと椅子に腰かける。

「小麦1袋銀貨6枚、塩を銀貨100枚、砂糖を銀貨1000枚」

「なっ!!?それは『小売り価格ですよね?』」

冗談だろうと言いかけたバトランゼの言葉を遮り、アキは言葉を打ち出す。

「この価格が最低売却価格です。もっと高い値が付くのを知らないとでも?」

真っすぐバトランゼの目を見据える子供の目。
支部長は萎縮し始めていた。

「しかしだな…。その値段で売るとこちらの儲けがほとんど…」

「小麦8枚、塩110枚、砂糖1050枚」

子供の目がより一層鋭くなる。

「ふ、ふざけるなよ!!そ、そんな値段で買う商人がいるとでも『思ってますよ?』」

「支部長さん、最初に俺にした質問を忘れたんですか?{砂糖と塩だったな?どこで手に入れた?}でしたっけ?つまり俺はあなたが欲しがっている砂糖と塩の情報と販路を握っている。多少損をしても今のこの王国の状況で欲しくない商人がいるはずないでしょ!?」

ネスジーナ王国は塩の供給を帝国に頼り切っている。万が一帝国と本格的な戦争が開始されたら王国は死力を尽くしてでも戦争に勝たねばならない。
非常に微妙な外交バランスの上で今の王国は成り立っている。
そこに別の販路が生まれれば、王国としては一気に帝国への姿勢を変換することができるのだ。

さらに砂糖は北の教国から訪れる商人がまれに持参してくる程度のもので一部の王侯貴族のみが口にできる贅沢品である。ただでさえ娯楽が少ないこの国で、食を楽しむということは一種のステータスとなりつつあった。

バトランゼも当然そのことは知っていた。
知っていたからこそ、ここにいる少年を上手く操作し自分の王国内での地位を上げようと画策したのだ。そして今、それが完全に裏目に出てしまった。

「ぐぬぅ、、、わ、わかった。小麦8枚、塩110枚、砂糖1050枚だな。」

下唇を血が出らんばかりに強く噛み口惜しさを滲ませるバトランゼ。だがまだ彼の安息は訪れない。

「いえ、小麦10枚、塩120枚、砂糖1100枚です。」

「さっ、さっきと値段が違うぞ!!馬鹿にしているのかっ!!!」

椅子から立ち上がり怒りをあらわにし始める。しかし全くそれに動じることもなく幼い商人は笑みを浮かべた。

「足元をみたんですよ。先輩を見習って。後輩への投資と思って下さい。」

バトランゼは体中を巡っていた煮えたぎった血液が一気に冷えるのを感じた。
こいつはただのガキじゃない…。化け物だ…。

「………商品を確認後、金を渡す。担当は副支部長のビリーにさせる。…いいか?」

「はい。毎度あり!」

作り笑顔の小さな悪魔が部屋を出ていくと、当初とは打って変わって覇気をなくしたバトランゼがゆっくりとお茶をすすっていた。


==========================================================

支部長との商談を終えた後、駐車場にて詩と合流すると、ギルド内から30歳ほどの長身の男が数人の職員らしき人を連れて近づいて来た。

「副支部長のビリーです。早速中身の確認をさせていただきますね。」

長い髪を後ろで結っている爽やかなルックスの男は挨拶を簡単に切り上げると、部下の職員に指示を出す。
黙々と荷物を降ろし始める職員たち。

「ビリーさん!!これ、塩と砂糖なんですか?」

中身を確認するために袋を開けた1人の男性職員がビリーを呼びつける。
ビリーの視線は直ぐにアキへと向けられた。

「正真正銘の塩と砂糖ですよ。舐めてみてください。」

ビリーはその言葉で袋に近づくと、塩と砂糖をそれぞれひと摘みし、舐め目を見開いた。

「!!!旨い…。」

「本物だろ!?」

ずっと黙っていた少女が口を開く。ビリーたちを小馬鹿にするような小さな笑みと共に。

「…ギルドの職員としては言うべきではないのかもしれませんが、いいのですか?この砂糖と塩はもっと高い額で取引できる一品ですよ?」

ビリーの商人とも思えない言葉に周りの職員は正気を疑うような視線を上司であるビリーに向ける。

「いいんですよ。今回は市場調査も兼ねていますし。お勉強です。」

年相応の声で勉強と語る少年をビリーも不気味に感じた。

「そう…ですか。分かりました。では料金を支払いますので屋内までどうぞ…」

周りの職員に目配せをし、全て本物であると確認し終えるビリーはこのいびつな2人組を屋内へ案内する。

後ろに追従するただの子供が恐ろしくて仕方なかったとビリーはその日同僚に愚痴っていた。
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