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第4章 異世界開拓史
第9話 ゴロリアの兄弟弟子
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(ブルドさんですか?)
(おう!!儂の兄弟弟子だ!!ちょっとばかり金に汚ねえが腕は確かだ。借金のせいでヘストラーザの奴隷商にいると聞いたがな。)
「…という訳なんです。」
鉄格子の向こうで胡坐をかき腕組みをしながらアキの睨み付ける男。ドワーフ族でありながら身長は2m超、二の腕などはアキの頭ほどはあろうかという太さである。
「………」
「あの…、何か言ってくれませんか?」
商人ギルドでの取引を終えたアキと詩は宿を借りるとそのままヘストラーザの奴隷商を訪れた。目的は今目の前に座るゴロリアの兄弟弟子であるというブルドをクルト村に勧誘することであった。そもそもヘストラーザへ来た一番の理由ですらあった。
「………」
だがブルドは目の下に深いクマを備えた目でアキを睨んだまま一言も発さない。黒ずんだ髭が顔全体を覆い目だけが光を放つことでその迫力を一層強力なものとしていた。
「え、えっと…」
「………」
目は口ほどにものを言うというがあれは嘘だな。とアキが思っていたりすると詩がしびれをきらす。
「あ~~~~!!なんなんだよっ!このおっさん!死んでんじゃねえか?」
鉄格子に掴みかかりガシャガシャと揺らす詩。ブルドの体がビクッと揺れたのをアキは見逃さなかった。
「ひょっとしてブルドさん、詩が怖いんですか?」
「はあ!?何言ってんだ?」
詩が無表情で振り返る。正直かなり怖い。歳が幼い分、ホラー映画にでてきそうな迫力がある。辺りが暗い分、余計である。
こくり、詩の背中ごしにブルドは素早く頷く。詩の視線が外れている隙をずっと窺っていたのであろう。
「詩…、ちょっと席外してて。」
「おいっ!!なんでこの清廉で無垢なアタイが怖がられないといけないんだよ!!」
渋い顔をしつつもアキは従業員を呼ぶ。まだブーブーと文句を垂れる詩を引き取ってもらうためだ。
「ちょお!こらっ!離せっ!」
店の表から姿を現したガチムチな男衆に詩が両脇を抱えられる。本来であればこれほどの男たちであっても詩が捕らえられることなどないのだが、ある程度空気を読めるようになってきた詩はある程度もがいた後、なんだかんだあって店の接客室へと連れて行かれた。
10歳程度の体重と身長の詩である。連れて行かれる後ろ姿はアメリカで宇宙人が捕らえられた写真を想像させ、それがまた笑いを誘った。
「ぷぷっ」
<…ざまぁ…>
「てめぇ!アキ!後で覚えてろよっ!!」
捨て台詞まで完璧である。
「さてブルドさん、よろしいでしょうか?」
「ああ。申し訳ねえ。どうも俺はオンナってやつが苦手で…。」
頬をポリポリ掻きながら喋り始めるブルド。話し始めてみると何の変哲もないおじさんだった。ただ首筋に髭がぴったりとくっついていた。おそらく相当量の汗をかいたのであろう。
「それで村の開発を手伝ってほしいってことだったな?」
「はい。借金を肩代わりする形ですので、ある程度の期間は無償で働いてもらいますが、衣食住は保障します。借金返済後は自由にしていただいて構いません。細かい内容を詰めましょうか?」
つらつらと年齢に似合わぬことを並び立てる10歳児。ブルドはそれが酷く不気味だった。条件としては悪くない、むしろ好条件ですらある。普段使わない頭をフル回転させる。
「あ、あとゴロリアさんから伝言があります。{サンバ師匠の夢を儂は叶えられそうだ!ぶっわはっはは!}とのことです。」
笑い声まで忠実に再現してみせる。
ガッシャン。
今まで胡坐のままだった体勢を崩し、ブルドは鉄格子に掴みかかる。
「本当だろうな!?今の話!!」
「はっはい。笑い声もこんな感じでしたよ。」
驚いた様子のアキに構わずブルドは襲い掛かりそうな勢いを崩さない。
「頼む。連れて行ってくれ!!お願いだ!!」
サンバ師匠の夢。今までの悩みを吹き飛ばすには十分過ぎる程の餌というべきであろうか。ブルドやゴロリアにとってはそれほどに重みのある言葉なのだ。
ブルドの迫力がそれを物語っておりアキはコクコクと頷くことしかできなかった。
「やっぱりシャバの空気は美味しいのぉ~」
腰の曲がり切った老人が沈み始めた夕日を見ながら深呼吸をしている。生い茂った眉毛と口ひげで目と口の様子を見ることは出来ないが、笑みを浮かべていることは言葉の柔らかさから判る。
「この爺さんも一緒に出してやってくんねえか?」
ブルドの解放の手続きを行っていると、当の本人から隣の房の老人の解放もアキはお願いされた。何でも仲の良い賭博仲間らしく、一緒の賭場で一緒に負けて借金奴隷になったらしく変な縁を感じているらしい。
奴隷商人も老い先の短い老人の身請け先が見つかるとは思っていなかったらしく、借金の返済代金と掛かった経費を合わせた金額に足を付けたほどの値段で老人を売ってくれた。
2人合わせて白金貨30枚。決して安い買い物では無かったが、元手がほとんど0であることを考えれば痛手とはならなかった。
それよりもむしろ重大な問題があったのだ。
「どうせ、アタイは邪魔者ですよ~」
ブス~と唇を尖らせていじけている詩である。詩を待合室に迎えに行った時からジト目でアキを睨み、黒いオーラを発しながらゆっくりと後ろを付いてきている。ブルドは恐怖からその大きな体を器用に縮ませている。
非がこちらにある以上、弁解のしようもない。
結局翌朝まで針のムシロに刺された後、詩の言うことをなんでも聞くという恐ろしい条件を呑まされるまでアキの心が休まることはなかった。
(おう!!儂の兄弟弟子だ!!ちょっとばかり金に汚ねえが腕は確かだ。借金のせいでヘストラーザの奴隷商にいると聞いたがな。)
「…という訳なんです。」
鉄格子の向こうで胡坐をかき腕組みをしながらアキの睨み付ける男。ドワーフ族でありながら身長は2m超、二の腕などはアキの頭ほどはあろうかという太さである。
「………」
「あの…、何か言ってくれませんか?」
商人ギルドでの取引を終えたアキと詩は宿を借りるとそのままヘストラーザの奴隷商を訪れた。目的は今目の前に座るゴロリアの兄弟弟子であるというブルドをクルト村に勧誘することであった。そもそもヘストラーザへ来た一番の理由ですらあった。
「………」
だがブルドは目の下に深いクマを備えた目でアキを睨んだまま一言も発さない。黒ずんだ髭が顔全体を覆い目だけが光を放つことでその迫力を一層強力なものとしていた。
「え、えっと…」
「………」
目は口ほどにものを言うというがあれは嘘だな。とアキが思っていたりすると詩がしびれをきらす。
「あ~~~~!!なんなんだよっ!このおっさん!死んでんじゃねえか?」
鉄格子に掴みかかりガシャガシャと揺らす詩。ブルドの体がビクッと揺れたのをアキは見逃さなかった。
「ひょっとしてブルドさん、詩が怖いんですか?」
「はあ!?何言ってんだ?」
詩が無表情で振り返る。正直かなり怖い。歳が幼い分、ホラー映画にでてきそうな迫力がある。辺りが暗い分、余計である。
こくり、詩の背中ごしにブルドは素早く頷く。詩の視線が外れている隙をずっと窺っていたのであろう。
「詩…、ちょっと席外してて。」
「おいっ!!なんでこの清廉で無垢なアタイが怖がられないといけないんだよ!!」
渋い顔をしつつもアキは従業員を呼ぶ。まだブーブーと文句を垂れる詩を引き取ってもらうためだ。
「ちょお!こらっ!離せっ!」
店の表から姿を現したガチムチな男衆に詩が両脇を抱えられる。本来であればこれほどの男たちであっても詩が捕らえられることなどないのだが、ある程度空気を読めるようになってきた詩はある程度もがいた後、なんだかんだあって店の接客室へと連れて行かれた。
10歳程度の体重と身長の詩である。連れて行かれる後ろ姿はアメリカで宇宙人が捕らえられた写真を想像させ、それがまた笑いを誘った。
「ぷぷっ」
<…ざまぁ…>
「てめぇ!アキ!後で覚えてろよっ!!」
捨て台詞まで完璧である。
「さてブルドさん、よろしいでしょうか?」
「ああ。申し訳ねえ。どうも俺はオンナってやつが苦手で…。」
頬をポリポリ掻きながら喋り始めるブルド。話し始めてみると何の変哲もないおじさんだった。ただ首筋に髭がぴったりとくっついていた。おそらく相当量の汗をかいたのであろう。
「それで村の開発を手伝ってほしいってことだったな?」
「はい。借金を肩代わりする形ですので、ある程度の期間は無償で働いてもらいますが、衣食住は保障します。借金返済後は自由にしていただいて構いません。細かい内容を詰めましょうか?」
つらつらと年齢に似合わぬことを並び立てる10歳児。ブルドはそれが酷く不気味だった。条件としては悪くない、むしろ好条件ですらある。普段使わない頭をフル回転させる。
「あ、あとゴロリアさんから伝言があります。{サンバ師匠の夢を儂は叶えられそうだ!ぶっわはっはは!}とのことです。」
笑い声まで忠実に再現してみせる。
ガッシャン。
今まで胡坐のままだった体勢を崩し、ブルドは鉄格子に掴みかかる。
「本当だろうな!?今の話!!」
「はっはい。笑い声もこんな感じでしたよ。」
驚いた様子のアキに構わずブルドは襲い掛かりそうな勢いを崩さない。
「頼む。連れて行ってくれ!!お願いだ!!」
サンバ師匠の夢。今までの悩みを吹き飛ばすには十分過ぎる程の餌というべきであろうか。ブルドやゴロリアにとってはそれほどに重みのある言葉なのだ。
ブルドの迫力がそれを物語っておりアキはコクコクと頷くことしかできなかった。
「やっぱりシャバの空気は美味しいのぉ~」
腰の曲がり切った老人が沈み始めた夕日を見ながら深呼吸をしている。生い茂った眉毛と口ひげで目と口の様子を見ることは出来ないが、笑みを浮かべていることは言葉の柔らかさから判る。
「この爺さんも一緒に出してやってくんねえか?」
ブルドの解放の手続きを行っていると、当の本人から隣の房の老人の解放もアキはお願いされた。何でも仲の良い賭博仲間らしく、一緒の賭場で一緒に負けて借金奴隷になったらしく変な縁を感じているらしい。
奴隷商人も老い先の短い老人の身請け先が見つかるとは思っていなかったらしく、借金の返済代金と掛かった経費を合わせた金額に足を付けたほどの値段で老人を売ってくれた。
2人合わせて白金貨30枚。決して安い買い物では無かったが、元手がほとんど0であることを考えれば痛手とはならなかった。
それよりもむしろ重大な問題があったのだ。
「どうせ、アタイは邪魔者ですよ~」
ブス~と唇を尖らせていじけている詩である。詩を待合室に迎えに行った時からジト目でアキを睨み、黒いオーラを発しながらゆっくりと後ろを付いてきている。ブルドは恐怖からその大きな体を器用に縮ませている。
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