俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第4章 異世界開拓史

第6話 ヘストラーザ

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クルト村より東を目指して大森林を移動する一団があった。
数にして20名ほど。器用に馬を引く者もいれば、大きな荷物を背負った子供の姿もある。
クルト村の探索班によってクルト村周辺と大森林の一部の地図が完成していた。

その地図に従い一団は直線距離ではなく、魔物の生息域を避けるためジグザグに進路をとっていた。

クルト村を出て3日目。
一行は旧ラウ村に到着する。村には、新しい入植者がいる様子もなく、放棄した時と変わらない状態のままであった。ラウ村出身者が多い一団には酷な光景であったが、移動するための準備を整える場所としては勝手をしる場所が都合よかったのである。

一団は持参した部品を組み立て始めるとものの一時間ほどで中型の馬車を作製し終えると、荷物を載せ北へと移動を開始し始めていた。

「にいに。うわきしちゃだめだからね。」

「………」

一団は旧ラウ村から2日ほど北上したところで2手に分かれる。獣人族の班と2人の人族の子供の班だ。人族の男の子は(誰がこんな言葉教えているんだ)などと疑問を抱えながらも馬車を御しながら、隣に座る女の子と言葉を交わしていた。

「しっかし体が手に入ったものの、ゲームは出来ねえのはキツイな。ディラの奴とも話せねえし。この体の本当の持ち主には申し訳ないけどよ。」

退屈そうに語る詩にディラが反応する。アキの脳内で詩がいなくなってから、暇を持て余しひたすらゲームに興じていたのだ。

<…ゲームの次っ…>

「ディラ怒ってるよ、詩。ゲームと同じ扱いされたって。」

脳内で怒りのボルテージを高めるディラ。その雰囲気を感じ取ったことを伝える。
「ははは。あいつまだスターカップクリア出来ねえんだぜ。せめてクリア出来るようになってから文句言ってくれよ!」

<…ぐぬぅ、覚えていろ…>

国民的ゴーカートゲームが2人のお気に入りであったが、結局詩に一度も勝つことが出来ずに終わったことをディラは根に持っていた。

「それで、何しに行くんだ?こんな大量の食糧持ってよ。銭が必要な訳じゃねえだろ?」

「いいや。必要だよ。まだ戦争は終わってないんだから。」

東に向かってゆっくりと進む馬車の御者席に座る2人の後ろの荷台には村で取れた大量の収穫物が載っている。村から皆で分担して運んだものであるが、そのほとんどが剛腕な獣人族であったため1人が運ぶ量が大量となり、荷台は積載量の限界であった。
馬車を牽く2頭の馬も鼻息を荒げて歩を進めていた。

「アキ、アンタ……」

胸の奥がザワリとし、心配そうな視線を詩は隣に座る少年に向ける。
視線に気付いたアキはそれに含まれた意図を感じ取ると、口角を上げる。

「心配しないでよ。何も復讐を続けようって訳じゃないんだ。じゃないと母さんも送り出してくれなかっただろうし。ただ、このままクルト村に引きこもっていても村のためにならないからね。」

アキの思惑を理解した訳ではないが、そう語る表情を見ても以前のような重苦しさを感じなかった詩はその心を落ち着かせた。


=========================================

アキたちを乗せた馬車は車輪の軋む鈍い音を立てながらキストーラ子爵領、領都ヘストラーザへと到着する。

一辺が5、6kmはあろうかと思われる城壁に囲まれた四角形の都市。かつて侵入したホストラよりも高い城壁の高さは15mはある。使用されている石材も大型の石を使っているようで外観だけでもヘストラーザの豊かさはホストラよりも上であると判断するのは容易だった。

しかし、建築した当時の豊かさが今までに引き継がれているとは限らない。

城壁の周りには曲がった枝を組み合わせて作ったであろうボロイ小屋がいくつも壁に寄り添うように並んでいる。時折、小屋から外に出てくる人は貧乏な獣人族ではなく人族。これだけでこの都市の景気の状態を窺い知れた。

アキらが入場門で検閲を待つ人の列に並ぶ。
傍から見ればわずか10歳足らずの男女が馬車に荷物を積み込んでやってきているのだ。周囲から好奇な目で見られ始めていた。

「あの……お花…いりませんか?」

最初に声を掛けていたのは、興味を振りまいていた野次馬ではなく同年代の少女であった。
少女が手にしていたのは、栽培されて綺麗に咲いた花ではなく、その辺りに咲いてある野花であった。
アキたちは前の列から声を掛けていき、ここにくるまでの間、虫でもはらうかの様に邪険にされる様子を見ていた。

「おいくらですか?」

伏せていた顔を上げる少女。値段を聞かれたのは今日初めてだった。

「お、黄銅貨1枚です。」

顔を上げた少女の目に映ったのは、どう見ても自分と歳がそう変わらない少年だった。驚いてはいたが、反射的に言葉が漏れた。

「じゃあはい。黄銅貨1枚。」

懐から硬貨を取り出し手渡す。
とてもではないが、その花に黄銅貨1枚の価値は無かった。
それでも少女のカサカサに荒れた肌、虚ろな目、ボロボロの髪の毛。明らかに栄養が足りていないのがわかったからである。

「うえっうえっうええええん、」

突如泣き出す少女。周囲の目が一斉に向けられる。

「おいおい。泣かすなよ~」

面白がって茶化してくる詩。とりあえず馬車を移動させ列から外れ少女と話をすることにした。

「ご、ごめんなさい。初めてお花を買ってくれたから。」

泣き止んだ少女は目が紅いままだったが、事情を説明してくれた。
服飾業を営んでいた母親が体を壊し、家賃を払えずに家から追い出され寝込んだ母親や幼い弟と妹のために長女である少女が花を売っているというどこにでもありそうな話。

「お家に案内してくれるかな?」

「え!?」

「おいおい。アンタきりがないぞ?」

目に映る不幸な人間全員助けるつもりか?と聞く詩にニコッと笑って答えるだけだった。
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