俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

文字の大きさ
36 / 41
第4章 異世界開拓史

第5話 午後

しおりを挟む

☆ ☆ ☆

「そんちょ~!おはよう!」

「もう村長ではないわ!ベリアードさんと呼べ!」

「わかった~」

畑に着いた途端、これである。緊張感の欠片もない。儂らがクルト村に越して来て1カ月が経つ。ここでの暮らしは悪くない。
いや、寧ろ心地がいい。
かつてホップス子爵領の南端にあった我らが村、アス村での暮らしとは比べるまでも無い。
大森林に怯えながら、騎士や徴税官に恐怖し男たちを兵士に、食糧を税として持っていかれる。そんな毎日だった。
先ほど儂に元気よく挨拶し走り去って行った狸人族の女の子モリスも母親を流行り病で、父親を兵士に取られ亡くしている。食糧難から一時はラウ村の人々に託し見捨てようとまでした。それほどまでに儂らは限界だった。

だが、ここでは違う。
大森林に怯える日々は変わらないが、それでも以前のように柵の増設に子爵の許可など必要ない。村と畑とイネと呼ばれる植物を育てるタンボは全て柵で囲うことができ外敵からの侵入に備えることができる。
自分たちの育てた作物を自分たちで存分に味わうことができる。
こんな単純なことが堪らなく幸せである。

「作物の調子はどうですか?ベリアードさん。」

村の子供たちが遊び回っているのを傍目に見ながら、畑の様子を確認していると後ろから声を掛けられる。青い髪の少年。
1カ月前に突如村に現れたこの少年が儂らをこの村に誘ってくれた。あの伝説の白虎人族の兄でもあり、今では儂らの新しい村長じゃ。

「怖いぐらい順調ですじゃ。」

村の北に開墾した田畑は気持ち悪いほどの収穫量を生んでいる。
この村に移住して直ぐのことじゃった。

儂ら農耕班は農業に適したこの土地を見つけると直ぐに木を伐り、整地をし、開墾を開始した。
幸い、村長が買い付けて置いたという種が豊富にあった上、人手にも不足は無かった。
通常であれば2、3カ月で収穫できたであろう。
通常であれば……。

異変は直ぐに訪れた。
村長の弟君であらせられるヒュウガ殿がフヨフヨと飛んでいるかと思いきや、畑に赤い粉を撒き始めたのだ。
突然の行動に村長を含め儂らはひどく慌てた。
瞬く間に赤い粉は土に吸収され始め、儂もひどく困惑したのを今でも鮮明に思い出せる。

するとどうであろう。撒いて直ぐの種が発芽し始めたのだ。
今でこそ歓喜で迎えることができるが、当時の儂らは恐怖で叫ぶことしかできなかった。
村長も「はなさか爺さん…」などと訳のわからんことを呟いておったが。

はっはっはっは。
長いこと生きた儂じゃが、あれほど驚かされることになるとは予想外じゃ。

結局、赤い粉は魔石の粉末であったらしく、作物も数週間で収穫を終えた。
様々な考察が飛び交ったが、意見としては魔素の濃い場所では植物が早く育つのであろうと結論づけられた。確かに大森林の木々は成長も早いし、高さや幹の太さも企画外じゃ。
そう納得することにした。

流石に土が少し枯れていたので、休ませ終えた先日2回目の種植えを終えたのだ。
既に種も発芽しており、今は実験的に魔石の量を調整し収穫時期を操作できるか実験中なのだ。幸い、食糧は豊富にある。
むふふ。
人生で初めての言葉じゃ。食糧は豊富にある。

「そんちょ~、あそぼ~」

そんなことを考えておると、モリスが少年に抱き着いておった。モリスはまだ5歳。まだまだ甘えたい年頃なのであろう。じゃが、

「モリス!村長の仕事の邪魔をするでないわ!」

ここは保護者として叱るほかないであろう。心をオーガにするのじゃ。

「ベリアードさん、いいですよ。ゴロリアさんとの打ち合わせが早く終わったので。モリスちゃん、海に行って遊ぼうか?」

「うんっ!!」

2人は仲良く手を繋いで海のほうへと向かっていった。
あの少年はまだ10歳だという。正直に言ってしまえば恐ろしかった。落ち着きがあり過ぎる。とても年相応の振る舞いではない。
じゃが、人を率いることができる者とはああいう者のことをいうのじゃろう。

まだまだ儂も死ぬわけにもいかぬな。楽しみなことが多すぎるわ。

☆ ☆ ☆

クルト村では各家庭に簡単な海小屋ほどの家屋が割り当てられていたが、食事に関してはその限りでは無かった。
何せ、村人全員が開拓に全力を注いでおり、その効率を上げるため料理に関しては当番制を採用していた。1家族もしくは4~5人で村人全員約300人分の食糧を調理することとなった。
今日の夕食はアキの家族の当番である。


調理といっても量が量である。一皿ずつ配膳できるはずもなく、必然的に献立は決まってくる。今日のメニューはお米に味噌汁、そして魚のフライだ。
お米に関してはアキがホストラの商人ギルドで購入していた種籾を栽培したものだ。
ヒュウガが魔石粉を撒いたことで僅か3週間で収穫できた。
風情の欠片もないなと思っていたものだが、10年ぶりの白米である。贅沢など言ってられない。掲げられた歪んだ信念の下、アキが必死に脱穀したものである。

味噌はリリが遺したものの1つである。薬屋の床下に隠してあった。リリの日本でのおふくろの味だそうだ。今、栽培した大豆を使って目下増産計画中であった。出汁に使う魚の頭や、唯一の具のワカメは海の民の提供品である。ワカメに関しては、

「こんなゴミ引き取ってもらって寧ろ感謝ですわ。」

族長の有り難い御言葉である。魚も村人が採集した果物や野菜との交換で手に入れたもので、今日の夕食に参加してもらうことで少し多めに提供してもらっていた。

「アキ、ちょっとでいいから!先っぽだけ!」ごくり

「にいにおねがい!もうがまんできないの!」じゅるり

「じゃあ先っぽだけね~」

「「わ~~い。」」

美味しそうに魚のフライの尻尾を頬張るナディアとイズモ。どうやらネコ科の血が騒ぎだしたらしい。
そもそもこの2人は調理には一切参加を許可させておらず、味見オンリーでの参加であった。

「ふわわわああぁああ~~にゃんですかこれ、心が揺さぶられる感じがします~」

「がつがつ、もぐもぐ……、がつがつ、もぐもぐ……」

悦に浸るナディアと一心不乱に食べるイズモ。イズモに至っては一匹食べつくしてしまった。

とりあえず、米と味噌汁が受けいれられることを確認し、夕飯に臨む。
村には仕事を終えた村人らと海の民の招待客ら総勢400名ほどが集合していた。

「ふおおおおおお、こっこれは……!」

「なっつかしい味だな~」

「このスープの具。あの邪魔なゴミなのかっ!!」

「うんみゃあ~~」

皆から驚きの混じった喜びの声が上がる。作った料理人としては、これほど嬉しいものはない。

「アキさん、わたくし感動いたしましたの!あのゴミがこんなにも美味しいものに生まれ変わるなんて!是非他にもありましたらご教授くださいませ!!」

「ありがとうございます。でしたら一つ頼みたいことが……」

「???」

また一つ村の産業に新しい風が吹き込もうとしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...