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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め
第十一話:バグの森と、異変の生態系
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対馬の海岸線を離れ、亮たちは島の中心部へと続く深い原始林に足を踏み入れた。
だが、そこは亮の知る「日本の森」ではなかった。
「……なんだこれ。木が……透けてる?」
若手の兵士が、恐る恐る目の前の巨木に触れようとしたが、その指先は木の幹をすり抜けた。木々はまるで、質の悪いホログラムのようにノイズを発しながら、実体と虚像を繰り返している。
『――亮。このエリアは「データの間引き(最適化失敗)」が起きています。見た目通りの場所に物体が存在するとは限りません。……足元に注意を。地形データが欠落している箇所があります』
「……。一歩間違えたら、地面の下に落下(奈落落ち)するってことかよ。……。みんな、俺の歩いた跡を正確にトレースして歩け。……。それから、変な植物には触るな」
亮は神器(鍬)の先端を地面に当て、ソナーのように周囲の「判定」を調べながら進む。
すると、藪の中から、見たこともないほど毒々しい紫色の光を放つ草を見つけた。
「亮殿、これは……? 瑞澪の古い書物にある『神の薬草』に似ていますが、色が狂っています」
同行している兵士の一人が、腰の短刀でその草を刈り取ろうとした。
「待て! 迂闊に触るな!」
亮が止めるのと同時に、その草が「バチィッ!」と放電した。
「……あいたたた! なんだ、この草、痺れるぞ!」
『解析完了。……対象は「紫電草(しでんそう)」。本来は治癒効果のある薬草ですが、大気のバグを吸収し、過電流を帯びています。……。亮、私のフィルタを通せば、この過電流を取り除き、高純度の「回復パッチ」を精製することが可能です』
「……なるほど。バグってるなら、デバッグすればいいわけか。……。徳蔵さんに預ければ、武器の強化素材にもなりそうだな」
亮は神器を通じて、MI-Z-O(ミゾオ)の洗浄プログラムを実行した。
紫色の毒々しい光が消え、草は柔らかなエメラルドグリーンの輝きを取り戻す。
「よし。……。これ、採取しておけ。……。ギルドに戻れば、貴重な回復アイテムになる」
思わぬ収穫に、兵士たちの顔に少しだけ活気が戻る。
単なる恐怖の旅ではない。自分たちの手で「壊れた世界」から「価値あるもの」を取り出す。それが亮の提唱した「ギルド」の醍醐味だった。
だが、森の奥へ進むにつれ、トラップは凶悪さを増していく。
目の前の道が、突然「無限ループ」に陥り、何度歩いても同じ倒木の前まで戻されてしまう。
「……。MI-Z-O、座標(バイナリ)が固定されてる。……。ここ、論理的な『壁』があるぞ」
「……。亮、私に任せて」
天箱(アマノハコ)から無線(念信)を送っていた澪の声が、亮の脳内に響く。
「……その場所には、古の守護者が刻んだ『結界の韻(リズム)』が狂って残っている。……。私がここから舞うわ。……。そなたは、その波動に合わせて、神器を右へ三度、左へ一度振るいなさい」
亮は澪の指示通り、空を切るように神器を動かした。
――カラン、と。
目に見えない空間が、パズルが解けるような音を立てて開いた。
「……。通れるようになったぞ。……。サンキュ、澪」
「……。礼には及ばないわ。……。それより亮、前方を見て。……。誰か、戦っている者がいる!」
開けた視界の先。
神社の参道へ続く広場で、一人の少女が、数体の「亡霊兵士」に囲まれていた。
彼女は瑞澪の装束とは違う、異国風の意匠が混ざった革鎧を纏い、背中には大きな弓を背負っている。
「……。どきなさい! この島を汚す、腐った影ども!」
彼女が放った矢は、空中で三つに分裂し、亡霊たちの急所(核)を正確に射抜いた。
だが、亡霊はすぐに地面のノイズを吸い込み、再生を始める。
「……。くっ、……。またなの!? 殺しても殺しても、この島は私を逃してくれないの!?」
少女の肩は激しく上下し、足元には折れた矢が散乱していた。
彼女の背後には、意識を失った数人の村人たちが守られるように横たわっている。
「……。MI-Z-O、あの子は?」
『――生体反応を確認。……。名は「阿比留(あびる)・サク」。……。この島の神社の管理一族、その生き残りである可能性が100%です。……。亮、彼女を援護してください。……。彼女こそが、神社の「管理者権限」を復旧させるための最後の鍵です』
「……。言われなくても分かってる! ギルドの連中、突撃だ! あの子を助けるぞ!!」
亮は神器を構え、ノイズの渦巻く戦場へと飛び出した。
新しい仲間との出会い。
バグった自然がもたらす未知の素材。
そして、島そのものが仕掛けてくる迷宮(ロジックパズル)。
対馬というダンジョンは、まだその入り口を開けたばかりだった。
次回予告:第十二話「孤高の狩人と、失われた管理コード」
救い出した少女・サク。彼女は、瑞澪一族が没落した「あの日の真実」を別の視点から知る者だった。亮は、彼女の信頼を勝ち取り、共に神社の深部へ挑むことができるのか!?
だが、そこは亮の知る「日本の森」ではなかった。
「……なんだこれ。木が……透けてる?」
若手の兵士が、恐る恐る目の前の巨木に触れようとしたが、その指先は木の幹をすり抜けた。木々はまるで、質の悪いホログラムのようにノイズを発しながら、実体と虚像を繰り返している。
『――亮。このエリアは「データの間引き(最適化失敗)」が起きています。見た目通りの場所に物体が存在するとは限りません。……足元に注意を。地形データが欠落している箇所があります』
「……。一歩間違えたら、地面の下に落下(奈落落ち)するってことかよ。……。みんな、俺の歩いた跡を正確にトレースして歩け。……。それから、変な植物には触るな」
亮は神器(鍬)の先端を地面に当て、ソナーのように周囲の「判定」を調べながら進む。
すると、藪の中から、見たこともないほど毒々しい紫色の光を放つ草を見つけた。
「亮殿、これは……? 瑞澪の古い書物にある『神の薬草』に似ていますが、色が狂っています」
同行している兵士の一人が、腰の短刀でその草を刈り取ろうとした。
「待て! 迂闊に触るな!」
亮が止めるのと同時に、その草が「バチィッ!」と放電した。
「……あいたたた! なんだ、この草、痺れるぞ!」
『解析完了。……対象は「紫電草(しでんそう)」。本来は治癒効果のある薬草ですが、大気のバグを吸収し、過電流を帯びています。……。亮、私のフィルタを通せば、この過電流を取り除き、高純度の「回復パッチ」を精製することが可能です』
「……なるほど。バグってるなら、デバッグすればいいわけか。……。徳蔵さんに預ければ、武器の強化素材にもなりそうだな」
亮は神器を通じて、MI-Z-O(ミゾオ)の洗浄プログラムを実行した。
紫色の毒々しい光が消え、草は柔らかなエメラルドグリーンの輝きを取り戻す。
「よし。……。これ、採取しておけ。……。ギルドに戻れば、貴重な回復アイテムになる」
思わぬ収穫に、兵士たちの顔に少しだけ活気が戻る。
単なる恐怖の旅ではない。自分たちの手で「壊れた世界」から「価値あるもの」を取り出す。それが亮の提唱した「ギルド」の醍醐味だった。
だが、森の奥へ進むにつれ、トラップは凶悪さを増していく。
目の前の道が、突然「無限ループ」に陥り、何度歩いても同じ倒木の前まで戻されてしまう。
「……。MI-Z-O、座標(バイナリ)が固定されてる。……。ここ、論理的な『壁』があるぞ」
「……。亮、私に任せて」
天箱(アマノハコ)から無線(念信)を送っていた澪の声が、亮の脳内に響く。
「……その場所には、古の守護者が刻んだ『結界の韻(リズム)』が狂って残っている。……。私がここから舞うわ。……。そなたは、その波動に合わせて、神器を右へ三度、左へ一度振るいなさい」
亮は澪の指示通り、空を切るように神器を動かした。
――カラン、と。
目に見えない空間が、パズルが解けるような音を立てて開いた。
「……。通れるようになったぞ。……。サンキュ、澪」
「……。礼には及ばないわ。……。それより亮、前方を見て。……。誰か、戦っている者がいる!」
開けた視界の先。
神社の参道へ続く広場で、一人の少女が、数体の「亡霊兵士」に囲まれていた。
彼女は瑞澪の装束とは違う、異国風の意匠が混ざった革鎧を纏い、背中には大きな弓を背負っている。
「……。どきなさい! この島を汚す、腐った影ども!」
彼女が放った矢は、空中で三つに分裂し、亡霊たちの急所(核)を正確に射抜いた。
だが、亡霊はすぐに地面のノイズを吸い込み、再生を始める。
「……。くっ、……。またなの!? 殺しても殺しても、この島は私を逃してくれないの!?」
少女の肩は激しく上下し、足元には折れた矢が散乱していた。
彼女の背後には、意識を失った数人の村人たちが守られるように横たわっている。
「……。MI-Z-O、あの子は?」
『――生体反応を確認。……。名は「阿比留(あびる)・サク」。……。この島の神社の管理一族、その生き残りである可能性が100%です。……。亮、彼女を援護してください。……。彼女こそが、神社の「管理者権限」を復旧させるための最後の鍵です』
「……。言われなくても分かってる! ギルドの連中、突撃だ! あの子を助けるぞ!!」
亮は神器を構え、ノイズの渦巻く戦場へと飛び出した。
新しい仲間との出会い。
バグった自然がもたらす未知の素材。
そして、島そのものが仕掛けてくる迷宮(ロジックパズル)。
対馬というダンジョンは、まだその入り口を開けたばかりだった。
次回予告:第十二話「孤高の狩人と、失われた管理コード」
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