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縁の決戦編
持ち込まれた献上品
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ミュレアは黒牙の手を引き、その一歩後ろをタナトスが従って歩く。
通路を抜けた先にあったのは、ギルドに献上された品々を鑑定するための施設だった。
扉が開いた瞬間、空気が変わる。
広い室内には、所狭しと並べられた献上品の数々。
宝石、アクセサリー、薬品、食料品や道具の数々、見たこともない素材の塊――それらを囲むように、鑑定係の海人族たちが慌ただしく行き交っていた。
「そっちは四番倉庫に持って行ってください!」
「待って、それ触らないで!まだ鑑定終わってないよ!」
声が飛び交い、水晶板に数値が走り、魔力計測器が淡く光る。
まさに戦場のような忙しさだった。
(す、すごい……)
黒牙は圧倒され、思わずミュレアの手を強く握ってしまう。
その様子を気にも留めず、タナトスが一歩前に出た。
「ルルカ! ルルカはどこですか!?」
場違いなほど通る大声が、施設内に響き渡る。
鑑定係たちが一瞬だけ動きを止め――ミュレアたちの方へ視線を向ける。
「は、はい! はいはいはい!」
慌てた返事とともに、献上品の山の奥から一人の女性が飛び出してきた。
髪は寝起きのままのようにぼさぼさ、白衣はしわだらけで、袖には謎の染み、ぐるぐるとした分厚い眼鏡の奥で、目が忙しなく動いている。
走ってきた勢いのまま、黒牙たちの前で急停止する。
「ミュレア様! タナトスさん! ご苦労さまでありますっ!」
早口でまくしたてるように言いながら、ぺこぺこと何度も頭を下げる。
その動きは忙しなく、白衣の裾がひらひらと揺れた。
ミュレアは静かにその女性を見つめた。
タナトスはその様子に、わずかに眉をひそめ、短く息を吐く。
「……それで。例の新規出店申請者の献上品は、どこですか?」
「あーーー! 例のアレですね! アレならこちら! こちらにあります!」
ルルカはぽん、と手を打つと、くるりと踵を返した。
「こっちです! ついてきてください!」
慌ただしく歩き出すルルカの後ろを、ミュレアが進み、黒牙とタナトスが続く。
鑑定済みの献上品が並ぶ一角を抜け、少し離れた、他の品とは明らかに距離を取られた場所へ。
「あ、ここです、ここであります!」
ルルカが立ち止まり示した先、そこに置かれていたのは、三種類の献上品だった。
三つの献上品の前で足を止めたミュレアたち。
「それで……鑑定は、すでに済んでいるのですか?」
タナトスは樽と袋、箱を一つずつ見やりながら問いかけた。
「モチロンであります!」
ルルカは勢いよく背筋を伸ばし、なぜか敬礼するように手を頭へやる。
「まずこちら! 樽の中身は――魔紅果の酒であります!」
「魔紅果の酒……?」
その言葉に、タナトスはわずかに眉を寄せた。
「それは確か……魔族側で秘匿されている酒だったはずでは?」
「そうであります!」
ルルカは大きく頷く。
「市場に出回ることも、たまにありますが! それは大抵、粗悪品であります! もっとも! それでも十分おいしいでありますが!」
力強く補足するように説明する。
「しかし! こちらは別格! 香り、魔力濃度、熟成状態――どれを取っても、かなりの高品質品であります!」
タナトスは腕を組み、低く唸る。
「……ふむ。では、他の品は?」
「はいであります! 次はこちら!」
ルルカは布袋を指さした。
「こちらの袋は――ルガンディアの米であります!」
「……ルガンディア?」
その地名に、タナトスの声音がわずかに沈む。
「ルガンディアは、確かすでに壊滅した国のはず、間違いではありませんか?」
「いいえ! 正真正銘! 紛れもなくルガンディア産の米であります!」
ルルカは興奮気味に語り出す。
「宝石のように輝く艶! 一粒一粒に宿る甘みと粘り! 自分、これなら何杯でもいけるであります!」
その言葉に、タナトスは視線を横へ向けた。
献上品の脇に置かれた机。
その上には、資料――そして。
米粒の残った、お椀が乗っている。
「……食べたのですか?」
呆れを隠そうともしない声音。
「鑑定のため、実食しましたであります!」
ルルカは胸を張り、満足げな顔をした。
タナトスはこめかみに手をやり、深いため息をつく。
「……最後は?」
「はい! こちらが――ザキュロの実であります!」
木箱を指し示す。
「確か……エルフが好んで食べる果実でしたね」
タナトスは顎に手を当て、思い出すように言う。
「その通りであります! 通称――知恵の実とも呼ばれ、摂取することで集中力が増す果実であります! おかげで自分、とても頭がすっきりしているであります! こちらも市場には、なかなか出てこない希少品であります!」
もはや食べたことに言及するのもやめたタナトスは、顎に手を当ててそれらの品々を見る。
三品すべてが、ただの食料ではない。
どれも、今の情勢では入手困難な品ばかり。
ミュレアは静かにそれらを見つめていた。
「……どれも、希少かつ入手困難な品ばかりですね」
タナトスは改めて三つの献上品を見渡し、静かにそう述べた。
その隣では、ルルカが落ち着きなく、目を輝かせている。
未知や希少に触れた研究者特有の高揚――鑑定士としての本能が、抑えきれない様子だった。
だがタナトスは、あえてルルカを視界から外すようにし、ミュレアへ向き直る。
「いかがなさいますか?」
ミュレアは少しだけ思案するように目を伏せ、静かに口を開いた。
「……献上した人は、手形を発行していた」
「確かに」
タナトスはこめかみに指を当て、記憶を辿る。
「小舟の貸し出しなどを行っている店から、商会手形の申請がありました。記録に残っています」
「なら――いずれ、ギルドに戻ってくる」
「……その際に、詳細を確認する、と」
タナトスは納得したように頷いた。
ミュレアはそれ以上言葉を交わすことなく、すっと踵を返す。
そして、当たり前のように――黒牙の手を取った。
「……行こう」
小さな声で言いながら黒牙の手を引いて歩き出す。
タナトスはすぐに踵を合わせ、的確に指示を飛ばす。
「では、献上品の一部を執務室へ。残りは第七倉庫に保管してください」
「はいっ! 了解であります!」
ルルカは元気よく敬礼し、さっそく指示通りに動き始める。
鑑定品を運ぶ指示を飛ばしながら、まだ興奮の余韻が抜けきらない様子だった。
こうして――献上品は一旦、静かに管理下へと置かれる。
通路を抜けた先にあったのは、ギルドに献上された品々を鑑定するための施設だった。
扉が開いた瞬間、空気が変わる。
広い室内には、所狭しと並べられた献上品の数々。
宝石、アクセサリー、薬品、食料品や道具の数々、見たこともない素材の塊――それらを囲むように、鑑定係の海人族たちが慌ただしく行き交っていた。
「そっちは四番倉庫に持って行ってください!」
「待って、それ触らないで!まだ鑑定終わってないよ!」
声が飛び交い、水晶板に数値が走り、魔力計測器が淡く光る。
まさに戦場のような忙しさだった。
(す、すごい……)
黒牙は圧倒され、思わずミュレアの手を強く握ってしまう。
その様子を気にも留めず、タナトスが一歩前に出た。
「ルルカ! ルルカはどこですか!?」
場違いなほど通る大声が、施設内に響き渡る。
鑑定係たちが一瞬だけ動きを止め――ミュレアたちの方へ視線を向ける。
「は、はい! はいはいはい!」
慌てた返事とともに、献上品の山の奥から一人の女性が飛び出してきた。
髪は寝起きのままのようにぼさぼさ、白衣はしわだらけで、袖には謎の染み、ぐるぐるとした分厚い眼鏡の奥で、目が忙しなく動いている。
走ってきた勢いのまま、黒牙たちの前で急停止する。
「ミュレア様! タナトスさん! ご苦労さまでありますっ!」
早口でまくしたてるように言いながら、ぺこぺこと何度も頭を下げる。
その動きは忙しなく、白衣の裾がひらひらと揺れた。
ミュレアは静かにその女性を見つめた。
タナトスはその様子に、わずかに眉をひそめ、短く息を吐く。
「……それで。例の新規出店申請者の献上品は、どこですか?」
「あーーー! 例のアレですね! アレならこちら! こちらにあります!」
ルルカはぽん、と手を打つと、くるりと踵を返した。
「こっちです! ついてきてください!」
慌ただしく歩き出すルルカの後ろを、ミュレアが進み、黒牙とタナトスが続く。
鑑定済みの献上品が並ぶ一角を抜け、少し離れた、他の品とは明らかに距離を取られた場所へ。
「あ、ここです、ここであります!」
ルルカが立ち止まり示した先、そこに置かれていたのは、三種類の献上品だった。
三つの献上品の前で足を止めたミュレアたち。
「それで……鑑定は、すでに済んでいるのですか?」
タナトスは樽と袋、箱を一つずつ見やりながら問いかけた。
「モチロンであります!」
ルルカは勢いよく背筋を伸ばし、なぜか敬礼するように手を頭へやる。
「まずこちら! 樽の中身は――魔紅果の酒であります!」
「魔紅果の酒……?」
その言葉に、タナトスはわずかに眉を寄せた。
「それは確か……魔族側で秘匿されている酒だったはずでは?」
「そうであります!」
ルルカは大きく頷く。
「市場に出回ることも、たまにありますが! それは大抵、粗悪品であります! もっとも! それでも十分おいしいでありますが!」
力強く補足するように説明する。
「しかし! こちらは別格! 香り、魔力濃度、熟成状態――どれを取っても、かなりの高品質品であります!」
タナトスは腕を組み、低く唸る。
「……ふむ。では、他の品は?」
「はいであります! 次はこちら!」
ルルカは布袋を指さした。
「こちらの袋は――ルガンディアの米であります!」
「……ルガンディア?」
その地名に、タナトスの声音がわずかに沈む。
「ルガンディアは、確かすでに壊滅した国のはず、間違いではありませんか?」
「いいえ! 正真正銘! 紛れもなくルガンディア産の米であります!」
ルルカは興奮気味に語り出す。
「宝石のように輝く艶! 一粒一粒に宿る甘みと粘り! 自分、これなら何杯でもいけるであります!」
その言葉に、タナトスは視線を横へ向けた。
献上品の脇に置かれた机。
その上には、資料――そして。
米粒の残った、お椀が乗っている。
「……食べたのですか?」
呆れを隠そうともしない声音。
「鑑定のため、実食しましたであります!」
ルルカは胸を張り、満足げな顔をした。
タナトスはこめかみに手をやり、深いため息をつく。
「……最後は?」
「はい! こちらが――ザキュロの実であります!」
木箱を指し示す。
「確か……エルフが好んで食べる果実でしたね」
タナトスは顎に手を当て、思い出すように言う。
「その通りであります! 通称――知恵の実とも呼ばれ、摂取することで集中力が増す果実であります! おかげで自分、とても頭がすっきりしているであります! こちらも市場には、なかなか出てこない希少品であります!」
もはや食べたことに言及するのもやめたタナトスは、顎に手を当ててそれらの品々を見る。
三品すべてが、ただの食料ではない。
どれも、今の情勢では入手困難な品ばかり。
ミュレアは静かにそれらを見つめていた。
「……どれも、希少かつ入手困難な品ばかりですね」
タナトスは改めて三つの献上品を見渡し、静かにそう述べた。
その隣では、ルルカが落ち着きなく、目を輝かせている。
未知や希少に触れた研究者特有の高揚――鑑定士としての本能が、抑えきれない様子だった。
だがタナトスは、あえてルルカを視界から外すようにし、ミュレアへ向き直る。
「いかがなさいますか?」
ミュレアは少しだけ思案するように目を伏せ、静かに口を開いた。
「……献上した人は、手形を発行していた」
「確かに」
タナトスはこめかみに指を当て、記憶を辿る。
「小舟の貸し出しなどを行っている店から、商会手形の申請がありました。記録に残っています」
「なら――いずれ、ギルドに戻ってくる」
「……その際に、詳細を確認する、と」
タナトスは納得したように頷いた。
ミュレアはそれ以上言葉を交わすことなく、すっと踵を返す。
そして、当たり前のように――黒牙の手を取った。
「……行こう」
小さな声で言いながら黒牙の手を引いて歩き出す。
タナトスはすぐに踵を合わせ、的確に指示を飛ばす。
「では、献上品の一部を執務室へ。残りは第七倉庫に保管してください」
「はいっ! 了解であります!」
ルルカは元気よく敬礼し、さっそく指示通りに動き始める。
鑑定品を運ぶ指示を飛ばしながら、まだ興奮の余韻が抜けきらない様子だった。
こうして――献上品は一旦、静かに管理下へと置かれる。
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