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ep.12
その日の午後。離宮に響いたのは、天を突くような華やかなラッパの音だった。
やってきたのは、隣国の第三王女・ロゼッタ。彼女は豪華なドレスの裾を翻し、アルベールの制止を振り切って工房へと突入してきた。
「貴女がメルね! 噂は聞いているわ。森を消し飛ばすような剣が打てるなら、私には世界で一番可愛くて、宝石を散りばめたような『最強の護身刀』を作ってちょうだい!」
王女の無邪気な、けれど強引な依頼。
その瞬間、工房の隅にいたアルベールの背後から、目に見えるほどの「どろりとした漆黒の炎」が立ち昇った。
「…………王女殿下。今、何と言いましたか?」
彼はメルと王女の間に割り込むと、その圧倒的な体躯でメルを隠すように立ちはだかる。
「メルの時間を一分一秒たりとも、僕以外に使わせるなど断じて許さない! 今すぐお帰りください、王女殿下!」
離宮の工房に、アルベールの怒声が響き渡る。リチャードが敵軍を威圧する時のような凄まじいプレッシャーに、ロゼッタ王女は真っ青になって震えていた。
「な、なによ……! ちょっとくらい良いじゃない、ケチ!」
「ケチではない、これは僕の『信仰』の問題だ。……メル、君もこんな我儘な女の相手をしなくていい。さあ、僕たちの神聖な工房から彼女を追い出そう」
アルベールが冷徹に扉を指し示したその時、メルがアルベールの袖を、おっとりと、けれどもしっかりと引いた。
「……アルベール様。……私、実は王女様にお願いしたいことがあったんです」
「えっ……? 僕ではなく、その女にかい……?」
アルベールは、目に見えてショックを受けた顔をした。だが、メルの次の言葉で、彼の態度は180度ひっくり返ることになる。
「はい。……王女様の持っているあの『宝石』、とっても綺麗ですよね。あれをアルベール様の剣の鞘に使ったら、アルベール様の格好良さが、もっと世界中に伝わると思うんです」
「…………なんだって?」
「王女様に可愛いナイフを作ってあげる代わりに、あの希少な宝石を分けていただこうかなって。……アルベール様に、もっともっとキラキラしてほしいですから」
メルの無自覚な攻撃。
「アルベールをキラキラさせたい」というメルの純粋な願い。
「………………。ロゼッタ王女」
アルベールは一瞬で殺気を消し、完璧な淑士の礼を王女に向けた。
「いいでしょう。メルの提案通り、最高級の宝石を提供することを条件に、僕が『特別に』彼女の時間を貸し出します。ただし、一瞬でも彼女を疲れさせるようなことがあれば、その瞬間に契約破棄だ。わかったね?」
「……えぇ、ええ。わかったわよ……」
結局、アルベールは「自分のため」という理由に完全に丸め込まれた。
彼はそのままメルの横にぴたりと寄り添い、「メル、僕をキラキラさせたいなんて……君は本当に僕のことを考えてくれているんだね……!」と、今度は別の意味で熱い涙を流し始めるのだった。
やってきたのは、隣国の第三王女・ロゼッタ。彼女は豪華なドレスの裾を翻し、アルベールの制止を振り切って工房へと突入してきた。
「貴女がメルね! 噂は聞いているわ。森を消し飛ばすような剣が打てるなら、私には世界で一番可愛くて、宝石を散りばめたような『最強の護身刀』を作ってちょうだい!」
王女の無邪気な、けれど強引な依頼。
その瞬間、工房の隅にいたアルベールの背後から、目に見えるほどの「どろりとした漆黒の炎」が立ち昇った。
「…………王女殿下。今、何と言いましたか?」
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「メルの時間を一分一秒たりとも、僕以外に使わせるなど断じて許さない! 今すぐお帰りください、王女殿下!」
離宮の工房に、アルベールの怒声が響き渡る。リチャードが敵軍を威圧する時のような凄まじいプレッシャーに、ロゼッタ王女は真っ青になって震えていた。
「な、なによ……! ちょっとくらい良いじゃない、ケチ!」
「ケチではない、これは僕の『信仰』の問題だ。……メル、君もこんな我儘な女の相手をしなくていい。さあ、僕たちの神聖な工房から彼女を追い出そう」
アルベールが冷徹に扉を指し示したその時、メルがアルベールの袖を、おっとりと、けれどもしっかりと引いた。
「……アルベール様。……私、実は王女様にお願いしたいことがあったんです」
「えっ……? 僕ではなく、その女にかい……?」
アルベールは、目に見えてショックを受けた顔をした。だが、メルの次の言葉で、彼の態度は180度ひっくり返ることになる。
「はい。……王女様の持っているあの『宝石』、とっても綺麗ですよね。あれをアルベール様の剣の鞘に使ったら、アルベール様の格好良さが、もっと世界中に伝わると思うんです」
「…………なんだって?」
「王女様に可愛いナイフを作ってあげる代わりに、あの希少な宝石を分けていただこうかなって。……アルベール様に、もっともっとキラキラしてほしいですから」
メルの無自覚な攻撃。
「アルベールをキラキラさせたい」というメルの純粋な願い。
「………………。ロゼッタ王女」
アルベールは一瞬で殺気を消し、完璧な淑士の礼を王女に向けた。
「いいでしょう。メルの提案通り、最高級の宝石を提供することを条件に、僕が『特別に』彼女の時間を貸し出します。ただし、一瞬でも彼女を疲れさせるようなことがあれば、その瞬間に契約破棄だ。わかったね?」
「……えぇ、ええ。わかったわよ……」
結局、アルベールは「自分のため」という理由に完全に丸め込まれた。
彼はそのままメルの横にぴたりと寄り添い、「メル、僕をキラキラさせたいなんて……君は本当に僕のことを考えてくれているんだね……!」と、今度は別の意味で熱い涙を流し始めるのだった。
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