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前編
楽園の断罪
サンクチュアリ王国の王宮、玉座の間。深夜の静寂を切り裂いたのは、轟音と共に天井を突き破って降り立った巨大な漆黒の影であった。
伝説の黒竜が咆哮を上げ、衛兵たちが腰を抜かす中、その背から一人の男が降り立つ。燃えるような赤い瞳を宿し、黄金の魔力を全身から迸らせるゼノ・エリュシオンである。
「ゼ、ゼノ殿下!? 何の真似だ、これは宣戦布告と……」
パジャマ姿で飛び出してきたサンクチュアリ国王に対し、ゼノは手にした魔槍を無造作に突き立てた。床の石畳が爆発的な魔圧で粉砕され、王宮全体が地震のように揺れる。
「言葉を選べ、国王。貴公の管理下にあるエヴァレット伯爵家が、僕の婚約者――エリュシオンの至宝であるミアに、特殊アイテムを用いた暗殺部隊を差し向けた。これは我が国への、そして僕個人への明確な侵略行為だ」
ゼノの声は冷酷を極め、その場にいる全員の心臓を直接掴み上げるような威圧を放っていた。彼はアポロが解析した刺客の魔力記録を投影し、伯爵家が「恥を消すために殺害を命じた」証拠を白日の下に晒した。
「な……暗殺だと!? バカな、あの娘はただの不吉な影で……」
「まだ気づかないのか。貴公の国で聖なる泉が枯れ、大地が腐り始めた理由を」
ゼノが嘲笑する。
「ミアを捨てたその日から、この国を支えていた唯一の『浄化の光』は失われた。彼女がいたからこそ、貴公らは繁栄を享受できていたのだ。それをゴミと呼び、殺そうとした……。もはや、この国に彼女を語る資格はない」
ゼノは王に向かって、冷徹な最後通告を突きつけた。
「伯爵家は本日をもって全権利を剥奪し、領地は没収。一族は永久追放、あるいは死罪。……これが、ミアを泣かせた代償だ。拒むというのなら、今この瞬間、この城ごと灰にしてやろう」
国王に拒否権などなかった。最強の竜騎士の武力と、エリュシオンという大国の圧力を前に、彼は震えながら伯爵家の取り潰しを承認する書状にサインをしたのである。
その頃、伯爵とソフィアもまた、逃げ場のない絶望に叩き落とされていた。
「嘘よ! お姉様がいなきゃ私の髪が綺麗にならないなんて、そんなの嘘よ!」
ソフィアが鏡の中の、艶を失いパサついた自分の髪を掴んで叫ぶ。しかし、その背後には既にエリュシオンの特務隊が控えていた。
「エヴァレット伯爵、ならびにソフィア・エヴァレット。貴殿らを『聖女殺害未遂』および『国家反逆罪』で拘束する。……一生、日の当たらない地下牢で、自ら捨てた光の尊さを思い知るがいい」
かつてミアを閉じ込めていた地下室よりも、ずっと深く、冷たい闇が彼らを飲み込んでいった。
伝説の黒竜が咆哮を上げ、衛兵たちが腰を抜かす中、その背から一人の男が降り立つ。燃えるような赤い瞳を宿し、黄金の魔力を全身から迸らせるゼノ・エリュシオンである。
「ゼ、ゼノ殿下!? 何の真似だ、これは宣戦布告と……」
パジャマ姿で飛び出してきたサンクチュアリ国王に対し、ゼノは手にした魔槍を無造作に突き立てた。床の石畳が爆発的な魔圧で粉砕され、王宮全体が地震のように揺れる。
「言葉を選べ、国王。貴公の管理下にあるエヴァレット伯爵家が、僕の婚約者――エリュシオンの至宝であるミアに、特殊アイテムを用いた暗殺部隊を差し向けた。これは我が国への、そして僕個人への明確な侵略行為だ」
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「な……暗殺だと!? バカな、あの娘はただの不吉な影で……」
「まだ気づかないのか。貴公の国で聖なる泉が枯れ、大地が腐り始めた理由を」
ゼノが嘲笑する。
「ミアを捨てたその日から、この国を支えていた唯一の『浄化の光』は失われた。彼女がいたからこそ、貴公らは繁栄を享受できていたのだ。それをゴミと呼び、殺そうとした……。もはや、この国に彼女を語る資格はない」
ゼノは王に向かって、冷徹な最後通告を突きつけた。
「伯爵家は本日をもって全権利を剥奪し、領地は没収。一族は永久追放、あるいは死罪。……これが、ミアを泣かせた代償だ。拒むというのなら、今この瞬間、この城ごと灰にしてやろう」
国王に拒否権などなかった。最強の竜騎士の武力と、エリュシオンという大国の圧力を前に、彼は震えながら伯爵家の取り潰しを承認する書状にサインをしたのである。
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「嘘よ! お姉様がいなきゃ私の髪が綺麗にならないなんて、そんなの嘘よ!」
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「エヴァレット伯爵、ならびにソフィア・エヴァレット。貴殿らを『聖女殺害未遂』および『国家反逆罪』で拘束する。……一生、日の当たらない地下牢で、自ら捨てた光の尊さを思い知るがいい」
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