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後編
逆転の術式
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ゼノ様の執務室の隣で過ごし始めて、三日が過ぎた。
食事はすべてゼノ様と一緒に摂り、彼が会議で席を外す数時間以外、私は常に彼の視界の端に存在していた。
「……よし、準備が整ったよ。ゼノ、ミアちゃん」
扉をノックもせずに開けて入ってきたのは、銀髪を乱したアポロ様であった。彼の青い瞳は、寝不足のせいかギラギラとした魔導師特有の輝きを放っている。
「逆解析の術式だ。バルガの連中が結界に仕込んだ『魔力虫』……。あれを媒介にして、逆にバルガ帝国の魔導ネットワークを焼き切ってやる」
アポロ様は部屋の中央に浮遊する魔導書を広げ、複雑な幾何学模様を空中に投影した。
そこには、王都全体のエネルギーの回路が網の目のように映し出されていたが、そのあちこちに、黒い蜘蛛のような影がへばり付いているのが見える。
「ミアちゃん。……君の光を、少しだけ分けてもらえるかな? 敵のシステムを攻撃するんじゃない。君の純粋な『浄化』の魔力を、この結界の回路に流し込みたいんだ」
「私の光を……?」
「そう。バルガの機械は、効率を求めて魔力を圧縮している。……そこに君の、対象を『あるべき姿に戻す』原初の光が流れ込んだらどうなると思う? 彼らの機械は、過剰な浄化に耐えきれず、内側から瓦解する」
アポロ様の提案は、毒を持って毒を制するような、鮮やかな予感に満ちていた。
私はゼノ様を見た。彼は一瞬だけ心配そうに眉を寄せたが、すぐに私の決意を汲み取るように頷いた。
「……ミア。君が望むなら、やってみよう。……大丈夫だ、僕が君の身体を支えている。魔力が尽きそうになれば、僕の命を削ってでも補填してやる」
「ゼノ様。……命を削るなんて、そんな物騒なこと言わないでください」
私は少しだけ笑って、アポロ様が示した魔導陣へと歩み寄った。
ゆっくりと、手のひらを広げる。
あのお城で否定され続けた私の力。
いま、この国を守るために、そして私の居場所を奪おうとする者たちへ引導を渡すために、私は心の底から「光」を求めた。
(痛いの、痛いの、飛んでいけ――!!)
私の叫びと共に、全身から黄金の奔流が溢れ出した。
その光はアポロ様の術式を飲み込み、王都の結界を一瞬で眩い白銀の色へと塗り替えていく。
「なっ……魔力出力、測定不能!? ミア、君……!」
アポロ様の驚愕の声。
結界にへばり付いていた蜘蛛たちが、黄金の光に触れた瞬間、悲鳴のような金属音を立てて霧散していった。
光の連鎖はそれだけでは止まらない。寄生虫を通じて、攻撃の波動ははるか北のバルガ帝国へと逆流していく。
その時。王宮のはるか上空から、地を揺らすような爆発音が響いた。
バルガ帝国が王都の上空に密かに停泊させていた「隠密飛行艦」が、私の浄化の光を吸い込みすぎて、内側から発光し、崩壊を始めたのである。
「……見たかい、ゼノ。これが君の聖女様の『本気』だ」
アポロ様が震える手で眼鏡を直した。
ゼノ様は、光に包まれた私の腰を抱き寄せ、その赤い瞳を勝利の悦びに潤ませていた。
「ああ。……僕が見つけた、世界で一番美しい光だ」
上空で鉄の塊が星屑となって散っていく。
バルガ帝国の傲慢な技術が、私の「おまじない」の前に屈した瞬間であった。
しかし、光が収まったあと。
私はこれまでにない激しい眩暈に襲われ、ゼノ様の腕の中へと崩れ落ちた。
「ミア!!」
ゼノ様の絶叫。
勝利の歓喜は、一瞬にして深い不安へと塗り替えられる。
鉄の蜘蛛を払った代償は、私の想像以上に、深く私の内側を蝕んでいたのである。
食事はすべてゼノ様と一緒に摂り、彼が会議で席を外す数時間以外、私は常に彼の視界の端に存在していた。
「……よし、準備が整ったよ。ゼノ、ミアちゃん」
扉をノックもせずに開けて入ってきたのは、銀髪を乱したアポロ様であった。彼の青い瞳は、寝不足のせいかギラギラとした魔導師特有の輝きを放っている。
「逆解析の術式だ。バルガの連中が結界に仕込んだ『魔力虫』……。あれを媒介にして、逆にバルガ帝国の魔導ネットワークを焼き切ってやる」
アポロ様は部屋の中央に浮遊する魔導書を広げ、複雑な幾何学模様を空中に投影した。
そこには、王都全体のエネルギーの回路が網の目のように映し出されていたが、そのあちこちに、黒い蜘蛛のような影がへばり付いているのが見える。
「ミアちゃん。……君の光を、少しだけ分けてもらえるかな? 敵のシステムを攻撃するんじゃない。君の純粋な『浄化』の魔力を、この結界の回路に流し込みたいんだ」
「私の光を……?」
「そう。バルガの機械は、効率を求めて魔力を圧縮している。……そこに君の、対象を『あるべき姿に戻す』原初の光が流れ込んだらどうなると思う? 彼らの機械は、過剰な浄化に耐えきれず、内側から瓦解する」
アポロ様の提案は、毒を持って毒を制するような、鮮やかな予感に満ちていた。
私はゼノ様を見た。彼は一瞬だけ心配そうに眉を寄せたが、すぐに私の決意を汲み取るように頷いた。
「……ミア。君が望むなら、やってみよう。……大丈夫だ、僕が君の身体を支えている。魔力が尽きそうになれば、僕の命を削ってでも補填してやる」
「ゼノ様。……命を削るなんて、そんな物騒なこと言わないでください」
私は少しだけ笑って、アポロ様が示した魔導陣へと歩み寄った。
ゆっくりと、手のひらを広げる。
あのお城で否定され続けた私の力。
いま、この国を守るために、そして私の居場所を奪おうとする者たちへ引導を渡すために、私は心の底から「光」を求めた。
(痛いの、痛いの、飛んでいけ――!!)
私の叫びと共に、全身から黄金の奔流が溢れ出した。
その光はアポロ様の術式を飲み込み、王都の結界を一瞬で眩い白銀の色へと塗り替えていく。
「なっ……魔力出力、測定不能!? ミア、君……!」
アポロ様の驚愕の声。
結界にへばり付いていた蜘蛛たちが、黄金の光に触れた瞬間、悲鳴のような金属音を立てて霧散していった。
光の連鎖はそれだけでは止まらない。寄生虫を通じて、攻撃の波動ははるか北のバルガ帝国へと逆流していく。
その時。王宮のはるか上空から、地を揺らすような爆発音が響いた。
バルガ帝国が王都の上空に密かに停泊させていた「隠密飛行艦」が、私の浄化の光を吸い込みすぎて、内側から発光し、崩壊を始めたのである。
「……見たかい、ゼノ。これが君の聖女様の『本気』だ」
アポロ様が震える手で眼鏡を直した。
ゼノ様は、光に包まれた私の腰を抱き寄せ、その赤い瞳を勝利の悦びに潤ませていた。
「ああ。……僕が見つけた、世界で一番美しい光だ」
上空で鉄の塊が星屑となって散っていく。
バルガ帝国の傲慢な技術が、私の「おまじない」の前に屈した瞬間であった。
しかし、光が収まったあと。
私はこれまでにない激しい眩暈に襲われ、ゼノ様の腕の中へと崩れ落ちた。
「ミア!!」
ゼノ様の絶叫。
勝利の歓喜は、一瞬にして深い不安へと塗り替えられる。
鉄の蜘蛛を払った代償は、私の想像以上に、深く私の内側を蝕んでいたのである。
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