41 / 46
のこされた者
しおりを挟む
鶯王から最後に発せられた言葉は、人の名だった。
事切れて自らの意思で動けなくなった鶯王の体は、静かに血溜まりを広げていく。
カナは、シンと呼ばれた男の顔が強ばっていくのを見逃さなかった。
「なぜ、鶯王様がここに……」
崩れるように膝をつき、地面に爪を立てている。微かに震える体は、怒りからなのか、悔しさ悲しさからなのか、カナにはどうでもよかった。
おかしてしまった誤ちをとことん悔いるがいい。
カナは追い打ちをかけるように、恨みがましい言い方を選ぶ。
「避難しているところをそなた達に襲われ、私を庇ったからこんなことになった」
鶯王を死なせてしまったカナにも、大牛蟹に顔向けができぬと、自責の念が生じてはいる。でも、矢が飛んでこなければ、陛下の軍が攻め来なければ、鶯王が死ぬことはなかったのだ。
カナはシンを睨みつける。
「そなた達が、鶯王を殺したのじゃ」
「っくそ!」
シンは思い切り握った拳を地面に叩きつけた。流れ出た鶯王の血が、水溜まりに足を踏み入れたときのように勢いよく飛び散る。まだ温かい鶯王の血を浴び、シンは顔を歪めた。
「貴方の救出が目的だったのに……作戦を考え、大王に説明をして許可をもらい、やっと実行に移せたのに……なのに、なぜ……っ!」
シンのボソボソとした呟きは、しっかりカナの耳に届いている。シンの胸中に渦巻いているであろう感情は想像できるが、同情する気持ちにはなれなかった。
かといって、このまま鶯王をこちらの手に預かっておくわけにもいかない。
カナは鶯王に刺さる矢をポキリポキリと折り始めた。抜いてしまっては、そこからさらに血が吹き出してしまうだろうから。
カナの行動を不審に思ってか、シンが口を開く。
「なにをしている」
「いつまでも、このままにしておくのは可哀想。矢が長いままでは、運ぶのに邪魔であろう。抜いてしまっては、またそこから血が流れる。可哀想じゃ」
淡々と答えるカナに、シンはなにも言い返さない。周りを囲む兵達も、手を出してこようとはしなかった。
力づくで全ての矢を折り、カナはシンを一瞥する。体一つ分後ろにさがり、鶯王の亡骸と距離を置く。
「さぁ、連れて行くがよい。私にできるのは、ここまでじゃ」
立ち上がろうと足に力を込めるも、後ろに控えていた兵に肩を押さえられた。
「なんじゃ?」
睨みつけてみたが、動じる様子はない。カナを押さえるように指示を出したシンの目には、悔しさが滲み出ている。
「何卒、我が陣へ。連れ去られてからの鶯王様のことをお聞かせ願いたい」
「断る」
鶯王から母への伝言はあっても、父に対しての伝言は無かった。
このままカナが鶯王の母の元へ向かえば、託された言葉は伝えられる。わざわざ敵方の長の元へ向かう義理はない。
「そこをなんとか……お願い致します」
「ここに来てからの様子もなにも、ただ大牛蟹と話をしていただけじゃ。大牛蟹は手荒なことは一切しておらぬ。そなた達が攻めてこなければ、無傷のまま、元気な姿で再び相見えることができたであろうの」
カナの言葉に、シンは奥歯を噛み締めている。
(もう遅い。悔いたところで、鶯王は戻らぬわ)
カナは肩に置かれた手を退かし、最早これまで、と立ち上がった。
風に乗って暴れていた笹の葉は、いつの頃からか姿を消し、山霞のように煙だけが漂っている。
「どうしても、自らの意思で共に参ってはくださいませんか……?」
シンが手を掲げると、取り囲む兵達の武器がカナに向く。
「怪我をさせたくありません。素直に従っていただきたい」
「ふん、傲慢じゃの」
壁のようにグルリと囲まれては、逃げ道が無い。
不本意ながら、カナは渋々、大人しく従うことにした。
事切れて自らの意思で動けなくなった鶯王の体は、静かに血溜まりを広げていく。
カナは、シンと呼ばれた男の顔が強ばっていくのを見逃さなかった。
「なぜ、鶯王様がここに……」
崩れるように膝をつき、地面に爪を立てている。微かに震える体は、怒りからなのか、悔しさ悲しさからなのか、カナにはどうでもよかった。
おかしてしまった誤ちをとことん悔いるがいい。
カナは追い打ちをかけるように、恨みがましい言い方を選ぶ。
「避難しているところをそなた達に襲われ、私を庇ったからこんなことになった」
鶯王を死なせてしまったカナにも、大牛蟹に顔向けができぬと、自責の念が生じてはいる。でも、矢が飛んでこなければ、陛下の軍が攻め来なければ、鶯王が死ぬことはなかったのだ。
カナはシンを睨みつける。
「そなた達が、鶯王を殺したのじゃ」
「っくそ!」
シンは思い切り握った拳を地面に叩きつけた。流れ出た鶯王の血が、水溜まりに足を踏み入れたときのように勢いよく飛び散る。まだ温かい鶯王の血を浴び、シンは顔を歪めた。
「貴方の救出が目的だったのに……作戦を考え、大王に説明をして許可をもらい、やっと実行に移せたのに……なのに、なぜ……っ!」
シンのボソボソとした呟きは、しっかりカナの耳に届いている。シンの胸中に渦巻いているであろう感情は想像できるが、同情する気持ちにはなれなかった。
かといって、このまま鶯王をこちらの手に預かっておくわけにもいかない。
カナは鶯王に刺さる矢をポキリポキリと折り始めた。抜いてしまっては、そこからさらに血が吹き出してしまうだろうから。
カナの行動を不審に思ってか、シンが口を開く。
「なにをしている」
「いつまでも、このままにしておくのは可哀想。矢が長いままでは、運ぶのに邪魔であろう。抜いてしまっては、またそこから血が流れる。可哀想じゃ」
淡々と答えるカナに、シンはなにも言い返さない。周りを囲む兵達も、手を出してこようとはしなかった。
力づくで全ての矢を折り、カナはシンを一瞥する。体一つ分後ろにさがり、鶯王の亡骸と距離を置く。
「さぁ、連れて行くがよい。私にできるのは、ここまでじゃ」
立ち上がろうと足に力を込めるも、後ろに控えていた兵に肩を押さえられた。
「なんじゃ?」
睨みつけてみたが、動じる様子はない。カナを押さえるように指示を出したシンの目には、悔しさが滲み出ている。
「何卒、我が陣へ。連れ去られてからの鶯王様のことをお聞かせ願いたい」
「断る」
鶯王から母への伝言はあっても、父に対しての伝言は無かった。
このままカナが鶯王の母の元へ向かえば、託された言葉は伝えられる。わざわざ敵方の長の元へ向かう義理はない。
「そこをなんとか……お願い致します」
「ここに来てからの様子もなにも、ただ大牛蟹と話をしていただけじゃ。大牛蟹は手荒なことは一切しておらぬ。そなた達が攻めてこなければ、無傷のまま、元気な姿で再び相見えることができたであろうの」
カナの言葉に、シンは奥歯を噛み締めている。
(もう遅い。悔いたところで、鶯王は戻らぬわ)
カナは肩に置かれた手を退かし、最早これまで、と立ち上がった。
風に乗って暴れていた笹の葉は、いつの頃からか姿を消し、山霞のように煙だけが漂っている。
「どうしても、自らの意思で共に参ってはくださいませんか……?」
シンが手を掲げると、取り囲む兵達の武器がカナに向く。
「怪我をさせたくありません。素直に従っていただきたい」
「ふん、傲慢じゃの」
壁のようにグルリと囲まれては、逃げ道が無い。
不本意ながら、カナは渋々、大人しく従うことにした。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる