サンタからの手紙

佐木 呉羽

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サンタからの手紙

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 十二月になると、途端にソワソワする。
 そう、十二月二十四日の夜にやってくるサンタクロース。二十五日の朝、枕元に置いてあるプレゼント。キレイなラッピングを剥がし、中を確認するワクワク感。
 サンタクロースが届けてくれるクリスマスプレゼントには、夢と高揚感が詰まっている。
 誕生日プレゼントとは違う嬉しさだ。

「今年は、なにがもらえるかな~」

 教室の机に両肘をつき、頬に手を当てて妄想をめぐらせる。
 流行りのオモチャか、ゲームか。最近はイラストに興味があるから、そういう道具が一式揃っているセットでもいい。

「ニヤニヤしちゃって、どうしたの?」

 前の席に座るクラスメイトが、同じくニヤニヤしながら話しかけてきた。
 振り向いた反動で、ツインテールがユラリと揺れる。フリフリの襟に縁取られた丸首のブラウスに、薄ピンクのカーディガンがお嬢様な雰囲気を漂わせていた。
 私とは、立っているポジションが違う女の子。
 無視するわけにもいかないから、当たり障りのない範囲で答えることにした。

「もうすぐクリスマスでしょ? 今年はどんなプレゼントがもらえるんだろ~って」
「えっ? パパやママにお願いしてないの?」

 私は、キョトンと目を円くする。

「なんでパパとママに? クリスマスプレゼントは、サンタさんがくれるのよ」

 大真面目な私に、今度はお嬢様が目を円くした。

「えっ! なに言ってんの?」

 瞬時にお嬢様の唇は、カヌーみたいにニヤッと歪み、白い歯を見せてわらう。

「もしかして、まだサンタクロース信じてるの? 四年生なのに?」

 お嬢様の言葉に、私は言葉が続かない。

「やっぱり、サンタクロース信じてるんだ! あれね、ホントはパパとママなんだよ。私、言われたもん。サンタクロースは居ないから、クリスマスプレゼントはパパとママが買ってあげる。だから、欲しい物があったら言いなさいって」

 心の耳を私は塞ぐ。

(聞きたくない! そんなはず、ない)

 居る。サンタクロースは、居るんだ。
 そう言い返したいのに、喉が、唇が、フリーズしてしまう。フリーズしているのに、目玉だけが動揺を隠せず、救いを見つけ出そうとキョロキョロと忙しなく動いている。
 血の気が引くのとは違う、体の外側から内側に、グワッと全神経が集まってくるかのような窮屈さが襲ってきた。
 発言力が強いこのクラスメイトの前で、今一度サンタクロースは居ると主張した場合、クラス全体を巻き込んだ論争になりかねない。かと言って、今さらクリスマスプレゼントはサンタクロースがくれると言った前言を撤回することも無理だ。
 言い間違えたと取り繕うには無理があるくらい、堂々と言い返してしまった。
 お嬢様に対する反論が、全く思い浮かばない。だけど、バカにされたまま終わるのは釈然としないし、とても悔しい。

「それ、お家によるんじゃない? だってウチ、サンタさんから手紙来てるよ」

 会話に割って入ってきたのは、いつも本を手にしている、メガネをかけた男子だった。

「え~サンタクロースから手紙? それって、絶対パパやママがパソコン使って作ったヤツだよ」
「それがさ、ハガキなんだ。しかも、青のインク。万年筆で書いてあって、すんげーカッケーの」

 メガネ男子の言い分に、お嬢様は納得がいかないみたいだ。

「しかもオレ、シャンシャンって鳴るベルの音まで聞いたんだぜ」
「ウソ~! 信じらんない」
「オレも、他の人が言うなら信じてないと思うんだけど、実際この身に起きた出来事だからさ。自分の耳で聞いちゃってるんだもん」

 思わぬ援軍の登場に、泳ぎまくっていた視線がピタリと止まる。私の眼には、メガネ男子に後光が差して見えた。
 メガネ男子は私の机に突っ伏すように両腕を置くと、お嬢様と私の顔を交互に見遣る。
「あの日は忘れもしない、雪の日の昼……」と、声をひそませ語り始めた。
 声を聞き逃すまいと、私とお嬢様の顔もメガネ男子に近寄っていく。

「しかも、日曜日。日曜日の昼ね。ちょうど玄関の前を通り過ぎたら、郵便受けがカタンって鳴ってさ。見に行ったら、ミミズが這ったような英語の文章と、サンタクロースが描かれた絵葉書だったんだよ。そしたらシャンシャンって聞こえてくるから、マジか! って急いで外に飛び出したんだ。けど……誰も、居なかった」
「それ、郵便局員さん見失っただけじゃない?」

 納得がいかないというように、お嬢様は軽く頬を膨らませる。

「オレもそう思ってさ、歩いてる人とかバイクや郵便車を探して家の周り走ってみたんだけど……どこにも、誰も、居なかったんだよ」

 最後は怖い話の結末を語るかのように、メガネ男子は再び声をひそめた。
 私はメガネ男子の語り口調に聞き入ってしまい、息を詰めていたことに気づく。
 ぷはぁ! と息を吐くと、ギョッとしたようにお嬢様は私に目を向けた。

「やだ! 息止めてたの?」
「だって、なんか……真剣に聞いちゃって」
「アハハ! 分かる。なんか喋り方が引き込まれるっていうか、そういう仕事向いてるんじゃない? 将来アナウンサーとか、そういう職種になればいいよ」

 お嬢様は楽しそうに笑い、メガネ男子は満更でもないようで「そのつもり」と答えている。
 その後はサンタクロースの話に戻ることはなく、チャイムが鳴ったおかげで、場はお開きとなったのだ。

「懐かしいなぁ」

 サンタが手紙を届けにきたと語ってくれたメガネ男子が、テレビ画面の向こうで読む夕方のニュースを聞きながら、私はコーヒーを口にする。
 パートの仕事を終えて家に帰り、子供が習い事から帰って来るまでのわずかな時間が、少し息つけるひとときだ。
 マグカップを置いたテーブルの上には、サンタクロースと雪だるまのイラストが描かれたハガキが一枚。
 文房具店で購入していた万年筆風のペンを手に、私は筆記体で文字をつづる。

(メリークリスマス。いい子のアナタにプレゼントだよ)

 筆記体なら、私の筆跡だと娘にもバレないだろう。
 簡単な英文だけど、小学二年生には、このハガキ自体がときめきを与えると信じたい。

「昔の私は、メガネ男子君が話してくれてたサンタの手紙を……今度は自分が書くようになるって、夢にも思わなかっただろうなぁ」

 けっきょく、メガネ男子の家に届いたサンタクロースの手紙は、本物なのか偽物なのか分からずじまい。
 小学生の自分達には、ハガキの消印を確認するという方法が思いつかなかった。

「喜んでくれるといいけど……」

 書き終えたハガキをひっくり返す。
 宛名には、筆記体で書いた娘の名前。
 郵便受けには入れず、プレゼントと一緒に、枕元へ置くつもりだ。
 私は大人になった今でも、サンタクロースは居ると信じている。フィンランドやスウェーデンに居るし、サンタクロース協会があるということも知っている。インターネット上では、サンタクロースがどこを走っているのか追跡できるようにもなってきた。
 夜という限られた時間内に、トナカイがひくソリに乗ったサンタクロースは、日本に来ることができないだけなのだ。
 だから、その子の親が代わりを果たしているだけなんだと、私は思うことにしていた。
 いろんな家庭があるけれど、私の子供には、サンタクロースを信じられる年齢までは信じてほしい。
 サンタクロースという存在は居るのだと、信じられる子供であってほしいと、切に願うのだ。


《終》
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