わたしとおばあちゃんのあやかし語り

佐木 呉羽

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戦闘開始

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 徐々に空気が冷たくなってくる。
 ポカポカ陽気だったにもかかわらず、肌寒さが増し、陽菜はギュッと自分を抱き締めて身を縮めた。
 暗く黒い瘴気の気配が、どんどん近づいてくる。
 一人の兵が、金太郎にまさかり鉞を手渡し、義経には兜を差し出した。
 金太郎は鉞を受け取り、クルクル回しながら肩に担ぐ。義経は兜を被り、ギュッと緒を閉めた。
 義経が被っている兜のデザインは、兜飾りと少し違っていたけれど、パッと見は同じに見える。陽菜が被っていたとき、薄暗がりの中では間違えるのも無理はない。
 金太郎は、刀を構える鍾馗の隣に並ぶ。

「さァ、来やがった」
「金太郎殿、こちらは頼んだ。私は上に行ってくる」

 口早に告げ、義経は家のほうに向かって走り出す。

「おぅ、任せろや」
「頼んだぞ義経!」
「御意に」

 金太郎と鍾馗に答え、義経は兵が立て掛けた屋根まで続く梯子を登る。
 あっという間に屋根まで辿り着いた義経を見上げていると、金太郎が陽菜を呼んだ。

「お前ェ、中に入ってろィ。さっき鍾馗様達と一緒に居た部屋だ。自分家の間取りだから、一人で行けんだろ」
「でも!」

 怖いけど、見届けたい。鍾馗や金太郎が、怪我をしないか心配だ。

「でも、じゃねえ!」

 金太郎の怒声とも受け取れる大きな声に、陽菜の肩がビクリと揺れる。
 
「陽菜を守りながらだと、オレの本領が発揮できねぇのさ」

 金太郎は、凶暴な笑みを浮かべていた。血がたぎるのか、白目の端が少し血走っているように見える。
 近づいて来る小鬼達を睨みつけたまま、鍾馗は諭すような声音で陽菜を呼んだ。

「ワシからも頼む。陽菜ちゃんの身になにかあっては、責任が持てぬ」

 鍾馗にまで言われてしまっては、この場に留まることができないと、さすがの陽菜も理解している。

「……分かった」

 後ろ髪を引かれながら、この場を動きたくなくて鉛のように重くなっている足を動かす。
 縁側に腰を下ろし、足の裏についた砂や小石を手で払う。鍾馗と金太郎が陽菜を見ていないことを確認し、居間には向かわずカーテンの後ろに隠れた。カーテンから少しだけ顔を覗かせ、様子を伺う。
 金太郎は肩に担いでいた鉞をクルクルと回し、高く掲げた。

「行っくぜぇ! 野郎共ッ」
「おぉ!」

 金太郎の号令に、庭に集まっていた兵達が応じる。
 空の上から、小鬼が叫んだ。

「鍾馗~! 覚悟しろーッ!」
「覚悟するのは、お前だ」

 鍾馗は刀を顔の横で構え、イェェエエ! という気合いと共に飛び上がった。
 空中で、鍾馗と小鬼が相見あいまみえる。
 小鬼を筆頭に、有象無象が襲いかかってきた。
 まるで合戦のように、各所で武器同士が打ち乱れる音が響く。
 緊張にカーテンを握る手が固くなる。無意識に力がこもり、陽菜の手の色は白くなっていた。

「源頼光様と一緒に鬼退治をしたのは、坂田金時と名乗るこのオレ! 金太郎様のことよォ」

 オラオラオラァ! と、金太郎の手にする鉞が唸り、妖達を蹴散らし浄化していく。
 屋根からは矢の雨が、魑魅魍魎の上に降り注ぐ。
 きっと指示を出しているのは、屋根の上に立つ義経だろう。
 カーテンから顔を出し、縁側から屋根の上を見ようとした陽菜の横をシャッと矢がかすめる。

「キャッ!」

 タンッと、奥の柱に竹の矢が刺さった。

(流れ矢だ……)

 矢を掠めた頬がヒリヒリと痛い。手で触れてみると、指の腹に赤い血が付着していた。ヘナヘナと、その場にへたり込む。

「刺さんなくて、よかった……」

 命の危機に、心臓がバクバクとうるさい。
 こんな中を戦っているなんて、みんなどんな神経をしているのだろう。
 視界の端に、鍾馗が入り込む。

「あっ、鍾馗様危ない!」

 鍾馗の背後に、槍を持つあやかしが居る。
 背後を狙われた鍾馗は間一髪で交わし、横一文字に凪いだ刀で妖の首を切り落とした。
 妖達は、空から続々と降りてくる。明らかに、数は向こうのほうが上だ。勝っている。数での、圧倒的有利。
 そのうち、疲労の色が見え出して、押されていくかもしれない。
 隠れていろと言われたけど、陽菜も、なにかしたい。足でまといになるかもしれないけれど、なにかできることは無いだろうか。

「考えろー……考えろ~陽菜……」

 小鬼。妖。魑魅魍魎。瘴気。厄祓い。魔を祓うーー菖蒲。
 閃いた陽菜は居間に走り、座卓の上に置かれたままの兜を手にする。来た道を戻り、外に飛び出すと、姿勢を低くして玄関に向かって走り出した。
 玄関には、今朝、祖母と陽菜が飾ったアレがあるはずだ。アッチの世界で置いた物が影響しているかもしれないのであれば、もしかしたらあるはず。
 角を曲がると、玄関が見えてくる。

「あった!」

 ヨモギが藁で括りつけてある菖蒲の葉。祖母と一緒に、ひとつは屋根の上に投げ、ひとつは玄関先に飾っていた。
 玄関に到着し、陽菜が手にすると、ヨモギを括りつけた菖蒲の葉が輝き始める。

(なんか分かんないけど……なんか、やれそうな気がする!)

 光る菖蒲の葉を脇に挟み、源義経公モデルの兜を被る。光る甲冑が現れ、陽菜の全身を包んだ。
 菖蒲の葉を掴み直すと、青白い輝きが増す。

「私だって、助けたい!」

 陽菜の気持ちに応えるように、菖蒲の葉が、両刃の刀に変化した。
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