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第6章 神様が棲むネットショップ〈神棚〉、営業中

52.まずは、張り込み。指定場所の敷地内の蔵か倉庫には、近づかない方がいい。空ではない、と神様は言う。時間になった。母さんを試そう。

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今日は、神様と張り込みをする。

母さんからのメッセージで指定された場所を調べたら、他所様のお宅だった。

俺が、見知らぬ他人の家に行く意味が分からないよ、母さん。
もしくは、母さんに俺を呼び出させたい誰か。

俺、母さんから弁償してもらうんだよね?

犯罪に関わる人か、その関係者が住んでいる家?

本拠地に、わざわざ俺を呼ぶ?

実際に、指定された場所を見に行ってみた。

一軒家が並ぶ区画の中でも、ひときわ、大きな敷地に建っている家が、指定場所だった。

蔵なのか、倉庫なのか、住居以外にも、敷地内に建物がある。

スマホを手に、ネットショップ〈神棚〉のホームページにいる神様にも、俺と一緒に下見をしてもらった。

「志春(しはる)、蔵か倉庫には、近づかぬ方がよい。」
と神様。

「うん。招待されて、案内された先が、蔵か倉庫って、歓迎されていないと思う。
帰るよ、すぐに。」

「それが良い。蔵も倉庫も、人の住まいではなかろう。」
と神様。

「神様は、蔵か倉庫が気になる?
神様が昔棲んでいた家にあった?」

「ある家には、あった。
志春(しはる)、あの蔵か倉庫は、空ではない。」
と神様。

「分かるんだ、神様。」
ギチギチに積み上げられている、とか?

「何かしら、おるな。」
と神様。

荷物じゃなかった。

蔵か、倉庫には、人じゃない方がいるんだ?

「神様、俺、この家の敷地内に入らないで帰るかも。」

「小童は、知ってか知らずか、危ういものの隣を歩くもの。」
と神様。

早めの下見を終えて、張り込み場所の確認もした。

張り込み開始したんだけど、風体の怪しい人は通らない。

むしろ、俺が怪しい部類に入ると思う。

近すぎず、遠すぎず。

車が一台、指定場所の家の前に停まる。

母さんが、車から降りてきた。
運転席にいるのは、母さんの夫で、父さんからの評価が低かった人?

車には、子どもも同乗している?

家族で、送りに来るようなら、指定場所は、犯罪の関係者の家ではない?

指定場所の家のインターホンを鳴らして、門から入っていく母さん。

母さんは、応答を待っていない。
このお宅に行き慣れている?

母さんの味方になる人がいる場所?

俺に弁償するための金を渡すために?

目の前の事象を追っていると、考え込まずにはいられない。

現在、指定時間の約一時間前。

俺は、疲れた心身を休めるために、指定場所を離れて、広いカフェに入った。

一時間以上滞在するよていなので、最初は、ドリンクだけをオーダーして、状況により、追加する予定。

カフェで熱いコーヒーを飲むなんて、滅多にないことだから、味わおう。

指定時間を超過しても、俺が現れなければ、母さんは、どんな反応をする?

俺は、そわそわしながら、時間が過ぎるのを待った。

一分、二分、五分、十分。

指定時間を十五分経過する前に、母さんから電話がかかってきた。

母さんは、本気で、俺に来てほしいんだ。

母さんの意思か、母さん以外の人の意思か、どっち?

俺は、電話が切れるのを待った。

電話が切れた後、間髪入れずに、母さんからメッセージが飛んでくる。

「どこにいるの?」
「あと、どれくらいで着くの?」
「今、何しているの?返事は?」
「早く来なさい。」
「志春(しはる)は、遅刻するような子じゃなかった。」

俺は、増えていくメッセージを眺めていた。

母さん。
遅くなった俺の心配は、しなくなったんだ?

俺が、小学生じゃなくなったから?

違う。

俺が、母さんを失望させたから。

母さんの新しい子どもは、俺とは違って、母さんを失望させていないんだろう、と考えると、気が沈んでいく。

俺の心配はしないけれど、俺には来てほしい母さんへ、俺は、メッセージを送った。

『母さんが、俺を迎えにきてくれて、母さんが、ずっと、俺といてくれたら、母さんと一緒に行く。』

俺がしていることは、母さんを試すこと。

こんなことをしても、母さんが俺に失望したという過去は変わらない。

疎ましがって、理由も告げずに、俺を避けるばかりだった母さん。

父さん母さんと俺の三人で暮らしていたときに、母さんから、とがめられたところで、俺は、ぴんとこなかったと思う。

未だに、どのことか、よく分かっていない。

母さんに同意を求められて、同意しなかった何回かのこと?

父さんと離婚前の母さんは、俺に母さんの味方になって、父さんに意見して欲しかったんだ、と分かったけれど。

俺を味方につけたがって、味方にならない俺に失望し、俺を家族のくくりに入れることを止めた母さん。

もし、俺が母さんの味方になって、父さんに意見した結果、母さんの考えていた結末にならなかったら?

母さんは、期待通りの結果を出さなかった俺を家族のくくりに入れたままにした?

俺は、突然、母さんの情が感じられなくなったことに、わけが分からなくて、すがり方も分からなくて、辛かったよ。

今、そのときの気持ちを思い出してしまうのは、俺の感情が、まだ昇華できていないから?

俺には、一緒に待ってくれる神様がいる。

母さんは、俺に、どんな返事をくれる?
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