隣の席の老奥様〜「可愛い絵の御本をよんでいるのね。」漫画をご存知ない老奥様と私の電車時間

かざみはら まなか

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17.お見合いの始まりは、いつ?

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「葵は、何も知らなかったんだね。」
と清雅さん。

「はい。私と清雅さんは、いつからお見合いしていたんですか?」

「最初から。」
と清雅さん。

「今日の最初からですか?」

「もっと前。」
と清雅さん。

もっと、と言うと。

「定食屋での夕食をご一緒したときですか?

私は、お見合いの初戦を定食屋に指定したことになりますね。」

デザートを食べに違う店を予約しているんだと辛抱強く誘えた清雅さんの涙ぐましい努力を称えたくなった。

紳士というのは、きっと清雅さんのことをあらわすためにある言葉だ。

清雅さんは、お見合いが定食屋の一時間で終わるのは、お見合いの礼儀にかなっていないと考えてくれていそう。

漫画でしか知らないけれど、お見合いというのは、料亭でするものだから。

最初、家族と一緒にあらわれて、後で若い二人で料亭の庭を散歩するのが、定番らしい。

あれ?

定食屋で食事する話には最初から、私と清雅さんだけだった。

家族と一緒にという話はなかったな。

私が首を傾げていると。

「それよりも前。俺と葵の本当の最初から。」
と清雅さん。

いったい、いつから?

「誤解を防ぐために、清雅さんが最初としているタイミングを清雅さんから話してくれますか?」

「バスで駅に戻ってきた葵を俺が待っていたとき。」
と清雅さん。

「本当に、最初ですね。」

お見合いを料亭でするのは、漫画だけ?

現実のお見合いは、駅で待ち合わせるだけ?

立ち話をして、合わなそうなら、即、なかったことに、となる感じ?

駅で立ち話するだけなら、人目もあって、初対面でも危ないことを心配しなくていいのかな?

現実でするお見合いは、思っていたより気楽な感じなんだ。

振り袖を着たりしないんだ。

「葵は、見合い相手の俺の顔を見ようともせずに、遠巻きにしながら通り過ぎようとしていた。」
と清雅さん。

清雅さんがお見合い相手を待っている心積もりでいたなら。

私と初邂逅のときの清雅さんの反応は、まあ、そうなるよね、と思う。

あのときの私は、仲良くする気がない、と露骨に態度に出していた。

清雅さんの顔を見た、その場で解散と言い出すようなお見合い相手。

見合い相手なのに愛想の欠片もなかった私に話しかけ続けた清雅さんには、頭が下がる。

いくら私が事情を知らなかったとはいえ。

清雅さんの優しさと誠実さには、感謝しかない。

「今から、私に対する誤解をときたいと思います。

清雅さんがいたから、ではなく、人だかりだから避けました。

人だかりの中心人物を見る気もありませんでしたが。」

誤解をとこうとしたけれど、誤解ではなく、おおむね事実だったかも。

「あまりにも、さっさといなくなろうとするから、見合いする予定を忘れたか、見合いをなかったことにする気かと思った。」
と清雅さん。

正直に言うと、面倒くさいことが起こる気がして、人だかりに近付くまいと避けていた。

正直な部分は言わないでおこう。

互いに、傷付くと思う。

「清雅さんの人だかりにいた方々は、清雅さんがお見合いする相手が来ると知っていたんですか?」

人だかりの人達に囲まれてしまったから、私は、人だかりの中で清雅さんと話をした。

清雅さんに電車の中で付き添ってもらい、週一で夕食を共にするようになって、今日のランチに至っている。

「葵がお見合い相手が来ることを知っていたのは、俺だけ。」
と清雅さん。

「人だかりの人達が、私を足止めした理由は、お見合い相手とは別の理由ですか?

私は人だかりの人達の連携が見事過ぎて、逃げそびれたんですが。」

「葵を待っている間、顔見知りが次々に誘ってくるから、祖母から頼まれている待ち人が来て、安全に送り届ける約束を祖母としている、と話しているうちに、あの人数にまで広がった。」
と清雅さん。

「清雅さんは、顔と名前が知られているんでしたね。」

電車の中で、この路線では、顔が利くと話していた清雅さん。

二言三言話しただけで人だかりができる日常が、有名人。

「あのときの人だかりに統率がとれていたのは、俺がこれから付き添う相手が祖母が決めた相手だと知れ渡ったから。」
と清雅さん。

ということは。

「奥様は、顔も名前も知れ渡っている有名人の清雅さん以上に、有名人なんですか?」

「祖母の顔と名前を知らない人は、あのあたりにはいない。」
と清雅さん。

「奥様は、不審者に睨みをきかせて、私に近寄らせないことができるだけの実力者だったんですか。」

奥様は何をして、泣く子も黙るような実力者になられたのか。

清雅さんの有名人になった経緯よりも、奥様が実力者になった経緯の方が断然気になる。

後で清雅さんに聞いてみたい。

教えてもらえるかな?

「祖母は、そう、実力者にはなるのか。」
と清雅さん。

老奥様を話題に出したら、清雅さんの歯切れが悪くなった。

老奥様について、清雅さんに聞くのは止めよう。

情報の解禁先が、家族と地元民限定なのかもしれない。

限定の情報を解禁するほどの信用をご家庭から得られたときに、奥様から私に連絡がくるのかもしれない。

「奥様から、私と見合いするように言われて。

清雅さんは、私との待ち合わせ場所に来た、ということでよいですか?」

奥様が、清雅さんと私のお見合いの場を設定したことになるよね?

「祖母からは、会ってみてほしい年ごろの女性を紹介するから、待ち合わせにいって、地元民ではないその女性を安全な場所まで送り届けることを仰せつかった。」
と清雅さん。

「その段階だと、奥様は紹介しただけな気がします。

お見合いというほどの重みはありませんよね?」

清雅さんの勘違い?

「紹介した女性と紹介されただけで終わるのか、お見合いとして先に進めるかどうかの判断は、俺に任されている。」
と清雅さん。

紹介からお見合いへのルートが清雅さんと老奥様の間で確立していたから、清雅さんは、お見合いのつもりで私との待ち合わせ場所に来た、と。

老奥様と清雅さんには、お見合いの段取りに対する共通認識があった。

私には、その認識が共有されていなかった。

「奥様は、孫息子の気持ちと自主性を尊重されたんですね。」

奥様が私に知らせなかったのは、取り繕っていない状態の私を孫息子に見せようとしたから?

奥様には、私の素の部分をさらけ出していた。

素の部分の私を見て、孫息子に紹介した奥様。

私が、孫息子の清雅さんにどんな態度に出たかを奥様がご承知になったら?

どうしよう。

私、奥様に幻滅されているんじゃ。

私についてどんな話を清雅さんが奥様にするのか、したのか、心配になってきた。

「俺は、祖母が紹介してきた女性を好ましいと思い、お見合いまで俺の判断で進めることにした。」
と清雅さん。

清雅さんは、私のことを好ましいと思っている?

お見合いの話から進みすぎていない?

この後、私は清雅さんとどう会話したらいい?
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