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第3章 混じり気のない黒は、濁りのない白と同じくらい純粋で強烈。だから、惹きつけられる。

55.お父さんと私は、孫息子と祖母に見えるようになった。医者の終わりは、医者にとって、良いものに。私は、人生を賭けた決断をしよう。

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私とお父さんが一緒にいると、お祖母ちゃんと孫息子に見えるようになった。

私が、お父さんを『お父さん』と呼ぶと、お父さんは、孝行者に見えるらしく、私とお父さんは微笑ましく見守られている。

私とお父さんが住んでいた家の近所は、売り買いされて入れ替わっている。

私の子ども時代を知る人も、お父さんの昔を知る人も、もう近所にはいない。

今の私は、気温の変化に体も頭もついていけない。

寒いから暖房をつけるという考えを自分で思いつけなくなってきた。

ゴミの日などの生活パターンは、お母さんがいて、私がしっかりしていたときに、お父さんの伝授したので、今のところは、困っていない。

若い見た目のお父さんの助けがないと、今の私の日常生活はままならないのだ。

そして、お父さんは、思考の一部を欠いたまま。

私が頭脳になれている間は、私とお父さんは、生活できているけれど。

私の頭脳が、あやしくなってきたら、お父さんに、私を止めたり、私を導いたりすることは難しい。

頭を握り潰したがる医者は、お父さんにとっての創造主という縛りがあった。

お父さんは、創造主である医者を生かすために、介護していた。

お父さんが医者にしたことと同じことを、私にしてくれると期待してはいけない。

私が決断できるうちが、私の人生の、仕舞いどき。

若返った見た目になって、思考の一部を欠いたお父さんと生きると決めたのは私。

私は、一生、お父さんと一緒に暮らしたかった。

お父さんと一緒に暮らすために、無理を通したこともある。

お父さんは、私が一緒にいてほしいというから、私といる。

私が寿命を迎えたとき。

お父さんに、もう好きに生きていいよ、なんて残酷なことは言わない。

お父さんの居場所は、私とお父さんと大きな口で暮らしている、この家だけ。

私は、家族と一緒にいられなかった時間の反動で、徘徊した医者の姿を見ている。

私がいなくなった後のお父さんの状態は、きっと医者よりもひどくなる。

私の頭がしっかり動いているうちに。

私の命が尽きる前に。

私は、今日、決断する。

罪を重ねる決断を。

大きな口は、医者に医者の家族が振り回される様子を見に行っては、しょっちゅう私に聞かせてくれた。

頭を握り潰したがる医者は、家族との有意義な時間を過ごしてから、医者の妻を誘って彼岸へと旅立った。

医者の妻は、頭を握り潰したがる医者に会うと、意識が覚醒するらしく、医者が老健にいる日は、毎回、妻の絶叫が響いた。

『どうして、いるの?いやあ、化けてでてきたの?来ないで、帰って!』
とひとしきり騒ぐと、妻の頭がはっきりしてくるんだとか。

医者が話しかけると、医者の妻は、あれやこれや、言い訳を喋り続ける体力がつき、結果的に大往生した。

医者は、自分の存在で妻を元気にできて嬉しい、夫冥利に尽きる、と最後まで喜んでいた、と大きな口が教えてくれた。

医者の人生の終わりが、満足のいく結果になって良かった。

私は、人生の終わりが見えても、心の黒さに変化はない、と大きな口は、毎日楽しそう。

医者の施術が成功したのは、医者とお父さんの二人だけだった。

大きな口好みの、何かを乗り越えて、貫き通す意思は希少だったんだね。

大きな口は、美食家だよ。

私のお父さんの一部を美味しい喰ったんだから、美食家以外を名乗るのは、認めない。


私は、今、布団の中にいる。

今日の私は、布団の住人。

お父さんは、私が寝ている布団の枕元に座っている。

大きな口は、お父さんと、並んで、私のお腹の横あたりにいる。

今から、私は、お父さんと大きな口に、私の決断について話すことにした。

「医者の施術を受けたお父さんが、元気で長生きできたのは、私と大きな口と、ずっと一緒だったからだね。」

私が大きな口とお父さんに話しかけると。

大きな口は、ケハケハと、機嫌よく笑った。

大きな口の中は、底が見えない。

歯はある。舌はない。

「うん。お父さんは、きーちゃんと一緒にいられて良かった。」
と微笑むお父さん。

お父さん。
お父さんが家の中にいて、私に笑いかけてくれている暮らしを続けることができて、私は幸せだったよ。

お父さんがいなかったら、今の私はいないよ。

だから、お願いがあるの。

お父さん。

私は、最後まで、お父さんのきーちゃんでいたい。

お父さんは、これからも、私のお父さんでいてほしいから。

だからね、お父さん。

これから、少なくとも一つは罪を犯す私の、永遠の共犯者になってくれる?
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